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古典的実験機器はどのように使われていたか(7)─視覚刺激連続提示装置の場合(後半)

吉村 浩一
法政大学文学部心理学科 教授

吉村 浩一(よしむら ひろかず)

Profile─吉村 浩一
京都大学大学院教育学研究科教育方法学専攻博士課程満期退学。京都大学教養部助手,金沢大学文学部講師,助教授,明星大学人文学部教授を経て,2003年より現職。専門は知覚・認知心理学。著書は『運動現象のタキソノミー』,『逆さめがねの左右学』(いずれもナカニシヤ出版)。

写真1 ランシュブルクのメモリードラム (安藤研究所製,新潟大学蔵)
写真1 ランシュブルクのメモリードラム(安藤研究所製,新潟大学蔵)
写真2 電流断続装置付き拍節器 (竹井製作所製,新潟大学蔵)
写真2 電流断続装置付き拍節器(竹井製作所製,新潟大学蔵)
写真3 ヴィルトのメモリードラム (Zimmermann社製,京都大学蔵)
写真3 ヴィルトのメモリードラム(Zimmermann社製,京都大学蔵)
写真4 Lafayette Instrument社製 メモリードラム (京都大学蔵)の外観
写真4 Lafayette Instrument社製メモリードラム(京都大学蔵)の外観
写真5 その内部
写真5 その内部

今回は,円盤式と紙テープ式の視覚刺激連続提示装置を紹介します。注目点は,刺激送りを断続的に行うためにどのような方法が用いられているかという点です。モーターの等速回転を,少し進んでは止まる断続運動に変えるために,いくつかの方法が考案されました。

まず,写真1はランシュブルクのメモリードラムと呼ばれるものです。安藤研究所製で,新潟大学に現存しています(NG00009)。構造がわかりやすいように,前面の覆いを取り外した写真を掲載しました。一定テンポでオン・オフする外部からの電気信号によって電磁石がオン・オフし,そのたびごとに刺激の貼られた円盤が1刺激分ずつ回転しては止まる仕組みです。外部から電気信号を与えるには,前号の写真2にあったメトロノームを改造した装置(電流断続装置付き拍節器)を使います。これも新潟大学に現存していますので,写真2(NG00020)に示しました。左右に振れきった瞬間だけ,横に渡された金属製天秤棒の先の端子が液体鉛の入った壺につかり,真ん中にある端子と短絡されて電流が流れる仕組みです。同型のランシュブルクのメモリードラムは,京都大学(KT00037)にも現存しています。

続いて,ヴィルトのメモリードラムです。写真3は京都大学に現存するもの(KT00001)で,Zimmermann社製です。この写真も内部が見えるように,刺激窓のある黒い遮蔽板を上げたところを示しました。幸い,刺激が貼られた円盤が透明なので,裏側にある断続運動を作る機構を見ることができます。右上と左下に電磁石があり,電流が流れていないときは,それぞれの電磁石に取り付けられた爪が中央の黒い円盤から等間隔に30本出ている針の1本を支え,円盤の回転を止めています。円盤は,写真の下側に見える鎖の先の重りで回転させるため,この装置は柱時計のように立てた状態で使用します。回転は,上記のメトロノーム様の装置からの一定テンポの電流によって,右上と左下の電磁石の爪が交互に一瞬外れることにより生じます。円周に付けられた針を止めるための爪の位置が2つの電磁石で針間隔の半分角ずれているので,一方の電磁石の針が外れると円盤は針間隔の半分だけ回転してもう一方の電磁石の爪で止められます。こうして爪が交互に外れることで,円盤は1刺激分,動いては止まる断続動作を繰り返します。針は全部で30本なので,円盤に貼られた刺激は最大60個設置できます。円盤の代わりに前回示した写真2のような紙テープを用いれば,さらに多くの刺激を提示できます。

次の写真4は米国Lafayette Instrument社のメモリードラムで,京都大学に現存するものです(KT00063)。刺激提示窓は横に長いので,紙テープに書かれた刺激を4分割して提示することができます。外観だけでは等速回転を断続運動に変える仕組みがわからないので,内部の様子を写真5に示しました。奥の円盤状のものに爪が乗っているのがおわかりでしょうか。その円盤に真っ直ぐ切り取られた平らな部分があります。この円盤状のものが等速で回転しているところを想像してみてください。爪が円周上に乗っているあいだは爪の高さは一定で紙テープの貼られたドラムは動きませんが,切り取られた部分にくると爪はガタンと落ち,ドラムを1刺激分回転させて止まります。そして爪は円周上に戻ります。この動きを繰り返すことで,刺激を断続的に提示していくのです。

日本での現存品は見つかっていませんが,左右非対称ののこぎり歯状の歯車を用いて断続運動を生み出す方式もあり,米国で広く用いられていました。日本では,コンピュータ画面への刺激提示が普及するまで,竹井機器工業社製の「メモリーテープ」と名づけられた製品が広く使われていました。メモリーテープの断続運動は,フィルム映画の撮影機や映写機に使われていたマルテーズ・クロース機構に似た仕組みで生み出されていました。「マルテーズ・クロース」とは「マルタの十字架」という意味で,この機構の重要部分をなすピンを噛むホイールの形が十字軍時代のマルタ騎士団の十字架紋章に似ていることからこう名づけられたとのことです。360度の4分の3回転分はシャフトは空回りして回転せず,切り込みがピンを噛んだタイミングで素早く1刺激分回転する仕組みです。

わが国独自のもので,レバーを手動で押し込んで1刺激分回転させる「KY式記憶検査器」というものもありました。関西学院大学(KG00002)と東北大学(TH00029)に現存しています。「KY」とは,製造した山越工作所のイニシャルです。この会社の独自開発品には,製品名にこのイニシャルが冠されています。

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