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心理学史諸国探訪【第13回】

サトウタツヤ
ベネズエラの正式名称はベネズエラ・ボリバル共和国。ボリバルはベネズエラ生まれで南米を開放するのに力を尽くしたシモン・ボリバルの名前に由来します。19世紀にスペインから独立。南米大陸の北の海岸に位置する国であると同時にカリブ海諸国の一員という見方ができるかもしれません。

サトウタツヤ

ベネズエラ

ベネズエラ心理学の公的な始まりは1949年とされていますが,その前史として取り上げられる事柄がいくつかあります。

医学や精神医学の分野で心理学が初めて登場したのは,1928年にカルボネル(Diego Carbonell Espinal)が医学部で担当した実験心理学の講座,1935年にイザギレが発表した「ベネズエラにおける心理検査の使用に関する最初の結果」なども挙げられます。

Dr. Diego Carbonell Espinal
Dr. Diego Carbonell Espinal(1884–1945)
https://revista.svhm.org.ve/ediciones/2015/1/art-4/

また,1936年にはベネズエラ児童評議会が設立されました。ベネズエラの精神科医で教育者のベガス(Rafael Vegas)によるものです。彼はスペインで精神医学を学びスペイン内戦(1936–1939年。第二共和政期に発生し,結果としてファシズム政権が樹立した)の時にフランスに移り博士号を得ました。

Rafael Vegas
Rafael Vegas(1908–1973)
https://cslc.edu.ve/rafael-vegas/

スペイン内戦の時には,優秀な学者がベネズエラを含む南米スペイン語圏諸国に流れてきました。たとえば精神科医のアロンソは1942年にベネズエラで精神衛生同盟を設立しました。またバルセロナ大学で心理学を学んだ後,スペイン内戦時には難民になってしまったエンシソ(Guillermo Perez Enciso;1917–2007)はベネズエラに移り住み,1945年以降は教育学機構において大学レベルの心理学の授業を提供しました。そして,1956年にはスペイン語の『心理学入門』の本を出版しました。この本は歴史から始まり様々な領域の心理学を紹介する本であり,スペイン語圏の南米諸国でも使われていました。

心理学の研究と教育を牽引したのは首都カラカスにあるベネズエラ中央大学(Universidad Central de Venezuela)です。1949年に精神科医のカレスによって心理学と心理技術学研究所が設立されました。1958年に心理学部が設立されると1956年から心理学部門を牽引していたエンシソが学部長に就任しました。アカデミックな心理学研究は実験研究よりも人文社会系が強くまたカウンセリング等の職業的な心理学も盛んでした。

1950年にはパリのソルボンヌ大学とウィーン大学でトレーニングを受け,ユングやアドラーの論文をスペイン語に翻訳したことで知られるハンガリー人のブラッハフェルド(Oliver Brachfeld)が,メリダ市にあるアンデス大学の教授として勤務し精神統合と人間関係の研究所を設立しました(1952–1954年)。

Oliver Brachfeld
Oliver Brachfeld(1908–1967)
http://adleriana.blogspot.com/2014/10/foliver-brachfeld-los-sentimientos-de.html

そして,1950年代になると石油会社がアメリカで訓練を受けた心理学者たちを雇いはじめました。人事考課や優秀な若者に奨学金を与える仕事に従事しました。

1957年にはベネズエラ心理学会が設立されました。その目的の第1は科学としての心理学,職業としての心理学の尊厳を守る,第2はベネズエラにおける心理学的研究を促進する,となっていました。第3,4は省略しますが,第5の目的は他国とベネズエラ心理学の関係を強化する,でした(『The Oxford Handbook of the History of Psychology』)。

なお,ベネズエラで実験系の心理学が盛んになったのは1970年代のことであり,近代心理学のメルクマールとされる心理学実験室が整備されたのは1978年だとされています(Arias,2014)。

文献

  • Arias, W. L (2014). Historical links between Latin American psychology and pedagogy in experimentation. Propósitos y Representaciones, 2, 215–253.

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