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巻頭言

追悼 恩師フィードラー先生

大阪大学 名誉教授
白樫三四郎(しらかし さんしろう)

恩師フレッド・E・フィードラー先生は「リーダーシップ効果性の条件即応モデル」および「認知的資源理論」の提唱者として知られるリーダーシップ研究の第一人者である。わたくしはFiedler(1960)以来そのとりことなった。

フィードラー先生は1922年7月13日,オーストリアのウィーンで,布地用品および織物販売店を経営する両親のもとに生まれ,1938年単身渡米,当初はインディアナ州のサウスベンドの遠い姻戚一家の下で暮らした。その一家がフィードラー先生一人をおいて遠方へ移住し,以降フィードラー先生は困難な生活を切り開いてきた。軍隊生活を経て,戦後,シカゴ大学大学院修士課程心理学専攻に入学,修士号,博士号を取得した。1951年にリーダーシップ・スタイルを測定するためのLPC(Least Preferred Coworker)尺度を創始し,これを用いて長年にわたり,リーダーシップ・スタイルと集団効果性の関係を様々な集団状況で検討し,1963年に「リーダーシップ効果性の条件即応モデル」を公表した。

わたくしは1966年に初めてフィードラー先生にお会いして以来,長年にわたり,親しく指導を受けてきた。直接お会いすると,先生はわたくしを “San” と呼ばれ,わたくしは “Fred” と呼んだが,心の中ではいつも「フィードラー先生」であった。先生の理論は,ずいぶん激しい批判も浴びた。先生は「自分の理論に対する批判論文のおよそ半分にはきちんと反論できたが,残りの半分にはまだ反論できていない」とも言われた(1979年)。フィードラー先生は「人の批判をするほどなら,自分の理論を出せ」とも言われた(1979年)。

Sample & Wilson(1965)の実験データをわたくしが再分析した結果(Shirakashi, 1980)を,フィードラー先生は上掲の「認知的資源理論」(2つの前提と7つの下位仮説からなる)の第7仮説実証データに使用してくださった(Fiedler & Garcia, 1987)。

2013年ワシントン州シアトル郊外,マーサーアイランドのご自宅を訪ねたとき,フィードラー先生はわたくしを抱きしめ,強くハグされた。フィードラー先生は2017年6月8日,短い入院生活の後,亡くなられた。享年94歳。ご冥福を祈る。

  • Fiedler, F. E. 1960 / 岡村二郎(訳) 1970 「リーダーの心理的距離と集団の効果性」D. カートライト・A. ザンダー(編)/三隅二不二・佐々木薫(訳編)『グループ・ダイナミックス』(第2版)(pp.699–726).誠信書房.
  • Fiedler, F. E. & Garcia, J. E. 1987 New approaches to effective leadership: Cognitive resources and organizational performance. New York: John Wiley & Sons.
  • Shirakshi, S. 1980 The interaction effects for behavior of least preferred coworker (LPC) score and group–task situation: A reanalysis. 西南学院大学商学論集, 27(2), 24–32.
白樫三四郎

Profile─白樫三四郎
1965年,九州大学大学院教育学研究科博士課程満期退学,1972年教育学博士(九州大学),西南学院大学教授,鳴門教育大学教授,大阪大学人間科学部教授,甲子園大学教授などを歴任。専門は社会心理学,産業・組織心理学。著訳書は『リーダーシップの心理学』(有斐閣),『現代リーダーシップ』(総合経営管理協会),『リーダーシップ/ヒューマン・リレーションズ』(黎明出版),『産業・組織心理学への招待』(有斐閣)『リーダーシップ理論と研究』(黎明出版),『リーダーシップの統合理論』(北大路書房)など。

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