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心理学キャンパス

島根大学

佐藤 鮎美
人間科学部人間科学科心理学コース

佐藤 鮎美(さとう あゆみ)
所在地:松江市西川津町1060
https://www.hmn.shimane-u.ac.jp/

Profile─佐藤 鮎美
島根大学人間科学部講師。専門は家族心理学,発達心理学。著書は『たのしく学べる乳幼児の心理 改訂版』(分担執筆,福村出版),『心理学概論 第2版』(分担執筆,ナカニシヤ出版)など。

「島根は鳥取の左側です」

何を分かり切ったことを,と思う方もいると思いますが,へぇ〜そうなんだ,きちんと認識していなかったなと思う方もいるでしょう。後者の方が少し(いや,かなり)多いかもしれませんね。冒頭の小見出しはそういった全国の皆さんの反応をよく分かっている島根県民が考えた自虐的なキャッチコピーです。まずは場所だけでも知ってもらおうという県民の切なる願いが込められています。

しかし,その控えめなキャッチコピーとは裏腹に,島根には出雲大社(国宝・重文),松江城(国宝),石見銀山(世界遺産)などの文化遺産や出雲・石見神楽などの伝統芸能が数多くあり,島根大学のある島根県東部では「抹茶文化」が根づき,地域のスーパーや大学生協の購買部に至るまで抹茶や茶筅を目にすることができます。どのお家(時には会社)でも,気軽に抹茶を楽しんでいるのです。

また,昔から美しい宍道湖や英国のように目まぐるしく変化する天候から芸術家を魅了した土地でもあり,米誌ランキングで16年連続日本一位でありミシュランの三ツ星も獲得している足立美術館(安来市),質の高い美術館と劇場の複合施設グラントワ(益田市),夕日の絶景が有名な島根県立美術館(松江市)など評価の高い美術館が多くあるのも魅力です。小泉八雲も愛した地ですしね。

このように,島根は実際に住んでみると数えきれないほどの魅力のある土地であり,ただの知名度が低い地方都市というには勿体ない場所であることが分かります。落ち着いていて歴史も文化もあり,安全で,適度に便利な街。島根県の県庁所在地であり島根大学のメインキャンパスのある松江市が経済産業省「暮らしやすさ」ランキングで全国1位となったのも頷けます。

私自身も島根に来て3年ほどですが,すっかり島根県の魅力の虜になっています。学生さんが親元を離れ4年間落ち着いて楽しく勉学に励む土地としてはかなり適した場所だと言えるでしょう。

 

島大人間科学部で心理学を学ぶ

人間科学部の心理学コースでは,専任教員としては,実験心理学系教員5名,臨床心理学系教員6名が在籍しています。バランスよく教員が配置されているため,学生が様々な領域の心理学に触れることができ,柔軟な思考を身に着けられるのが強みと言えます。設備も充実しており実験心理学では暗室などの用途別実験室が7つあり,脳波計,NIRS,アイトラッカーなどの実験機器も揃っています。また臨床心理学でも,箱庭や砂場などの設備を備えています。

実験系と臨床系の教員同士も非常に仲が良く,互いの強みを生かした共同の授業を立ち上げたり,協力して研究プロジェクトを推進したりと情報交換しながら切磋琢磨しています。この自由な空気は「心理学」という学問全体にも良い影響を与えうるものだと思いますし,その空気はおそらく学生にも伝わって,より良い教育効果につながっていると自負しています。実際,臨床系に所属する学生が研究に取り組む際にも,M-GTAなどを用いてインタビューデータを質的に分析するに留まらず,自主的にテキストマイニングにかけたり,コード化してさらに統計分析にかけたりする様子を目にします。また,実験系に所属する学生も美しく統制された実験を追求しながらも単純な平均値の有意差のみではなく,個人差を尊重し,そこに生じた現象を質的にとらえようとする向きがあります。このような議論や発表を目にするたび,これは島根大学の心理学教育が実を結んだ結果だろうと感心しています(自分が学部生のときはこれほど柔軟には考えられていなかったので)。

心理学以外の学問との連携

実は,島根大学人間科学部自体は,2017年4月に設立されたばかりの新しい学部です。「人間の特性を深く理解し,人々がその人らしく生きることができる社会を実現してく人材を育成」することを目的に設立されました。人間科学部には全部で3つのコースがあり,心理学コース,福祉社会コース,身体活動・健康科学コースが互いに協力しながら研究や教育を進めています。

