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心理学ライフ

ブラジリアン柔術の非日常と日常

大久保街亜
専修大学人間科学部 教授

大久保街亜(おおくぼ まちあ)

Profile─大久保街亜
2002年,東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(心理学)。2014年より現職。専門は認知心理学。著書に『伝えるための心理統計』(共著,勁草書房),『新版 認知心理学』(共著,有斐閣)など。

 

コロナ禍のため最近はご無沙汰ですが,仕事柄,出張がしばしばあります。出張の前,私はブラジリアン柔術の道場を検索します。便利なもので「柔術+出張先の地名」でたくさんの道場が引っかかります。こうして調べた国内外の道場をたくさん訪問してきました。50を超えます。この格闘技は急速に普及が進んでおり世界中のどこにでも道場があります。

自分が所属していない道場に稽古に行くことを出稽古と言います。ブラジリアン柔術では出稽古が文化として根づいており,どこの道場でも受け入れています。出張や旅行先の出稽古では,現地の人と2時間くらい和気藹々と稽古をします。稽古の後,呑みに行ったり名物や観光スポットを教えてもらったりなかなか楽しい。フィリピン,セブ島の学会のときOver Limit BJJ CEBUを訪問して皆さんと撮った写真を載せました。この写真から雰囲気が伝わるとよいのですが。

ブラジリアン柔術は日本の柔道がブラジルに渡り,独自の発展を遂げたものです。相手を寝技に引き込むことができるため(講道館柔道ではできない),寝技の展開が中心となります。40代以上の方ですと90年代にPRIDEなど総合格闘技で活躍したブラジル人格闘家,ヒクソン・グレイシーを覚えているかもしれません。彼らが技術体系を作り上げたため,ブラジリアン柔術はグレイシー柔術と呼ばれることもあります。彼らが得意とする関節技や絞め技などを中心とする寝技中心の格闘技がブラジリアン柔術です。

寝技が中心ですと,寝ているせいもあり,速く激しく動くことができません。そのため,怪我をしにくく,体力や体格が影響しにくい技術中心の格闘技になるのです。この特徴もあり,老若男女,誰にでもできる格闘技として急速に普及しました。私の所属する道場でも10代から60代まで幅広い年齢の人がいます。誰にでもできるため,護身術としても有効でそれも普及の後押しとなりました。日本では少ないのですが,海外では多くの女性が楽しむ格闘技になっています。セブ島での写真にも女性が写っていますね。

技術の教え方も体系化され,誰でも身につけることができます。上達の過程こそ人によって異なりますが,練習すれば必ず上達するのが技術中心の格闘技の良いところです。成長する実感を味わえるのも,この競技の魅力です。格闘技は全身を使うので,健康のためのエクササイズとしても最適です。

ブラジリアン柔術には実戦形式の練習があり,ローリング(rolling)と呼ばれます。これも魅力のひとつです。寝技でごろごろ転がるので,そう呼ばれるのでしょう。打撃がないので,子供がじゃれあっているようになります。ローリングは一種の試合なので,ゲーム性がありとても楽しい。技を仕掛けあい,防ぎ合う過程は身体を使ったチェスに例えられます。ゲーム性があると,無理せず,楽しく運動ができます。勝負がはっきりとつくことも長所です。弱ければ負ける。こういうシンプルさがとても清々しい。この身体を使った清々しさは,仕事や家庭だけではなかなか味わえないと私は思っています。

コロナ禍の今,密になりやすい格闘技を避ける向きもあります。一方で,格闘技の身体性の大切さが再認識される機会でもあります。そのせいか,この時期に格闘技を始める人も増えています。興味のある方,ブラジリアン柔術について私はnoteにいろいろ書いています。どうぞご覧ください(https://note.com/matiasauquebaux)。

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