公益社団法人 日本心理学会

詳細検索

心理学ワールド 絞込み


号 ~

執筆・投稿の手びき 絞込み

MENU

刊行物

【特集】

【福祉領域】あいだを埋める存在として

谷口 敏淳
一般社団法人Psychoro(サイコロ) 代表理事

谷口 敏淳(たにぐち としあつ)

Profile─谷口 敏淳
鳥取生協病院の常勤心理士として約10年間医療現場に従事。2016年より福山大学人間文化学部心理学科准教授。2019年4月から一般社団法人Psychoroの代表理事として医療,教育,産業で臨床実践を行っている。

福祉分野は広範だ。公認心理師養成における大学及び大学院における実習候補施設として示されている施設数を見ると,福祉分野は他の分野より明らかに多いことからもそれがわかる。そして,示された施設には心理職との関わりが薄い施設もある。だからこそ,公認心理師としての今後の活動が期待できる分野であると感じている。

私は総合病院精神科での臨床実践が主なキャリアだ。そこで10年半勤めた後に大学教員として2年半勤め,現在は一般社団法人の代表理事として活動をしている。専門は認知行動療法(CBT)で,現在は病院と学校と企業で心理的支援やコンサルテーションを行っている。

医療現場を中心に15年ほどの臨床経験ではあるが,福祉職の方々とは臨床実践の中で密接に関わってきた。勤務していた医療機関では医療ソーシャルワーカーや精神保健福祉士(PSW)など福祉職の方々と一緒に働き,その専門性や価値観を学んだ。また地域との連携が必要なケースでは,地域の福祉職や企業の方々とカンファレンスを行ない,心理職として携わった。私の基礎となるこれらの臨床経験は,患者の健康と生活を支えていく上で,福祉的支援や地域連携の重要性を十分に教えてくれた。

やや前置きが長くなったが,他の分野で活動してきた立場として,福祉分野における公認心理師への期待を二点に絞って述べたい。まず「支援対象者に対する心理的介入や職場内コンサルテーションの提供」である。これは公認心理師の役割の中心であり当然ではあるが,福祉の現場において,支援対象者の心理状態の理解とそれに基づく対応を体系的に行える専門家が支援に携わることは,非常に大きいと感じる。ざっくりとした表現で語弊があるかもしれないが,福祉的支援の基本的な発想は,安全な対人関係の上で行う環境調整が中心になる。福祉職が行うソーシャルワークは多様な意味があるが,個人への支援で中心となるケースワークは制度を活用した援助と環境調整であろう。私の経験でも,先輩のベテランPSWもストレスマネジメント等の個人への積極的介入は,心理職の私に依頼してきていた。こうした福祉職の支援をCBTの観点で捉えると,福祉職によるケースワークは,応用行動分析の「A(Antecedent)」,認知療法の「A(Activating event)」であると言える。ただ,それでも対応が難しい場合に,私たちは心理職として個人の「B(BehaviorやBelief)」を理論に基づいて扱うことができる。これらは私たちにとっては基本的なことかもしれないが,福祉の現場では大きな強みである。もちろん,CBT以外の学派においても,内的な要因を考えることには変わりなく,同様であろう。

次に「分野間連携の潤滑油としての役割」である。福祉分野と他の4分野との位置づけを考えると,個人的には他の4分野間を埋めるように存在するイメージがある。例えば私が専門としている精神障害者の就労支援では,医療機関による治療的介入が一段落した段階で,職業リハビリテーションとして就労支援機関(福祉分野)が関わり,利用者の状況と意向を考慮しながら企業との調整を支援する。これは一例ではあるが,臨床において分野間の連携では,あらゆるケースに福祉機関が携わり,特に困難なケースほどその傾向は強くなると思われる。しかし,この分野間の連携の難しさの一つは,支援の一貫性が保ちにくくなることである。連携とは支援に携わる人が増えることであり,当然のようにその支援対象者の理解も多様となる。特に目に見えにくい心理的要因は,連携が広がるほど一貫性の担保が難しくなるため,心理職がまだまだ乏しい現状では,対象者の心理学的理解と支援方針の共有が分野間連携で特に難しくなるのは当然と言える。ただ,この福祉分野に公認心理師が携わることになると,支援対象者の心理学的理解とその支援を,分野間でより円滑に共有して行うことが可能となる。つまり,福祉分野での公認心理師の活動は,社会全体で心理的支援を行える連携の構築に大きく寄与できるものと言え,その意義は非常に大きいと考えられる。

私は医療を離れ地域で活動を始めた。福祉分野では家族支援や研究など,まだまだできることがある。現在地域にある心理的支援を繋ぎ,そして広げる存在として,福祉分野の公認心理師の活動に少しでも貢献する所存である。

PDFをダウンロード

1