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ここでも活きてる心理学

鉄道の安全性向上に貢献するために

西日本旅客鉄道株式会社安全研究所 研究員

武内寛子(たけうち ひろこ)

Profile─武内寛子
2010年,慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業後,西日本旅客鉄道株式会社入社。2015年より現職。専門は行動分析学。

様々な経歴の社員がいます (前列左が筆者)
様々な経歴の社員がいます (前列左が筆者)

職場紹介

私はJR西日本の企業内研究所である安全研究所(以下,安研)に勤めています。安研は2005年の福知山線列車脱線事故を振り返り,ヒューマンファクターの観点からの取り組みが不足していたという反省から,ヒューマンファクターに特化して安全の研究を行うことを目的に2006年に設立されました。約30名の社員が在籍しており,心理学系の博士号を持つ社員として安研に直接採用された者もいれば,弊社への入社後に鉄道現場(駅員,乗務員,工務系)や間接部門で勤務し人事異動により安研に配属された者もいるなど,様々な得意分野を持つ人材で構成されています(詳しくは安研のホームページをご覧ください)。

研究紹介

研究としては,人間の心理面・生理面や人間工学的な観点から,鉄道の安全性に関わるテーマを全般的に扱っています。研究テーマには弊社の経営方針に基づくものや,他部署からの要望を受けて行うものもあれば,研究員自身がニーズを発掘するものもあります。研究計画について研究員に与えられる裁量が大きく,自由に研究を進めることができる環境です。また,大学の先生方との共同研究も行っています。これまでの研究では,運転士の注意配分の研究によって新型車両の運転台の計器盤を大幅にシンプルにしたり,酔客の行動特性の分析によってホームのベンチの向きを変えたりするなどの成果があります。

以下は私の現在進行形の体験談となりますが,お客様の行動を対象とした研究では,実際の駅でお客様にアンケート調査を行ったり,弊社の駅をご利用するお客様を実験参加者として募集し,駅のご利用状況を調査するアプリをスマホに入れていただくことで1ヶ月半の行動調査を行ったりするなど,実際の駅のフィールドを活用した調査・実験を行っています。このアプリを使った実験は,実験期間の途中に行動変容を促す介入を行い,前後比較をすることで行動変容効果を検証するものです。同じ介入により意識が変容することは別の実験で確かめていたため,意識だけでなく行動も変えられるのかを確かめてみたいのですが,非常にチャレンジングな課題に取り組んでしまったと自分自身でも思っています。実験計画の策定や通信事業者とのアプリ製作に苦労し,何より期待されるような結果が出るのか担当者としては非常にスリリングな実験ですが,このような実践的な研究にも取り組める環境が安研にはあると思います。

企業内研究所の面白さと難しさ

安研の魅力として,鉄道のフィールドが身近にあること,そしてそのフィールドを活用し実践的な研究を行えることが挙げられると思います。これはつまり,現場のニーズを発掘し,会社にとって価値がある,具体的に役に立つ研究成果が求められる難しさにも繋がりますが,自分の研究成果が会社の施策に活かされたりお客様や社員の反応がリアルに伝わったりする点は,企業内研究所の醍醐味かと感じています。心理学を活かせる分野としてこのようなフィールドがあることを読者の皆様に知っていただき,さらに仲間に加わっていただければとても嬉しく思います。

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