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お城のキャンパス,ロイヤルホロウェイ

磯村朋子
名古屋大学情報学研究科 准教授

磯村朋子(いそむら ともこ)

Profile─磯村朋子
2015年,京都大学理学研究科博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員(PD),早稲田大学理工学術院次席研究員(研究院講師),日本学術振興会海外特別研究員を経て2020年より現職。専門は認知科学。

2017年から2018年にかけての約10ヵ月間,そして2020年に約半年間,それぞれ日本学術振興会の特別研究員PD,海外特別研究員として,英国ロンドン大学ロイヤルホロウェイ校で研究を行う機会を頂きました。2回目の滞在は新型コロナウイルスの感染拡大と時期が重なってしまい,渡英して2週間ほどで大学に行くことができなくなりました。ある日突然自宅待機を命ぜられてから状況は悪化する一方で,結局大学に戻ることは叶わないまま半年間の滞在を終えるという残念な結果になってしまいました。異国でのパンデミック体験はある種,二度と忘れられない独特なものではあったのですが,今回はラボの雰囲気を生で味わうことができた1回目の滞在について記したいと思います。

私が所属したのは身体性認知,特に内受容感覚に関する認知神経科学研究を活発に行っているManos Tsakiris教授の研究室です。国内の特別研究員PDとしての2年目が終わろうとしていた頃,次のキャリアとして応募を考えていた海外特別研究員の受け入れ先候補の一つがTsakiris研究室でした。紹介者もおらず,まずはCVを送るという常識すら知らず,突然不躾なメールを差し出した私にとても丁寧に対応してくださったことを今でもよく覚えています(後で聞いた話ですが,初めてSkypeミーティングをするまで私の性別すらわからなかったそうです)。その後実際に訪問した際に研究室の雰囲気をとても気に入り,どうせ行くなら早いほうがいいかもと考えて特別研究員PDの最後の1年弱をそちらで過ごすことに決めました。

ロイヤルホロウェイはロンドンの中心地から電車で40分ほどの郊外にあります。国鉄エガム駅からイギリスらしい作りの住宅街を抜けて丘をのぼった先に見えるオレンジ色のお城のような校舎が象徴的で,英国で最も美しいキャンパスの一つだと言われています。街を歩いているとそこかしこから日本語が聞こえてくるロンドン中心地とは異なり,大学や街中で日本人を見かけたことはありませんでした。日本にいたときには同僚の外国人らとのコミュニケーションに問題を感じたことはほとんどなく,比較的英語が得意なほうであるという自負をもっていた私ですが,実際に留学してみると現地の人たちのテンポの速い議論についていけず,そのスピード感のなかで焦ってしまって自分の言いたいことがうまく言えないという悔しい思いをたくさんしました。それでも同僚はとても温かく私を受け入れてくれました。特に,定年退職後に大学院に入り数年前に博士号をとった60代の女性研究員の方は母のように私のことを気にかけてくれ,真っすぐな言葉でいつも激励してくれました。研究だけではなく人生や社会に関することでもハッと気づかされるような視点を与えてくれたことが何度もあり,これまでの人生のなかでもとても幸運な出会いの一つだったと思っています。

日本では居室で各々が作業しているときにあまり雑談をしてはいけない雰囲気がありますが,滞在先の研究室では気さくな雰囲気のなかで自然と会話が生まれ,日々研究の議論が活発に行われていました。また,知識や技術の交換が活発で,時には学生から研究員にアドバイスするような場面もあり,どの世代にとっても新しい事を学びやすい環境でした。実験参加者のリクルートと謝金支払いの作業が容易なのは助かる一方で,No-Show(参加予約したのに連絡もなく現れない)率の高さには悩まされました。比較的短期間の滞在ではあったのですが,その間に国際的なネットワークのなかに身を置くことができた点,一度それを経ることで帰国後もそれを継続,拡張することが容易になった点は,海外留学で得られた最大の財産だと感じています。新型コロナウイルスの状況がいち早く終息し,各国で日常が戻ること,そしてまた国境を越えた対面交流が可能になる日を願ってやみません。

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