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【特集】

保育者養成校における心理学教育の役割

大神 優子
和洋女子大学こども発達学科 准教授

大神 優子(おおがみ ゆうこ)

Profile─大神 優子
2007年,お茶の水女子大学大学院博士課程修了。博士(人文科学)。保育士(試験で取得)。2008年,和洋女子大学専任講師。2013年より現職。2016年12月〜2018年3月,保育士養成課程等検討会ワーキンググループ構成員。専門は発達心理学。著書は『大学1・2年生のためのすぐわかる心理学』(共著,東京図書),『Gakken保育Books 3つのカベをのりこえる!保育実習リアルガイド:不安 日誌 指導案』(分担執筆,学研教育みらい)など。

心理学=大事だけど難しい?

幼稚園教諭や保育士をはじめとする保育者養成校(以下,養成校)では,年間を通じて実習がある。養成校の教員として実習先にうかがう際,担当科目を尋ねられることがある。発達心理学等ですと答えると,「心理学!難しいのがご専門なんですね。でも大事ですよね。学生の時はさっぱりわからなかったけれど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・,現場に出ると,発達理解の重要性を痛感しています」というような反応を返されて苦笑することが多い。

この「重要だとは思うけれど難しい」または「面白いけれど実習や保育にどうつながるかわからない」あたりが,養成校で心理学を担当する教員がよく向けられるものではないだろうか。

保育者養成課程たちあげのタイミングで大学教員をスタートして10年が過ぎた。その間,法令改正や大学の改組が続き,毎年のようにカリキュラムの変更作業に従事してきた。さらに,平成29(2017)年告示の保育所保育指針の改定を踏まえた今回の保育士養成課程等の見直しでは,ワーキンググループ1の末席にお邪魔する羽目にもなった。この特集にお声がけいただいたのもこのご縁なので,未だ試行錯誤している身ではあるが,カリキュラムを手がかりに心理学教育の役割を考えてみたい。

「保育の心理学」ができるまで・できてから

表1 保育士試験における「○○心理学」の変遷
表1 保育士試験における「○○心理学」の変遷

心理学出身の教員が養成校で担当する科目は教員の専門にもよるが,「保育の心理学」をはじめ「保育内容(人間関係)」や「障害児保育」など多岐にわたる。本稿では,保育士試験2で「○○心理学」に対応するものを中心にみていく。

保育士養成課程はこれまでに何度か修正され,それに伴い保育士試験科目も変更されてきた。表1に近年の変更を示す。2013年度試験で登場した「保育の」心理学は,それ以前の発達心理学・教育心理学という伝統的な心理学の分野を統合して設定された(詳細はH21〜H25(2009〜2013)の保育士養成課程等検討会)。これがさらに新カリキュラム(2019年度入学生から適用)では,「子ども家庭支援の」心理学という新名称が登場し,「心理学」という単語は含まない「子どもの理解と援助」と合わせ,養成課程での3科目が「保育の心理学」の内容となった。

新名称については,ベースとなった科目との関係を把握しておくとわかりやすい。図1に再編の概要を示した。

図1 保育士養成課程の見直しに伴う「教授内容の再編等(主なもの)」
図1 保育士養成課程の見直しに伴う「教授内容の再編等(主なもの)」(報告書より。赤枠は筆者による追加)

保育士の養成課程は2年制も多く,また,学生の多くは幼稚園の教員免許と合わせて取得する。そのため,必要単位数は増やさずに教授内容を充実させる必要があった。見直しでは,強化する部分を検討すると同時に,各教科の教授内容の統合が行われた(例:「子どもの保健」の発達部分を心理学科目に集約)。また,やや関係が複雑になるが,「家庭支援論」「保育相談支援」「相談援助」の相談系科目が整理され,その内容の一部も心理学に組み込まれた。

結果として,「保育の心理学Ⅰ・Ⅱ」の後継科目は3科目となった。様々な経緯を経て新科目名まで誕生したが,養成課程における「心理学」の必要性は変わらず,むしろ,より強化されたと解釈できるかもしれない。

何を教えるか─心理学教育への要望

表2 保育の心理学Ⅰ・Ⅱの後継3科目の目標及び内容
表2 保育の心理学Ⅰ・Ⅱの後継3科目の目標及び内容

表2に,前述の3科目の目標と内容を示した。科目の再編を反映して変更部分(下線部)が多い。内容も,子どもの発達を中心として,それを支える家庭や保育環境までと幅広い。

その中でも,科目「子どもの理解と援助」に含まれる内容「子どもを理解する方法」は,他科目にはない心理学科目の特徴といえる。保育の中では,発達の見通しなどの時間軸を含め,膨大な情報処理が行われている。これらの情報に基づく保育者自身の感覚や判断を,どのように自覚し他者と共有するかは,中長期的にその専門性を向上させていくことが求められている保育者に必須の部分であり,心理学が貢献できる部分であろう。

