公益社団法人 日本心理学会

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巻頭言

文理融合の学としての心理学と共に

慶應義塾大学 名誉教授
坂上貴之(さかがみ たかゆき)

はじめまして。この度,日本心理学会の理事長に選出されました坂上貴之と申します。専門は実験心理学(学習),行動分析学,行動的意思決定論で,慶應義塾大学で心理学を教えておりました。つい最近,人生に一度しかない65歳定年を経験し,前期高齢者の仲間入りを果たしました。他学会の理事長職もどうにか退任の目途がつき,本学会の財務担当常務理事のほうも定年かなと思っていた矢先に降ってわいた話なので,いささか戸惑っているというのが正直なところです。財務を担当していた頃,予算書と決算書に記載された金額の桁数は,小さな学会では考えられないものでした。それだけ,日本の心理学に占める本学会の責任にも多大なものがあるのだろうと思っておりましたし,実際に常務理事の方々とお仕事をしているとその感が犇々と迫ってくることがありました。

さて日本の心理学は公認心理師制度が始まることで大きな影響を被るであろうことは,心理学に携わる多くの方々の共通認識と思います。大学学部や大学院の教育・研究体制だけにとどまらず,高校や専門学校での教育,さらには資格者のスキルアップを目指した研修も含め,これまでになかった様々な教育・訓練の方法や内容が今後検討されていくでしょう。また今まで心理学とは一見関係がなかったような業種や業態に,心理学教育を受けた方が進出していくことになるでしょう。そうした歴史的転換点にあって,日本心理学会はどうあるべきか,何をすればよいのか,そうしたことが現在問われています。

このように本学会の任務は,私たちがこれまで行ってきた,そして将来目指していく心理学教育や研究を守り育てていくことが第一にあります。しかし同時に,公益社団法人としての本学会は,心理学を通じて得られた知的なリソースを社会へと還元していかねばならない立場も有しております。この第二の任務もまた,新制度の開始によって影響を受けることが予想されます。私たちが行っている様々な事業は,そうした意味で,今後良くも悪くも世間から注目されていくことになるでしょう。

心理学という学問は,その研究対象の理解に科学的アプローチを積極的に取り入れることで大きな発展を遂げた一方で,その対象を理解することの意味をも深く考えてきたという歴史を持っています。その点において,心理学とは真に文理融合の学問として,日本における学問状況の中で重要な位置を占めることと思います。会員の皆様と共に,そうした気概を持って歩んでまいりたいと存じます。

坂上貴之

Profile─坂上 貴之
日本心理学会理事長。1984年,慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。文学博士。慶應義塾大学文学部助手,助教授,教授を歴任し,2019年に定年退職。専門は実験心理学(学習・行動),行動分析学,行動的意思決定。著訳書は『意思決定と経済の心理学』(編,朝倉書店),『行動分析学:行動の科学的理解をめざして』(共著,有斐閣),『心理学の実験倫理』(共編著,勁草書房),『メイザーの学習と行動』(共訳,二瓶社),Diversity of Experimental Methods in Economics(分担執筆,Springer)など。

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