一般の方々から見ると,おそらく「心理」と「福祉」はどちらも困った人を助けていそうなイメージを持ち,とても近い領域に感じていると思います。しかしながら,心理学を専門とした方々の多くは福祉学についてあまり知らないのではないでしょうか。実は,私も人間科学部に着任するまで,全くと言ってよいほど知らなかったし,もしかしたら知ろうともしていなかったかもしれません。でも,一緒に仕事を進めながら研究について雑談しているうちに,社会をシステムとみなし,その改良を試みる学問であることが自分なりに理解できるようになりました。着任前は,福祉学はどちらかというと臨床心理学と近い分野だと思っていたのですが,集団の動きや社会システムを扱うため,どちらかというと社会心理学と相性の良い学問であるように思います。

また,身体活動・健康科学コースでは,いわゆるスポーツ科学や医療疫学,衣料・栄養学などの生活科学などを専門とした先生がいらっしゃいます。これらの領域は正直,全く心理学と異なる分野だろうと考えていたのですが,実際にはかなり共通する部分がありました。例えば,スポーツ科学では,行動をコーディングしたり生理指標を用いるという面では非常に実験心理学に近いですし,疫学で用いられる統計手法は心理学とほぼ同じです。また,衣料・栄養学などでも主観評定が用いられ心理学的な側面が研究対象になることもあります。

どちらのコースも,興味の対象は異なるけど手法が似ている,または興味の対象は似ているけど手法が異なるなど,遠からず近からずな領域・関心の先生方ばかりなので,新たな発見があり勉強となることも多く,日々刺激を受けています。

このような交流は教員だけでなく,学生間でも生じていると思われます。というのも,入学後に各コースの入門的な講義を受け,1年後期になってはじめてコース分属を行うため,すべての学生が各コースの特徴をおぼろげながらでも理解できるからです。また,コース分属後も多くの講義は他コース生に開かれているため,自分の興味に従って他領域の講義もどんどん受講することができます(ある学生は多くの授業でよく一緒になるため,3年生くらいまで他コースの子を自コースの子だと勘違いしていたくらいです)。

さらに,全コースがかかわるIPM(Interactive Presentation Meeting)という授業カリキュラムがあり,1年生のうちから自コースの取り組みを他コースの学生に紹介する機会を設けています。個人的にこのカリキュラムの利点の一つだと思うのは,1年生のうちから自分の主張を補強するために論文を読むことが当たり前となっていることです。確かに統計を習う前でも日本語論文であれば大筋は理解できますし,分からない統計用語は自分で調べる学生も多いので,統計の予習にもなって良いことだなと思っています。また,高学年になると自他の専門の違いを理解して,他分野に対する尊敬の念が生まれたように感じました。これは,福祉社会学コースの先生が主催する「オープンカレッジ」という課外活動にも表れています。そこには福祉だけでなく心理学コースや身体活動・健康科学コースの学生も参加し,自分の強みを生かしたり,互いに刺激を受けながら,実際に学外の方の役に立つ活動を推進しているのです。このような活動の中で培った互いに尊重できる姿勢も学生が社会に出て以降も重要であると感じています。

 

最後に

島根大学人間科学部の一番の魅力は何か?と問われると,それは人間同士の関係性と言えるかもしれません。どのコースの先生方も非常に対話的であり権威的な人が一人もいません。そのおかげで,仕事も研究も教育も非常に行いやすく感じています。人間関係というものは流動的なものかもしれませんが,もしかすると現時点では一番の強みかもしれないな,とも感じています。なぜなら,互いに常に情報共有し,協力できる体制が容易に作れるからです。私たちが個人や単独の専門でできることは限られています。世の中はグローバル化,IT化し,ヒトのニーズも多様化し,社会の変わる速度も加速する一方です。そんな中で,教員も学生も他領域の方々と協働することを学部の中で身をもって学べるメリットは非常に大きいものと思われます。今後も他の先生方と協力しながら,良い研究,良い教育を進めて参る所存です。皆様,ぜひ一度,島根大学人間科学部に遊びに来てくださいね!

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