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私の出前授業

高校生のための心理学講座@広島2019

西村太志
広島国際大学健康科学部 准教授

西村太志(にしむら たかし)

Profile─西村太志
2003年,広島大学大学院生物圏科学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。東亜大学総合人間・文化学部講師,広島国際大学心理科学部臨床心理学科講師を経て,2020年より現職。専門は社会心理学。著書は『新版 エピソードでわかる社会心理学:恋愛・友人・家族関係から学ぶ』(共編著,北樹出版)など。

2019年8月10日,広島国際大学広島キャンパスにおいて「高校生のための心理学講座」を開催しました。暑い一日でしたが,当日は84名の方にご参加いただきました。私は,企画者および話題提供者の一人として携わりました。以下,講座の開催に至るまでの経緯,各先生の発表内容の概略と当日の様子などをまとめました。

講座の開催に至るまでの経緯

本講座開催を企画したきっかけは,2018年10月に広島国際大学で開催した中国四国心理学会第74回大会でした。日本心理学会「認定心理士の会」との共催で,会期中二つの市民公開シンポジウムを開催し,高校生や一般市民の方の多数の参加がありました。

このシンポジウムでは,広島県内の七つの大学の先生方に話題提供や指定討論者としてご登壇いただきました。広島県内の大学には心理学関連の学部学科が多くあります。それぞれ普段は異なる場所で教育研究活動を行っていますが,心理学の幅広さや多様性,間口の広さをアピールするために,結集して行いました。シンポジウム後の雑談の中で,「広島の心理学関係者で,このような企画を継続してできれば,高校生や一般の方に対して心理学の面白さをアピールするよい機会となるのではないか」という意見がいくつも出てきました。そこで,今回日本心理学会の「高校生のための公開講座」に応募し,開催にいたりました。

当日の講座内容と様子

以下の5名が話題提供を行いました(登壇順)。当日は一題を60分ずつとし,45分から50分程度で話題提供を行い,その後司会者の元で10分程度の質疑応答としました。司会は田中秀樹先生と菱村豊先生(ともに広島国際大学)が担当しました。

社会心理学:西村太志(広島国際大学)

「つながり」をキーワードに,①「つながり」が自分に自信を与える,②「つながり」は健康につながる,③「つながり」はいいことばかりではない,④「つながり」がいざというとき身を守る,という四つの視点での話題提供を行いました。具体的には,自己評価維持における栄光浴現象,ソーシャルサポートのストレス緩衝効果や圧力釜効果,災害時の避難行動における周囲の他者の重要性などです。特に2018年の西日本豪雨災害の際に,東広島市のある地区では避難促進につながりのある地域住民の声かけが効果を発揮したことなどを紹介し,日常生活の様々な現象と社会心理学が密接に関連することを説明しました。

臨床心理学:首藤祐介先生(広島国際大学)

臨床心理学全般について,ご説明いただきました。特に,臨床心理学の三つの目的と領域(説明−異常心理学,予測−心理アセスメント,制御−心理療法論)の関連性や,研究活動と専門活動,実践活動の違いとそれぞれの関連性,代表的な心理療法の種類と大まかな内容などを,高校生や一般参加者の方にもわかりやすく説明されました。また間には,シナリオを使って共感を実際に体験してみるなど参加者体験型のメニューも織り交ぜ,聴衆が飽きない工夫がなされていました。

感情心理学:藤原裕弥先生(安田女子大学)

感情にまつわる四つの疑問(①感情はいくつある?②人間以外も感情を持っている?③感情は何のためにある?④感情は日常生活で私たちにどう影響しているの?)を提示し,それに答える形式で,様々な感情に関する研究を紹介し,それぞれの研究の学問的おもしろさをご説明いただきました。進化と適応に,消費行動と感情,感情と健康行動といった話題が含まれ,感情を中心に他の心理学分野との関連性も整理できる話題を多くご提供いただきました。

捜査心理学:大杉朱美先生(福山大学)

2019年3月まで兵庫県警の科捜研に勤務されていた大杉先生は,「元科捜研の女」として警察実務に心理学がどのように活用されているか,お話しされました。架空の窃盗事件を想定してもらい,それに対してどのような捜査が可能かという視点から,プロファイリングや捜査における取り調べ,ポリグラフ検査などの実際について詳しくお話しいただきました。犯罪捜査において,科学的な心理学の手法が非常に重要な意味を持つことを強調されました。

健康・医療心理学:古満伊里先生(広島修道大学)

「笑う門には福来たる」をテーマに,笑顔の心理学的効用としてお話しいただきました。笑顔により他者を安心させることによる,対人関係への肯定的影響,自己免疫力を高めることによる健康増進効果,自身の笑顔が潜在意識に働きかけることで相手への好意が増す効果,の三つを生理・認知心理学的な実験例を基にご説明いただきました。ちょうどこの時期に全英オープンゴルフを渋野日向子選手が制し,「スマイリング・シンデレラ」と呼ばれていたことから,渋野選手の笑顔と活躍を関連づけた話題になりました。

先生方の講義は非常に熱のこもったものになり,時間ギリギリになることもありました。それぞれの心理学分野の話題をベースにおいていますが,一連の講義を通して,心理学の多様性やその関連性が聴衆の皆さんにも伝わったのではと思います。また,終了後のアンケートでも,シンポジウムの感想(「内容に興味が持てた」「わかりやすかった」「新しい知識を得ることができた」「心理学についての関心が増した」)すべての項目で平均得点(5点満点)が4.6点以上あり,聴衆の皆さんにも満足していただけたと思います。参加者は高校生が約6割,それ以外は保護者や高校の先生,過去の高校生講座に参加された一般の方など多種多様でした。大学で行うオープンキャンパスなどの模擬講義でも保護者の方が参加されることも多いため,年齢層の広いイベントにも対応できたと思います。

今回,集客にはいくつかの工夫を行いました。登壇者の各大学で開催されたイベントでチラシ配布にご協力いただき,開催日時も各校の高校生向け行事と重ならないようにしました。また,受付には登壇者所属大学のチラシ等を用意し,自由に取ってもらえる形にしました。また,県外からの参加者も多くおられ,本講座の情報の広がりを感じることができました。交通の便がよい場所での開催が幅広い集客につながるようです。

終了後,この取り組みは是非協力して今後も続けたい!と意見が一致しました。そこで,次回は福山大学が開催校となり,実施予定です。2020年度は新型コロナウイルスの影響で開催ができないと伺っており残念ですが,2021年度以降に高校生のための心理学講座@広島で,今回以上に心理学の面白さが伝わればと思います。

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