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私の出前授業

高校生のための心理学講座 YouTube版

稲垣 勉
京都外国語大学外国語学部 准教授

稲垣 勉(いながき つとむ)

Profile─稲垣 勉
2010年,学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程中途退学。2021年より現職。旧姓は藤井。専門はパーソナリティ心理学,教育心理学。著書に『感情・人格心理学』(分担執筆,ミネルヴァ書房),Intimate relationships across cultures: A comparative study(分担執筆,Cambridge University Press)など。

このたび縁あって,「私の出前授業」に執筆させていただくことになりました。これは様々な偶然の重なり合いによるものです。当初,私が用意していた内容は,昨年度に実施された九州心理学会第81回大会(開催校:鹿児島大学教育学部)と並行して実施予定だった「高校生のための心理学講座(以下,高校生講座)」で,高校生にお話しする予定のものでした。その後,コロナ禍において対面での実施が困難となり,大会はオンラインでの開催となりました。当時の私は鹿児島大学教育学部に所属しており,本大会にスタッフとして関わる中で,ホームページの作成・運営や発表者の先生方との連絡を担当しました。新しい形式での開催であり,これまでのノウハウがほとんど使えない状況で,試行錯誤の連続でした。それでも何とか無事に終了し,安堵したことを覚えています。本年度の開催校は琉球大学ですが,この原稿の執筆中にオンライン開催となった旨の連絡がありました。所属は関西に移りましたが,今年も参加したいと思います。

執筆の経緯

さて,こうした流れの中で,対面で実施するために用意した内容はまたいつか…と思っていたのですが,「高校生のための心理学講座 YouTube版」(https://psych.or.jp/interest/lecture_hs/)で授業をおこなう機会をいただきました。正確には,私にピンポイントで依頼をいただいたわけではないのですが,高校生講座を予定していた九州心理学会の開催校の教員だったこともあり,僭越ながら私がお受けすることになりました。

図1 高校生のための心理学講座 YouTubeにアップされているものの様子
図1 高校生のための心理学講座
YouTubeにアップされているものの様子

ですが,私が主に研究しているのは,5年前のOverSeas(藤井, 2016)でも少し書かせていただきましたように,潜在的測定法による心的傾性の測定です。今回の高校生講座でお話しした「依頼と説得の技法」(https://www.youtube.com/watch?v=yqJejiLL4Ew)の領域に精通しているかと問われると,自信はないというのが正直なところで,とても小さくなりながら,この原稿を執筆しています(同時期にYouTubeに動画を掲載された先生方の錚々たる顔ぶれを拝見し,場違いなところに来た気持ちです)。恐縮するばかりですが,今回のYouTubeに掲載された動画を作成することは,自分のスライドの作り方を客観視する好機になったと感じています。以下,この点を中心にお伝えしたいと思います。

動画で使用したスライドについて

今回作成した授業動画では,依頼と説得の技法の中でも,スタンダードな(教科書などによく載っている)ものを中心にお話ししています。たとえば,「返報性のルール」や,「拒否したら譲歩」「一貫性の圧力」「希少性の原理」,そして「一面的/二面的なメッセージ」などです。こうした内容を44枚のスライドにまとめて,27分ほどの動画を作成しました。

さて,44枚という数字,みなさまはどう感じられたでしょうか。おそらく「27分の内容に44枚は多すぎ」と思われる方が多いのではないかと予想します。どれだけ濃い内容なのかと期待してくださる方もいるかもしれませんが,動画をご覧いただくとお分かりのように,詳しい解説はできていません。それでは,なぜこんなにスライドが多いのでしょうか?

それは恥ずかしながら,主に私自身の情報処理能力の低さによります。学会の年次大会に参加すると,口頭発表やシンポジウムなど,スライドと並行したプレゼンテーションを拝見する機会が多々あります。その中で,特に自分の研究領域と違うものには「追いつけない!」と思うことが多々あります。それでも,周りをキョロキョロと見渡せば,深くうなずきながら聴いている方,ニヤリと笑みを浮かべつつ聴いている方など,明らかに私の理解が遅いことが分かります(これはご発表者の方が悪いのではなく,私の理解が単に遅いだけです)。

授業のスライド作りへのあてはめ

こうした経験から,私は「自分のように理解がゆっくりな人に向けてスライドを作ろう」と心がけています。具体的には,①スライドのフォントサイズは28ポイント以上(どれだけ小さくても26ポイント)とし,②どうにもならない場合を除き,3行以上の文章を提示しない,それでも③あまり箇条書きにはせず,話す内容に近いものを載せる,④1枚のスライドで複数の話題に触れない,などの点に留意しています。そうすると,1枚のスライドに載せられる情報は減り,枚数が増えていきます。これは頭の回転の速い人からすれば退屈・冗長かもしれませんが,幸い,これまでの授業評価アンケートなどを見る限り,ポジティブな評価を受けることが多いようです。

ご存じのとおり,コロナ禍の影響により,昨年度から多くの大学で遠隔授業が導入されています。私も昨年度はZoomで,本年度はMicrosoft Teamsを用いて,双方向型の遠隔授業やオンデマンド授業を行っています。昨年度に遠隔でゼミを行いながら気づいたのですが,画面共有で提示される資料は,受け手(視聴者側)の認知的な資源をかなり奪います。このような状況では,スライド1枚あたりの情報量をできるだけ減らすことも,これまで以上に重要になるのではないかと感じました(調査や実験によるものではなく,感覚的なものですが)。

「YouTubeデビュー!」を経験して

これまで「限定公開」の形でYouTubeに授業動画を公開した経験はありますが,今回は様々な偶然が重なり,検索可能な動画をアップすることとなりました。これにあたり,自分の授業動画を何度もチェックするという(恥ずかしすぎて辛い)経験をする中で,自分のスライドの作り方を客観的に見る好機が得られました。このやり方が一概によいかどうかは分かりませんが,どなたかの参考になれば幸いです。

文献

  • 藤井勉(2016). 「韓国での研究生活」『心理学ワールド』73,38.

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