シャーデンフロイデ
人の不幸を喜ぶ私たちの闇
澤田 匡人
成功して天狗になっているように見えた人が,自らのミスで招いた窮地に喘いでいるらしい。そんな話を見聞きしたら,皆さんはどう思うだろうか。ともすれば,「ざまをみろ」と言わんばかりに心を弾ませてしまうかもしれない。このような感情は,「害」と「喜び」を意味するドイツ語から「シャーデンフロイデ」と呼ばれ,近年,心理学や認知神経科学の研究対象として注目を浴びている。
本書は,シャーデンフロイデと妬みに関する実証研究のパイオニアで社会心理学者のリチャード・ハリー・スミスによる一般書The Joy of Pain: Schadenfreude and the dark side of human natureの全訳である。副題の通り,他者の不幸に快哉を叫ぶ私たちの闇(ダークサイド)を学術的な視点から照らし出そうとするスミスは,アニメや映画,時事問題を織り交ぜつつ,シャーデンフロイデの恐ろしさだけではなく,その身近さをも読者に訴える。本書から,シャーデンフロイデという感情の奥深さを感じ取ってもらえるなら,訳者としては「害の喜び」ならぬ望外の喜びである。
アクションリサーチ・イン・アクション
共同当事者・時間・データ
矢守 克也
「イン・アクション」は,行動中,作動中という意味です。アクションリサーチは常時動いており,現場を動かしながら考える,考えながら現場を動かすという基本姿勢が,そこに表現されています。だから,常に変化しているアクションリサーチについて書くことは,矛盾や葛藤を含んだ行為です。川にとっては流れていることが本質要件ですが,書くことは,それを堰き止めるのと同じことだからです。他方で,書くことの効用もあります。筆者にとって特に大事なのは,書くことが,自分がしていることに対する「自信と確信」をもたらしてくれるという効果です。「手応えがあった,確信をもった」という感覚は,一見,その渦中にあって,それに没入している最中に得られるように思えます。しかし,実際には,真の「自信と確信」は,その没頭・夢中に対して小さな「距離」を置いたときにもたらされます。アクションリサーチャーとしての私にとって,書物を書くことは,その「距離」に相当します。本書を通して,この感覚を読者と共有できれば幸せです。
ワードマップ 心の哲学
新時代の心の科学をめぐる哲学の問い
信原 幸弘
人工知能は心をもつようになるのだろうか。自閉症の人には世界がどのように立ち現われているのだろうか。心をめぐる問いは深淵かつ多彩になってきている。このような時代にあって,そもそも心とは何かを根源的に理解しておくことはきわめて重要である。心は身体とどう関係するのか(心身問題),心はどのようにして世界を表象するのか(志向性の問題),意識と無意識はどう違うのか(意識ないしクオリアの問題)。これらはたんに心の哲学の基本問題であるだけでなく,現代における心のさまざまな謎を解き明かす必須の基盤である。本書はこのような心の哲学の基本問題に関わる用語を多数取り上げるともに,最近の心の哲学の戦線拡大に合わせて,人工知能の哲学や精神医学の哲学,倫理学,美学に関わる用語もかなり取り上げた。フレーム問題,妄想,徳,美的経験などである。これらの用語の理解は現代における心の謎を考察するうえで直接的に役立つはずだ。本書によって,複雑・多様化する心の世界を的確に理解するための良き羅針盤が得られるだろう。
「サードエイジ」をどう生きるか
シニアと拓く高齢先端社会
片桐 恵子
超高齢国日本は,諸国の先陣を切って高齢化に伴う様々な問題に直面している。経済ではかつての精彩を失ったものの,この分野では世界一の位置は当面揺るがない。日本でのうまい対処や施策は世界中で注目される。高齢化というと悲観的な面ばかり注目されるが,頑張れば強みにもなるということが本書の主張の一つである。
さらにその実現にはサードエイジ(定年期から身体が元気な頃)の活躍が大きくかかわっている。体力や認知能力,気持ちも若返り,潜在能力も高い彼らだが,現実では何をすべきか戸惑う人も多い。定年後に生きる時間がこれほど伸びたのはつい最近のことで,範となるモデルもなく,行政の彼らの活躍への期待は大きいが,企業は及び腰である。法律の改正もあり,60歳代に就業する人は増加しているが,仕事の内容や労働条件は現役とは異なりもはや生きがいとはなりえない。サードエイジに就業以外に幅広い選択肢があり得ること,活躍の場が彼らを待っており,その活躍がこれからの日本の行く末を左右するのだということを理解いただければと願う。
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