この人をたずねて
外山美樹 氏(とやま みき)
Profile─外山美樹 氏
筑波大学心理学系 技官,同 助手,日本学術振興会特別研究員(PD),鹿屋体育大学体育学部 講師,筑波大学人間総合科学研究科 准教授などを経て2012年より現職。博士(心理学)。専門は教育心理学,社会心理学。単著に『行動を起こし,持続する力』(新曜社),『実力発揮メソッド』(講談社),『勉強する気はなぜ起きないのか』(筑摩書房)など。
外山先生へのインタビュー
─心理学に興味を持ったきっかけをおしえてください。
高校1年生の時にカウンセラーの先生の部屋の掃除の担当になったんです。空いてる時間にいろいろな性格検査をやってみて,このような検査から人の性格を推測するというのはおもしろいと思っていました。高校2年の冬に,クラスメートが自殺したということがありました。それは17歳の私にとっては衝撃的な出来事で,「クラスメートを救うことはできなかったのか?」と思ったのと同時に,「なぜ人は,そのような選択をすることがあるのだろうか?」と考え,人のこころや行動のメカニズムについて学びたいと思い,心理学の道に進みました。
─研究者になった経緯をおしえてください。
大学院のころは,困っている人の援助を自らが行いたいと思って臨床活動を行っていたのですが,自分が直接援助することよりも,起きている問題の現象やそのメカニズムを解明することに興味があることに気づきました。臨床活動は重要ですが,私が一対一でかかわるよりもかかわっている人たちに何か役立つような研究をしたいと思い,研究者になることを目指しました。目指したといっても,研究が好きで,大好きな研究をやっているうちに,いつの間にか研究者になっていたという感じです。
─外山先生は,動機づけや自己認知など幅広いテーマでご研究をなさっていますね。それらの研究を行う上で大切にしている視点についておしえてください。
どのような特徴(構成概念)においても,ネガティブな側面とポジティブな側面の両方があるということを常に頭に入れて,両方の側面から物事を見るようにしています。ですので,ある特徴(構成概念)の一側面でしか語られていない時には,もう片方の側面の研究をしたくなります。例えば,悲観性はネガティブに捉えられがちですけれど,そんなに悪いことばかりだったらどうして進化の過程で悲観的に考えるという行動や認知がなくならないのでしょうか。それなりの機能があるのではないかと考え,悲観性のポジティブな側面,楽観性のネガティブな側面などの研究をするに至りました。いろいろな側面から物事を見ていくことを大事にしているつもりです。
─先生のご研究に因んで,ご自身のご研究に対する「動機づけ」をおしえてください。
いろいろな動機づけに支えられて研究を行っています。まずは,研究がおもしろい,楽しいといった内発的な動機づけが何よりも強いのですが,研究をすることによって自己実現が可能になったり(統合的調整),この研究の内容が誰かの役に立つのかもしれないという大きな目標のためだったり(同一化的調整),共同研究などでは皆に迷惑をかけられないという思い(取り入れ的調整)など,さまざまな動機づけで研究を行っていますので,それが途切れることなく,日々楽しく研究を行っております。
今後は,研究者の動機づけについても研究したいと思っています。好きで研究を行うのも大事だと思いますが,いろいろな動機づけに支えられることが重要なのかなと思います。内発的動機づけだけがよいわけではないので,外発的動機づけでもより自律性の高い動機づけで研究をしていればいいんじゃないかなと思います。
─学生指導を行う上で大切にしていることはありますか。
大学院生に対しては,自分が一方的に指導しているとは思っていません。共同研究者として,お互い切磋琢磨しながら楽しく研究をしていきたいと思っています。
もともと人とかかわるのが好きですし,何かの縁があって,目の前のいる人と知り合うことができたのだと思って,院生にしろ卒論生にしろ,その出会いを大事にしたいと思っています。特に院生とはすごく長い付き合いになるので,良い時も悪い時も一緒に過ごしている家族のような存在です。研究室のメンバーが巣立っていくのは半分嬉しくて半分寂しいみたいな気持ちになります。でも私たちの世界って修了したら終わりじゃなくて,また一緒に共同研究できたり,学会などでお会いできたりするので,まあそこまで寂しく考えなくてもいいのかなと思うんですけど。
─研究や仕事と,プライベートの両立についてはいかがですか?
