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【特集】

【産業領域】チームで組織と個人を支援する

田上明日香
SOMPOヘルスサポート株式会社

田上明日香(たのうえ あすか)

Profile─田上明日香
リクルートグループでの社会人経験を経て,2005年に早稲田大学大学院人間科学研究科人間科学専攻修士課程に入学。2011年に同専攻博士後期課程修了。同年より現職。2013年より早稲田大学で非常勤講師を兼任。

産業領域での心理職の働く立場とその役割

産業領域で心理職としての専門スキルを活かした働き方は,二つの軸で整理できるのではないかと考えています。一つ目が事業場内と事業場外のいずれの立場で関わるか,二つ目が会社と連携をしながら個人と組織の問題解決のサポートをする立場で関わるのか,会社と連携しない安心感を重視とする個人支援の立場で関わるのか。産業領域に関わる心理職の働き方は,このいずれの立場で関わるかによって,求められる役割と実務で経験する内容は異なると思います。

事業場外資源として個人と組織の問題解決をサポートする

私は,社外の専門家として,個人と組織の問題解決のサポートをする立場で産業領域に関わってきました。ベンチャーから数万人の規模の会社まで,産業領域での心身の健康づくりを担う産業保健体制は,会社ごとにかなり異なります。また同じ会社であっても,本社と支社などの産業保健体制のリソースは大きく異なっているのが現状です。そのような中で不足している役割を補うために,会社の中で人事労務担当者や産業保健スタッフ(産業医や保健師・看護師等)や,現場の健康管理を担う管理職のみなさんが,どのように動いていくと連携がとりやすくなるのか,対応が必要な事例などを通して,体制を整えていくことも仕事の一つです。そのためには,会社に義務づけられている法令遵守の観点で,何の対策を優先的に整えていかなければいけないのかといった知識や会社の人事制度のような会社内の規則などの基本的な考え方,さらにはここ数年で認知度が高まってきている健康経営のような経営の視点から健康増進に取り組む際の考え方など,組織の心身の健康づくりに関するさまざまな視点を理解しているというベースが重要であると感じています。

個人と組織に関わるということ

メンタルヘルス不調の従業員の方の個別の支援においては,組織の課題が大きい場合など,個人のセルフケアだけでは対処が難しい事例があり,個人と組織へアプローチすることの重要性を感じます。さらに専門職間の連携においても,本人の同意をとったうえで,社内の人事や産業保健スタッフや管理職,社外の主治医など,さまざまなリソースが連携することで個人と組織へのアプローチの対応の幅が広がることがあります。そして,これらの連携の際に産業領域で重視される特徴的な視点として,従業員が職場で安全で健康に働いてもらうために,職場で顕在化している状態像をとらえる「事例性」といわれる視点で整理し,そのうえで(職場で対応可能な範囲の)配慮を考えていくという考え方があげられます。

公認心理師の活躍のために

今後,産業領域で働く公認心理師の活躍の場についてのポテンシャルは,私が経験してきたような立場の支援にもありますし,それだけでなく経営的な視点でも,心身共に健康的な生活習慣を身につけ長期的に生産性高く働ける人材を確保することが重要視されるなか,健康な(生活)習慣への行動変容のサポートなどへの関心も強まっていると感じます。このように,心理職が貢献できる領域は広いと思いますが,産業領域の就職の採用基準には産業領域の実務経験が求められることが多く,最初の実務経験を積める場所が少ないことから仲間が増えにくい状況にあります。そのような状況を少しでも改善するために,今年から私の所属する企業では1年間に渡るインターンシップの受け入れを開始して,実務経験に近い体験ができるような取り組みを試行錯誤で始めたところです。微力ながら,このような取り組みを重ねることで少しでも産業領域で働く仲間が増えることを願っています。

インターンシップの様子
インターンシップの様子。架空の具体的事例をテーマに心理職としての対処を議論。

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