なお,心理学に「保育実践」との関連づけを求める傾向はさらに強まっている。表3にその一部を示した。「保育の心理学Ⅰ」では知識の習得や理解に留まっていた部分が,見直し後は「心理学的知識を踏まえ〜」とさらにその先まで具体化されている。

つまり,養成課程における心理学教育としては,心理学の知識や理解だけでは不十分で,それらを保育の文脈のなかでどう活かせるかまでつなぐ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ことが求められているといえる。

表3 新旧保育の心理学の「目標」の比較(1科目のみ抜粋)
表3 新旧保育の心理学の「目標」の比較(1科目のみ抜粋)

いつ・どのように教えるか─体験を踏まえて繰り返し

「保育の心理学」は1年次科目に配置されることが多く,保育原理等と並んで,専門としての最初の枠組み作りを担っている。この枠組みを実際の保育の文脈までつなぐ手段の一つとして,本稿では,養成校ならではの体験を踏まえた繰り返し(復習)をとりあげたい。

写真1は筆者が勤務する和洋女子大学こども発達学科における学内ワークショップの様子である。「KAPLAⓇブロック」とよばれる小さな木片は年齢や使用量によって様々な遊びが可能であり,保育や教育の現場で多く導入されている(冨安,2008)。学生たちがあれこれ挑戦する中,保育現場でのエピソードとして,子どもが平たく並べていく隣で担任がさりげなく木片を立てる積み方をしたことが紹介された。友人の積み方を真似てみたり,どのように積まれているのか観察したりの最中だった学生にとって,担任の行為の意図やその効果は,すぐイメージできたようである。

座学の中に事例や映像を取り入れている教員は多いが,自分の授業以外でも学生がこのような体験をしていたことを知っていれば,以前の授業で学んだ発達の最近接領域や友達との協力,微細運動の発達などについて振り返る機会とすることが可能である。

復習の機会は在学中に限らない。「ままごと」は模倣や見立て,遊びの発達等様々な単元でとりあげられる題材である。1年生では自分の幼少期の体験と,上級生では実習園での体験と結びつけることができる。実習園でのままごとセットや子どもの様子がわかるととらえ方が変化すると思われるが,さらに保育者でも新たな視点がある(伊瀬,2018)。具体的には,異なる年齢クラスですべて同じままごとセットでよいか,1・2歳児クラスで,子どもたちにはなじみの薄いハンバーガーやソフトクリームがセットに入っていてよいか,などである。在学中にここまで気づくことは難しいが,ままごと自体を楽しむ子どもの内面の理解,保育者として整備する保育環境の教材,いずれもすでに表2の科目内容に含まれている。

心理学の知識は,入学直後の導入から卒業後の保育内容まで随所に関わる。しかし,学問としての教授内容と,学生の経験や保育現場が乖離している場合は,学生自身が関連づけることが難しい。カリキュラム内の位置(他科目との関係),実習や体験との連続性を踏まえて,その後の「保育」までつなげるよう,授業以外でもせっせと関連づけていきたいものである。

写真1 ワークショップの様子
写真1 ワークショップの様子

写真1 ワークショップの様子

おわりに─今後に向けて

ある園長先生に「あなたは実習生と保育者(の卵),どちらを育てているのか」と問われたことがある。日誌の書き方や手遊び等の保育技術も大事だが,それらは現場で育てていけるもので,養成校ではむしろ,子どもを見る視点や発達についてきちんと教えるように,というご指摘であった。

今回の養成課程の見直しでも,実践力を高めるために,理論的な背景や基礎は必須とされている。例えば,今回強化された乳児保育では,演習に加えて講義科目が追加された。

心理学は,実践力につながる包括的知識の基盤として必要不可欠なものと位置づけられる。担当教員の専門にもよるが,子ども,保護者,保育者自身(保育者の卵としての青年期の学生を含む)のそれぞれにアプローチが可能である。

養成校では,実習訪問や研修など,保育者となった卒業生と再会する機会が多い。養成段階で教えたことが,その後どのように現場での学びを経て活用されているか(または忘れられているか)のフィードバックが随時ある。この恐ろしくもありがたい資源を活かして,心理学教育の役割を引き続き考えていきたい。

  • 1 厚生労働省による「保育士養成課程等検討会」(座長 汐見稔幸氏)の下に設置された。詳細は厚生労働省HP「保育士養成課程等検討会(平成27年6月から)」参照。
  • 2 保育士資格は,保育士養成課程以外に,保育士試験(筆記試験及び実技試験)でも取得することができる。

文献

  • 保育士養成課程等検討会(2017)保育士養成課程等の見直しについて(検討の整理)[報告書] https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000189068.html
  • 伊瀬玲奈(2018)『「あたりまえ」を見直したら保育はもっとよくなる!:0.1.2歳児保育:足立区立園の保育の質が上がってきた理由』学研教育みらい
  • 冨安智子(2008)『フランス生まれのかぷらカプラKAPLA:1枚の板から広がるそうぞうの世界』トロル出版部/筒井書房(発売)

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