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ここでも活きてる心理学

グランドハンドリング業務と心理学

ANAエアポートサービス株式会社安全推進部

入山 茂(いりやま しげる)

Profile─入山 茂
博士(社会心理学)。専門は犯罪心理学,法と心理学,社会心理学。航空危険物輸送の教官,空港の安全品質管理業務等を経て現職。司法・犯罪心理学等の非常勤講師としても活動。著書に『司法・犯罪心理学入門』(共著,福村出版)など。

心理学を活用した資料を作成して安全講習会を開催した際に部内で表彰されました。
心理学を活用した資料を作成して安全講習会を開催した際に部内で表彰されました。

私は,研究者と航空会社のグランドスタッフという「二刀流」の生活を送っています。ここでは,グランドスタッフが行うグランドハンドリング業務の紹介とそこで私が個人的に実践している心理学の活用について書かせていただきます。

グランドハンドリング業務とは,航空機が空港に到着してから出発するまでの限られた時間内に行われる旅客サービス業務,ランプサービス業務,オペレーションコントロール業務などの地上支援作業のことです。旅客サービス業務には,航空券の発券,手荷物の受託,ロビーでのサービスなどがあります。ランプサービス業務には,手荷物・郵便・貨物の搭載・取降,機内清掃,航空機のプッシュバック(特殊車両を使用して航空機を自走可能な位置まで押し出す作業)などがあります。オペレーションコントロール業務には,航空機の重心位置や重量の管理,駐機場の割り当て調整,運航支援などがあります。どれも時間内に膨大な情報を処理し,判断を下し,行動しなければならないハードな業務です。実際,入社した頃は,情報処理が追いつかず,よくパニックになっていました。

グランドハンドリング業務と私の研究活動は,元々は全く関係のないものでした。私の主な研究テーマは,検視における死亡様態(自然死・事故死・自殺・他殺)の判断と死体現場等の状況要因の関連についてです。家族の経済的な事情により,一旦大学院博士後期課程を諦め,就職活動した結果,唯一内定をいただけたのが,勤務先であるANAエアポートサービス㈱(の前身である会社)だったのです。当時は,いわゆる「リーマン・ショック」が起き,就職活動も大変厳しいものでした。しかし,研究を諦めきれない私は,働きながら研究を続けました。最初はフリーな立場で,2016年4月からは大学院博士後期課程に進学し,研究を続けました。心理学を活用してグランドハンドリング業務を支援できないかを考え始めたのは,グランドハンドリング業務における不具合(例:車両事故,旅客,手荷物,郵便,貨物などに関わる誤った重量の登録)を未然に防止し,安全性や品質を維持・向上させる活動を推進する部署に異動したことがきっかけでした。

航空業界では,会社ごとに安全管理システム(Safety Management System)が設定されています。従業員を対象とした業務自体やその状況に潜むリスクに関する教育や研修の中では,認知バイアスなどの心理学の研究知見についても簡単ではありますが解説がされています。そこで,私は,こうした教育や研修に注目し,事あるごとに教育や研修の関係者に対して,より詳しい内容や研究事例について,グランドハンドリング業務の内容に置き換えながら補足説明し,関連する参考書や資料を紹介するという個人的な活動をしています。例えば,「思い込み」は,不具合の主な原因のひとつになっていますが,単に不具合の原因を「思い込み」とすると,当事者の個人的な問題として取り扱われかねません。思い込みの背後にある心理過程とそれを取り巻く状況要因について考えてもらうことにより,作業手順の見直し(例:リチェック機能の導入)などを検討する視点が生まれます。地道な活動ですが,不具合の未然防止に少しでも貢献したいと思っています。

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