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夢のスタンフォードでの一年間
新谷 優(にいや ゆう)
Profile─新谷 優
国際基督教大学教養学部卒業。東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了。ミシガン大学ラッカム大学院博士課程修了。社会心理学(Ph.D.)。ミシガン大学博士研究員,法政大学グローバル教養学部助教,准教授を経て現職。専門は社会心理学・文化心理学。著書は『自尊心からの解放』(誠信書房)など。
スタンフォードへは夫と10歳の息子,5歳の娘の四人で行きました。夫は機械工学の研究者で,幸いにも同時期に在外研究の機会をいただけることになりました。子どもには小さいうちに異文化体験をさせたいと思っており,この時期に家族で渡米できたことは大変幸運なことだと思います。
スタンフォード大学での研究について
世界の第一線の研究を行っている大学に身をおいて刺激を受けたいというのが夫と私の願いでした。社会心理学でも機械工学でも第一線,となると,大学の数が多いとはいえアメリカでも限られてきます。その中でもスタンフォードは社会心理学の聖地,私にとっては憧れの場所です。自分の論文で何度も引用している研究者がいるのがスタンフォードでした。私は文化心理学に片足を突っ込んだまま,本格的に研究をしたことがなかったので,文化心理学の大御所であるヘーゼル・マーカス(Hazel Markus)先生にお願いし,受け入れていただけることになりました。
スタンフォードで一番驚いたのは,複数の先生が共同でリサーチ・ミーティングを行っていることです。先生同士の仲がとてもよく,院生は複数のラボに所属して,何人かの先生と共同研究を行っています。院生はリサーチ・ミーティングで別の先生との共同研究について発表することがありますが,誰の学生というのは重要でないらしく,全員が真摯に学生を支援していました。質問や指摘は鋭いのですが,批判は全くなく,発表者はたくさんのアイディアと支援をもらってさらに研究を進めることになります。競争や批判をせずとも互いに高め合うことができることに感動しました。
私は文化心理学のマーカス先生と感情の文化差を研究されているジーニー・ツァイ(Jeanne Tsai)先生のラボ,キャロル・ドゥエック(Carol Dweck)先生とグレッグ・ワルトン(Greg Walton)先生のラボ,さらに社会心理学の研究会,感情科学の研究会,そして心理学部のコロキアムに参加し,念願通り,毎日たくさんの刺激を受けることになりました。
家族連れで行くということ
子連れゆえの苦労は多くありました。子どもたちはそれぞれ別の小学校に通うことになり,送迎も学校行事も二倍ですし,アフタースクールプログラム(学童保育のようなもの)はどこも満員で入れず,夫と交代で毎日2時半には帰宅するような日々でした。夕方からミーティングや講演会がある場合は,そこでまた夫と交代し,大学とアパートを4往復した日もあります。同時に,子連れだからこその体験も多くありました。小学校では様々なイベントで親がボランティアをする機会が多く,教室内の様子を観察したり,アメリカ流の子育てについて学ぶことができました。上の子は大学関係者の子弟が多く通うエリート小学校,下の子は社会的階層のより多様な小学校であったこともあり,日米の文化差だけでなく,社会的階級による違いについても色々と考えさせられました。ハロウィーンでは,子どもと共に地域の方々からキャンディーをいただいて回りましたし,英語の勉強と称してアベンジャーズやスポンジボブなど,いかにもアメリカ!といった感じのDVDを毎日見たりもしました。子連れであるがゆえに大学での研究時間は限られてしまいましたが,アメリカでの生活を通して学べたことは大きかったと思います。
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