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Over Seas

アメリカで経験したコロナ禍

藤原 健
國立中正大學心理學系 助理教授

藤原 健(ふじわら けん)

Profile─藤原 健
博士(人間科学)。専門は社会心理学,非言語行動。大阪経済大学講師,Arizona Univ., UC Santa Barbara客員研究員を経て,2021年より現職。共著論文にComparing manual and automated coding methods of nonverbal synchrony. Communication Methods and Measures. DOI: 10.1080/19312458.2020.1846695

私は2019年9月より1年間,科研費(国際共同研究強化A)の支援を受けてカリフォルニア大学サンタバーバラ校にて非言語的シンクロニー(話者間で非言語行動が類似していく現象)の研究に従事しました。コミュニケーション学部のN. ダンバー先生に受け入れてもらいました。思えば2012年2月,恩師である大坊郁夫先生に誘っていただき参加したSociety of Personality and Social Psychologyの第1回Nonverbalプレカンファレンスで2人のジュディ(Judith Hall先生,Judee Burgoon先生)に心奪われて以来,ずっと熱望していた海外進出でした。

海の外に想いを馳せる一方で,私の人生は国際経験とは無縁でした。留学経験もなく英語に対してずっと苦手意識を抱えていましたし,今も苦手です。そんな自分が初めて海外に長期滞在する,しかも家族(当時4歳,2歳,0歳の子どもたちと妻)と共に赴くということで,渡米前から大きな期待を寄せていました。不安がほとんどなかったのは,英語を綺麗に操る妻のお陰です。

2020年2月までの半年間,私はこの世の楽園にいました。精力的に研究するダンバー先生,そこに集う優秀な博士課程の学生,サンタバーバラというリゾート地に来るべく研究発表を行う外部の研究者,全てが研究(と全米屈指のビーチ)を中心にした生活でした。論文も制限なく読めたし,外国人院生向けの英語の授業も取らせてもらえたし,院生向けにセミナー発表をしたり,他大学でトークするなども経験できました。特に語学面については,低いレベルからスタートした分だけ多くが得られました。大学の外でも色々と経験できました。ハロウィーンは全米最大規模の賑やかさでしたし,収穫祭やクリスマス,新年を迎えるタイミングもあちらこちらのイベント(主には子ども向けのもの)に参加しました。

それら全ては2020年3月を機に一変しました。新型コロナウイルスの感染拡大です。カリフォルニア大学群は対処が早く,2020年の2月中旬には全ての授業がオンラインに切り替わり,実施していた実験は中止となりました。子どもたちも幼稚園に通うことができなくなり,州で外出禁止令が発令された3月末からは家から文字通り一歩も出ない生活を余儀なくされました。幸いトイレットペーパーなどの生活必需品は備蓄がありましたが,食べ物は全てデリバリーになりました。3人の子どもと一緒では仕事も手につかないため,日中は映画を片っ端から観ることになりました。娘たちと共にディズニー映画には大変お世話になりました。魔法の雪だるまが有名な某映画の2作目は合計30回ほど観ましたし,その他のプリンセス系映画も制覇しました。YouTubeにも多くの時間を費やし,息子はオレンジ色の眼鏡をかけた髭のオジサンの虜でした。その時期,キャラクターの真似をしたりテーマ曲を歌ったりしていたお陰で私と子どもたちの英語能力が飛躍的に向上したと思います。

6月に入り,少しずつ外出が可能になってからはほぼ毎日,居住区内のプールかどこかのビーチに足を運び,ハンバーガーやピザをテイクアウトして食べ回り,失った時間を取り戻すようにカリフォルニア生活を満喫しました。ただ,人との交流という意味での社会生活は戻ってきませんでした。美味しかった近所のコーヒー屋は閉店してしまいましたし,学内外の各種イベントは全て中止になりました。ダンバー先生やラボの学生にも最後まで会えず,感謝すら直接伝えることができませんでした。渡米前に抱いていた期待と楽園で過ごした半年間は,未知のウイルスと非情な現実にすっかり取って代わられてしまいました。それでも,海の外に道はつながっていました。激動の渡米生活から帰国して半年を待たずに現職に就くことが決まり,今度は家族揃って台湾に移住することになりました。走り続けてさえいれば,願いが叶うこともあるのだなと思いました。

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