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私のワークライフバランス
ギース調査から見る研究者の生活
滑田 明暢(なめだ あきのぶ)
Profile─滑田 明暢
立命館大学大学院文学研究科博士課程後期課程修了。博士(文学)。2018年より現職。専門は応用社会心理学。著書に『ワードマップ TEA実践編:複線径路等至性アプローチを活用する』(共編著,新曜社)など。
本コーナーでは,お一人おひとりのワークライフバランスのあり方をご執筆いただいてきましたが,今回は調査結果に基づきながら心理学系研究者の生活の全体的な傾向についてご報告していただきます。
「私のワークライフバランス」のコーナーですが,今回は一つの調査結果をもとに研究者のワークライフの一端を見てみたいと思います。題材とする調査は,2018年に日本学術会議第一部総合ジェンダー分科会と人文社会科学系学協会男女共同参画推進連絡会(略称,ギース,GEAHSS:Gender Equality Association for Humanities and Social Sciences)が実施主体として行った調査です。ギースは,人文社会科学系の学協会が連携してジェンダー平等の推進を図ることができるように設立された団体です。調査結果は,報告書としてウェブサイトにて公開されています(https://geahssoffice.wixsite.com/geahss/blank-4)。
さて,その調査は2018年6月13日〜11月30日の期間に実施され,人文社会科学系の学協会会員2,972名(そのうち,心理学系を専門とする回答者は2割程度)が回答したものでした。調査全体としては,研究者の仕事環境や家族事情,そして,キャリア形成の過程や男女共同参画をめぐる認識などについての設問が配されたものでしたが,今回はワークライフに関わる箇所として,まずは研究者の仕事時間と研究時間についての結果を見てみたいと思います。
回答者全体としては,1週間あたりの仕事時間の合計(職場にいる時間と自宅での仕事時間)の平均は,女性54.1時間,男性55.4時間でした。そのうち,1週間あたりの研究時間の合計(職場で行う研究時間と自宅で行う研究時間)は,女性17.5時間,男性20.8時間でした。研究時間比率(研究時間の合計を仕事時間の合計で除し,100を乗じた数)は,全体で見れば男性においてより数値が大きく(女性32.3%,男性37.6%),役職別,年齢層別に整理したときには,教授職や50代においてその差が大きかったことが報告されています(報告書第4章「時間のジェンダー差」本田由紀)。
心理学分野の回答者の回答では,1週間あたりの仕事時間の合計の平均は,女性52.4時間,男性58.7時間で,1週間あたりの研究時間の合計は,女性16.3時間,男性18.4時間でした。研究時間比率は,女性31.1%,男性31.3%でした。性別ごとに全体の結果と比べると,心理学系における男性の回答においてやや仕事時間が長く研究時間が短い(研究時間比率の値が小さい)という特徴があるといえるかもしれません(報告書第4章)。
では,ワーク以外のライフの部分の結果はどうだったでしょうか。一側面として,育児に焦点を当ててみたいと思います。調査全体の結果を見ると,就学前の子どもの昼間の育児の担当者をたずねた設問では,自分自身が担当したと答えた人の割合は,女性で48.9%,男性で20.7%でした。子どもがいるということで研究活動において不利と感じたことはあるかをたずねた設問では,538名(該当する女性回答者の34%)の女性と282名(該当する男性回答者の20%)の男性が,研究時間がとれなかったことを回答していました。この結果からは,育児については男性と比べると女性がより担っている状況があることを見て取ることができる一方で,女性も男性も少なくない割合の人が主な担い手として育児に参加しており,仕事と育児の両立などの課題は,性別を問わず,共通して立ち上がってくる課題であることも確認されたように思います(報告書第5章「研究者たちの家族事情にみるジェンダー構造,および第7章「男女共同参画をめぐる認識」滑田明暢)。
今回は,上記調査の分析委員会に参加させていただいたことから,その結果の一部を執筆させていただくこととなりました。自分のことを振り返ると,ライフとライフ,ワークとワーク,ライフとワークのバランスは迷いながらですが,自分なりにそれぞれの時間を大切にできればと感じます。
文献
- 人文社会科学系学協会男女共同参画推進連絡会/調査企画委員会・調査分析委員会(2020年2月)『人文社会科学系研究者の男女共同参画実態調査(第1回)報告書』
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