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私の出前授業

高校生のための心理学講座@札幌

富家 直明
北海道医療大学心理科学部 教授

富家 直明(とみいえ ただあき)

Profile─富家 直明
早稲田大学大学院人間科学研究科修士課程修了。東北大学大学院医学系研究科博士後期課程修了。宮崎大学教育文化学部を経て,北海道医療大学心理科学部に着任。同大学臨床心理学科長。専門は臨床心理学。著訳書は『心理療法の交差点』(共著,新曜社),『認知行動療法事典』(監訳,日本評論社)など。論文は『ダイエットに関する非機能的信念を測定する尺度の開発:大学生を対象とした信頼性・妥当性の検証』(共著,Campus Health),『The Beck Diet Programに基づく集団認知療法の有効性の検討』(共著,行動科学)など。

2018年9月22日,北海道医療大学札幌サテライトキャンパスにおいて高校生のための心理学講座@札幌が開催された。来場者は高校生,教諭,保護者合わせて57名。以下に,当日の講義の概要を高校生たちに混ざって一緒に受講した,「私なりの」リポートを記していきたいと思う。

「学習心理学入門」(北海道医療大学・漆原宏次教授)

学習心理学は,ヒトや動物の行動がどのように変わるか,行動をどうすれば変えることができるかを扱う心理学の一分野であると説明したうえで,馴化,古典的条件づけ(パブロフ型条件づけ),オペラント条件づけ(道具的条件づけ),観察学習,洞察学習,概念学習,問題解決などの専門用語の解説がなされた。

さらに,ヒトを含む生物の行動を司るルールと,身近な応用・活用方法について,豊富な例題が紹介された。なぜテレビコマーシャルにアイドルタレントが起用されるのか,上手なペットのしつけとはどのようなものかなど,参加者は,学習心理学の応用の裾野の広さを知るとともに,その精緻な理論体系の存在にひきこまれたと思う。

「人と動物の関係学入門」(酪農学園大学・山田弘司教授)

人と動物の関係学という,人と動物が接することによる,人と動物両方への情緒的,身体的な影響についての心理学的研究をわかりやすく紹介することを目的とした講義であり,はじめにアニマルセラピーの効果に関する研究の例が紹介された。人と動物の触れ合いに癒し効果があるかどうかを,ヒツジとヤギを用いて実験的に検証した講師自らの研究である。私はヒツジとヤギは似たような動物だと思っていたが,比較してみるとヤギ人気の圧勝で,「接近のしやすさ」の主要項目群がヒツジの2倍であった他,接触体験後に「穏やか」で「攻撃的でない」といった印象が大きくアップし,また「きれい」で,「臭くない」といった,実験参加者のヤギに対する衛生面での接近のしやすさがみられたという。

さらに,SDS(自己評価性抑うつ尺度)とSTAI(状態−特性不安尺度)は接触前から接触後に有意に下降した。また,乗馬による緊張緩和効果の研究を紹介し,生理指標を用いた心理的緊張緩和効果の測定方法を解説し,受講生は実際に測定に用いたセンサーを体験させてもらう。また,最近は小学校などで動物を飼育しなくなったが,小動物の飼育クラスと非飼育クラスを比較したところ,子どもたちの規範遵守目標や社会的責任目標が好転したというデータの紹介などもあった。

「社会心理学入門」(北海道医療大学・真島理恵講師)

社会心理学は,社会の中で働く心の性質や社会現象を研究の焦点とする幅広い内容を含む分野であるが,この講義では,社会的影響,社会的促進と社会的抑制,社会的手抜きを取り上げ,それぞれの代表的な実験を紹介しながら解説を進めていった。社会的促進とは他者が存在することで,ある行動の効率が上がることであり,社会的抑制・社会的手抜きとは,他者が存在することで,ある行動の効率が下がることである。

はじめに,「一人きりでやる作業とまわりに他人がいる状況でやる作業ではどちらの効率が良いか?」というテーマを設定して,身近な具体例を受講生とともにあげていく。「1人で食事するよりも友人と食べるときのほうがたくさんの量を食べてしまう」,「チームで協力しあったことで,やる気が高まり,いっそう力を発揮できた」,「1人なら1時間で終わる作業なので,4人なら15分でおわると思ったら30分もかかってしまった」,「1人のときは落ち着いて解けた問題が,まわりに人がいると気になって解けなくなってしまう」などなど。

その後,実験を用いて理論を体系化する研究の手法に触れ,ザイアンスの動因説,ハントとヒラリーの迷路課題の実験,ラタネらの社会的手抜きの実験などの詳細な解説が,高校生たちを興奮させていた。

「臨床心理学入門」(北海道医療大学・富家直明教授)

私自身の講義であるので手短かに振り返りたい。私は心理療法の一つである認知行動療法をテーマに選んだ。認知行動療法の概要を説明するとともに,人間の考え方や行動を修正することでストレスに対処する力を向上させる効果があるということを具体例とともに強調した。また高校生が遭遇しそうなメンタルヘルスの諸問題を取り上げ,その予防や解決のために日常生活ですぐに使える認知行動療法のテクニックを紹介した。実用性の高い技法の取り入れに関心を抱いてもらえただけでなく,クラスで良き相談者になる意欲を高めてくれたと思う。

「教育心理学入門」(北海道教育大学・JSNS認定交渉アナリスト補・臨床心理士・益子洋人准教授)

統合的葛藤解決スキルに絞った講義であった。学校現場でよく見かけるいじめやいじめにつながる生徒同士の対人トラブルを例に取り上げ,どうしたら「もめごと解決力」が育つか,また,わだかまりを引きずらない解決方法は何かについて,実践的な知識やスキルとともに解説がなされた。

たとえば,付き合っている男女がいる。社会科の授業でペアになって外国の文化に関する調べ学習を行う。Aさんはアメリカについて調べたいという。Bさんは中国について調べたいという。どうしたらいいか。しくじるともめごとになる。もめごととは「個人の行動,感情,思考の過程が他者に阻害されている状態」(Kelley, 1987)である。二重関心モデルによれば,もめごとの解決方法は服従,妥協,回避,支配,統合である。講義の本題である統合的葛藤解決スキルは「自分の怒りに振り回されないスキル」「相手と話し合いたいと伝えるスキル」「相手の話を聴くスキル」「相手の潜在的な希望を理解するスキル」「丁寧な自己表現を行うスキル」である。それぞれが非常に具体的かつすぐに使える技法として,エピソードや実演などを交えて説明された。

受講者の事後アンケートはどれも好評であった。はじめは臨床系に興味を持っていたという人は基礎系に関心が広がり,基礎系の話に期待していたという人は臨床の話に関心を移していたのが興味深い。また参加した高校の先生方のすべてが,聞いて良かった,日常の業務に応用できる!と書いてくださっていた。学校だけでなく,あらゆる業界においても心理学の知識は役に立つだろうと思う。企画者としてはこの上ない喜びであり,大満足の一日でした。

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