オンとオフの切り替えはすごく意識していますね。基本的に,私は夜や土日は一切仕事をしないということを学生さんにも公言していますし,院生さんにもなるべくそうしてほしいと伝えています。ここぞという時には時間をかけて取り組むんですけれども,リフレッシュする時にはリフレッシュしてもらいたい,研究だけやっていればいいというふうには思わないでほしいと思っています。
今は娘が中学校1年生になったので手が離れましたが,娘が小さかったころはものすごく手がかかっていて,自宅に戻ったら娘のことで精一杯になっていました。そういう意味でもオンとオフを切り替えていたのかなと思います。娘が3歳ぐらいになるまでは研究活動はほとんどできていなかったですね。どんどん取り残されるような気がして焦ったこともあったんですけど,今しか楽しめないことなんだと思って,その時は仕事と子育てを両立することに専念していました。筑波大学着任1年目に娘が生まれたので,3~4年くらいまではもう思い出せないくらい忙しかったです。ですが,発達の過程を生で見ることができたのは大きな経験でした。
─今後のご研究の抱負をおしえてください。
今後も,自分がおもしろい!研究したい!と思うことを研究するつもりです。ただ,研究者としてすでに半分くらいの道のりを歩んできたので,もう少し社会に還元できる研究をしたいと思っています。後進に伝えたいなという気持ちが湧いてきているところです。最近は大学生や成人を対象とした研究を行うことが多いので,今後は小学生・中学生・高校生を対象にして研究したいなとか。それを世の中に広く知ってもらいたいので,得られた知見の書籍化や講演などを積極的に行っていく必要があると思っています。
─若手研究者への一言をお願いします。
私は,大学院で臨床活動やNPO法人の活動を行ったり,自分の博士論文とは全く関係がないテーマをサブ研究したりしていたのですが,そうした経験が今につながっているとよく感じています。若いころに自分の研究テーマとは直接的には関係がない分野・領域で活動をしたり,論文を読んだりすることが未来のあなたにつながるかもしれませんね!
インタビュアーの自己紹介
インタビューを終えて
実は,私が学部3年生の時に初めて一人で読んだ論文が外山先生の論文でした。防衛的悲観主義の人は楽観的な思考を用いないことで高いパフォーマンスを修めることができるという内容で,防衛的悲観主義の特徴が当てはまると思っていた私は励まされ,このままの私でもよいのかもしれないと希望を持つことができたのを覚えています。一般的に「良し」とされる特徴に当てはまらずに悩む人は多いと思いますが,今回のインタビューは,そういった特徴を懐疑的に見る視点の重要性を再認識する機会となりました。
外山先生のご研究のテーマは多岐にわたりますが,今回直接お話をうかがう中で,すべての研究テーマの根底には「救いたい」という思いがあってつながっているように感じました。論文やご著書には先生の温かいお人柄が滲み出ているように感じています。先生の思いの詰まったご研究をこれからも楽しみにしています。
研究テーマ
子どもは,「楽しいね」「びっくりしたね」「こわかったね」など,大人に感情を代弁してもらう中で自分の感情に気づきます。そして自分の気持ちを他者に伝えたり,相手の感情を推し量ったり,自分の感情をコントロールする方法を身につけたりしていきます。子どもがどのような感情語を聞いて育ち,感情語を獲得していくのか,そして感情にまつわる能力がどのように発達していくのかに興味を持って研究を行っています。
Profile─はまな まい
東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター 特任助教。東京大学大学院教育学研究科 博士課程単位取得満期退学(教育学)。専門は発達心理学。主著に『ひと目でわかる発達:誕生から高齢期までの生涯発達心理学』(分担執筆,福村出版)など。
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