美しさと魅力の心理
河原純一郎・三浦佳世
あなたは一枚の山岳の風景写真を気に入りました。なぜそれは他の写真よりも美しいと感じたのでしょうか。美しさは理屈では説明できないものでしょうか。
美しさ,魅力とは何かという疑問は,壮大なテーマであると同時に,容易には制覇し難い多様な側面をもっています。本書ではこの問いに三つの登山口から挑戦します。一つは感じる主体である私たち人間の特性から迫るルートです。見る者の知識や感情,注意など,認知的な要因から探ります。もう一つは対称性やゆらぎといった対象の特徴そのものの美しさを捉えます。さらに,人間の進化や発達という見る者の生物・神経基盤に注目する第三の観点も用意しました。これら三つの見方は第Ⅰ部・理論編に収めてあります。本書で扱うのは顔や身体の美しさだけでなく,動作,声,音楽も含みます。さらに,工業製品や庭園,空間設計といったデザインにも踏み込みます。
第Ⅱ部・項目編には具体例を解説します。本書はこうしたアプローチから美しさと魅力について,執筆していただいた50余名の心理学者のガイドとともに迫ります。
正解は一つじゃない
子育てする動物たち
齋藤慈子
COVID-19感染拡大による一斉休校・保育園休園で,いかに核家族の中で,親だけで子育てするのが大変かを,改めて感じた人も多いのではないでしょうか。しかし,親(とくに母親)はいかなるときも愛情をもって子どもの世話ができるはずだ,できなければ異常だ,といった固定観念がいまだに世の中にはびこっていて,親を苦しめているようにも思います。
そもそもヒトは親だけで子育てする種ではありません。ヒトを動物の一種ととらえ,客観的,科学的に子育てをとらえなおしてもらいたい,というのが本書の目的です。動物は子孫を残すように進化してきましたが,その子育ては種によって,また種の中でも状況等によって多様です。その多様性と多様性を生みだす理論がわかれば,固定観念を覆せるのではと思い,本書では様々な動物の研究者に,研究対象種の子育てを紹介してもらいました。
執筆者はみな自身も子育て中で,子育てについてのエッセイも書いてもらいました。研究者親子の生態を知ってもらえるのも,本書の一つの特徴となっています。
動物心理学
心の射影と発見
中島定彦
思わず「ジャケ買い」してしまうアートな表紙です。紀元前4世紀の孟子やアリストテレスから,2019年に出た本や論文まで約1,500の文献に言及しました。新聞報道された研究はもちろん,地味だけど重要な研究も紹介しました。仲間を救出するアリ,シロイルカのバブルリングなど,素晴らしい動物写真も多数収録しています(でも白黒です。残念)。『シートン動物記』の表紙画で有名な木村しゅうじ画伯(「チャルメラおじさん」の作者)のイラストも(1点だけですが)入っています。いろんな動物の視力や聴覚・嗅覚・寿命・睡眠時間が図表になっています。特に,視力は218種の値を示しました。本書は漢詩から始まり,西東三鬼の俳句も出てきます。
ブルース・リーは「あらゆる種類の知識は,究極的には己れを知ることにつながる」といいました。とりわけ動物の心に関する知識はわれわれの心について省察するのに役立つでしょう。本書でいいたかったのはそういうことです。
※リーの言葉は本書中にはありません。この紹介文を読んでくれているあなたへのサービスです。
惨事ストレスとは何か
救援者の心を守るために
松井 豊
大きな災害や事故が起こると,社会の関心は加害者の心理や被害者の心の傷に向けられます。しかし,その現場で救援した人々にも深い心の傷を残すことがあります。こうした心の傷は,「惨事ストレス」と呼ばれます。本書では,見知らぬ人を助けられなかったことで苦しむ消防職員や,住民から罵声を浴びながら復興のために住民を支え続ける自治体職員などの事例を紹介しながら,様々な職業の惨事ストレスの症状やケアのあり方を説明しています。災害や事故で救援する人たちも同じ人間であり,心が傷つくことを広く知っていただきたくて,本書をまとめました。
今COVID-19に立ち向かい続けている医療関係者の方や,感染の危険性を感じながらも勤務を続けている各職業の方や,こうした方々のメンタルケアに携わっている方,企業の事業継続計画(BCP)の立案や実務に関わっている方には,参考になる部分があるかと思います。
災害や事故の救援後に残る惨事ストレスを少しでも和らげるために,お読みいただければ幸いです。
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