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私の出前授業

高校生のための心理学講座@愛知大学

関 義正
愛知大学文学部 教授

関 義正(せき よしまさ)

Profile─関 義正
千葉大学文学部行動科学科卒業,同大学院自然科学研究科博士課程修了。理学博士。東京大学大学院総合文化研究科助教などを経て現職。専門は生物の音声コミュニケーション。著書に『わたしたちに音楽がある理由─音楽性の学際的探究』(分担執筆,音楽之友社),『生き物と音の事典』(共編著,朝倉書店)など。

本講座について2019年度の企画募集案内を拝見した際に,2018年度には中部地区での開催がなかったことを知りました。そこで,愛知県を含む中部地区の高校生にも,心理学の面白さを伝え,こころの研究に興味・関心を持ってもらいたいとの思いから,愛知大学としては,初めて名乗りを上げさせていただきました。

今回は,特に地元の愛知県にある研究・教育機関で精力的に研究を進めていらっしゃる先生方にご講演いただくことで,最先端の心理学研究をより身近に感じてもらえるよう心がけました。また,愛知大学文学部心理学科は豊橋キャンパスにありますが,多くの受講生がより参加しやすくなることを期待して,名古屋駅から徒歩圏内にある愛知大学名古屋キャンパスを会場といたしました。

講座は9月21日の土曜日に予定通り開催され,受講者は合計82名となりました。「高校生のため」という目的に合致し,受講者の大半は10代でしたが,受講者のご両親,また,教育関係者など,40~60代のみなさまも多数おいでくださいました。みなさんに,心理学の幅広さを知っていただけるよう,本講座は以下のような5つのテーマ・内容で構成いたしました。

1時間目 集団と災害の心理学 【樋口義治先生(愛知大学)】

開催校である愛知大学にて,長年研究をなさってこられた樋口先生が,本講座最初の講義をご担当くださいました。

まず,学習心理学の知見に基づいて,特定の行動がどのように生じるようになるのかを説明してくださり,そこから発展させて,地震や津波が起きた際に人々が見せる行動について,ご自身の最近の研究結果をもとにお話しいただきました。さらに,これまでに起きた大災害とその被害の概要をご説明いただきながら,災害時を含む生活の様々な場面で,一般に,人々が陥りがちな誤った判断に基づく行動をとる危険を避けるための提案もしていただきました。

2時間目 心のモデルと精神疾患【片平健太郎先生(名古屋大学[現・産総研])】

心理学研究に数理モデルを活用することにおいて,非常に優れた研究業績をお持ちで,また,わかりやすい著書を執筆なさっている片平先生にこの時間のご担当をお願いしました。

本講義では,「こころ」や行動について理解するために,数学や統計学がなぜ重要なのか,簡単な例を通して紹介していただきました。また,精神疾患と数学モデルの関連について具体的な研究例を挙げてご紹介くださり,本来はなかなか理解するのが難しいはずの内容を,高校生にもわかるようにかみ砕き,かつ研究者にとっても興味深く感じられるように話していただきました。講座の参加者の多くは,カウンセリングに関心を持つ方々でしたから,講義の内容に最後まで真剣に耳を傾けておられるように見受けられました。

3時間目 神経・認知心理学【田邊宏樹先生(名古屋大学)】

この時間は,生理学の技術を取り入れた心理学研究の講義でしたので,fMRIを用いた心理研究において,たいへん豊富な経験をお持ちの田邊先生にご担当いただきました。

先生が進めてこられた,二者間でのコミュニケーション場面での認知研究において,心理実験とfMRIによる脳画像イメージング技術を組み合わせたデータから,どのようなことが明らかとなってきたのかを話していただきました。特に,ペアを組んで課題を行っている最中に,それら二人から記録した脳活動を比較するなど,高度な技術が要求されるたくさんの研究を含めてお話しくださいました。その先進技術のあまりの妙に圧倒された受講生の姿も見受けられました。この講義の内容は,とりわけ,脳の働きに関心のある大勢の受講者のみなさんの好奇心をさらに刺激するものとなりました。

4時間目 比較発達心理学【林美里先生(京都大学霊長類研究所/日本モンキーセンター)】

この時間は,愛知県犬山市にある京都大学霊長類研究所にて,チンパンジーを対象として精力的に研究を進めてこられた林先生にご講演いただきました。

先生には,ヒトの行動をヒト以外の動物の行動と比較し,何がどのように似ていてどのように異なるのかを検討する「比較」研究の方法を発達心理学に適用した研究例を紹介いただきました。特に,ヒトとチンパンジーの「こども」による「もの」の操作,例えば,積み木をつんだり,入れ子構造を作ったり等の行動実験に焦点が当てられ,それらに基づいてヒトとチンパンジーの認知能力の発達の比較がなされました。実験の様子が多数の動画によって紹介されるなど,わかりやすく楽しい講義でした。子育ての観点からたいへん面白かったというご意見もいただきました。

5時間目 比較社会心理学【関義正(愛知大学)】

はじめに,よく知られた古典的な社会心理学の研究例をいくつか紹介しました。その後,4時間目と同様,比較の視点を取り入れて話を進め,ヒト以外の動物も他者の影響を受けて,その行動を変えることを紹介しました。そして,それらの研究結果をヒトの研究結果と比べつつ,わたしたちの社会的な行動について,その生物学的な背景を検討しながら考えることが,より深い「こころ」の理解につながることを知ってもらえるように話しました。講義では,講演者が主たる研究対象としているオウム・インコの仲間を使った実験動画をたくさん紹介しました。多くの受講者は,身近なトリが研究対象になることにある種の驚きを感じつつも,話を楽しんでいらっしゃったように感じました。

講座終了時に回収したアンケートからは,たくさんの肯定的なご意見が得られました。先生方によくご準備いただいたこともあり,概ね,みなさんのご期待に沿えた内容になったと考えております。

とはいえ,反省点がないわけではありません。例えば,質問時間がもっと欲しかったというご意見がありました。質問時間は設けたのですが,疑問を持った受講者全員が発言するには時間が足りなかったようです。受講者のみなさんは,能動的に参加申し込みをなさった意欲的な方々でしたので,その点,もどかしく感じられたのかもしれません。さらに,ちょっと難しかったというご意見と,反対に,もう少し踏み込んでほしかったとのご意見がありました。

もし,再度,企画の機会をいただくことがあれば,これらの点を十分に検討したいと思います。そして,より多くのみなさんに,学問としての心理学の楽しさを伝えるプログラムとなるよう,さらに工夫したいと思います。

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