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ここでも活きてる心理学

意思ではなく行動を変える

株式会社MillReef コンサルタント

八重樫勇介(やえがし ゆうすけ)

Profile─八重樫勇介
2018年,北海道医療大学心理科学部臨床心理学科卒業。同年に株式会社MillReef入社。組織・人事コンサルタントとして,応用行動分析学の知見を基に,研修やコンサルテーションを行っている。

ビジネスと実践研究の両立のため,日々奮闘しています
ビジネスと実践研究の両立のため,日々奮闘しています

私は企業向けに応用行動分析学(以下ABA)に基づいた組織・人事コンサルティングを行っています。この学問の特徴は,行動の原因を個人の内面に求めないことです。例えば,「報連相」(報告・連絡・相談)をしない部下を見て「やる気がないからしない」と考えるのはABA的ではありません。このように,人の内面を原因にしてしまう最大の問題は問題解決に繋がらないことです。先の例で,やる気の無さを原因に,「やる気を上げろ」と言っても具体的に何をすれば良いのか全くわかりません。もっと言えば,やる気が変化したかどうかはわかりませんし,仮に本当にやる気という内面の変化があったとしても,報連相をする行動に変化がなければ意味がありません。

対して,ABAでは行動する前はどういう状態なのか,行動した後は何が変化したのかに着目します。ビジネス現場でよくある例を一つだすと,せっかく部下が目標時間より早く仕事を終わらせたのに,上司から「じゃあ次はこの仕事お願いね」と追加の仕事が与えられるということがあります。これは,部下が報告するという行動をした直後に追加の仕事発生という環境の変化が起きています。これでは,多くの社員の報告行動が減ってしまうことが考えられます。そうではなく,望ましい行動や定着させたい行動後には本人にとって望ましい環境変化を起こす必要があります。このように,本人の意思ややる気ではなく,その人を取り巻く環境に目を向け,行動の前後を分析し,改善策を考えていきます。

行動データに基づく改善策

先程身につけさせたい行動には,本人にとって望ましい環境変化が必要だと述べました。ただし何が望ましい環境変化で,何が望ましくない環境変化なのかは注意が必要です。この判断は実際に適切な行動が増えたかどうかという行動事実に基づきます。いくら適切な行動後に望ましそうな環境変化(「よくやってくれたね,ありがとう」など)を起こしても,実際に行動が増えなければ,その人にとって望ましくなかったということです。そして,この判断を行うには行動データが必要になります。行動データを取っておくことで,改善策導入前と比べて,その行動が増えているのかどうかがわかります。さらに,わかることで増やしたい行動に対する環境変化が効果的であったのか検証ができます。もし行動データがなければ,個人の主観や経験則に頼って改善策の検討をすることになります。これでは,本当は効果がない改善策を効果があると思って導入し続けてしまったり,本当は効果がある改善策を効果がないと思ってやめてしまうことが多々起きてしまいます。これはビジネス的にもかなりの損失に繋がります。このような間違いを防ぐためにも行動データに基づく改善策の検討は有効だと思います。

見える行動・測れる向上

今回紹介した,行動データに基づき改善策を検討し,意思ややる気ではなく,具体的な行動変化に着目するアプローチは非常に役立つと思います。私の所属している会社も,ABAに習い「見える行動・測れる向上」をモットーにしています。これからもコンサルタントとして,ABAを基軸に「問題の原因は人の内面ではなく,環境変化にある」─このような考えで企業のサポートをしていきたいです。

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