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習慣形成の健康心理学

島崎 崇史
東京慈恵会医科大学医学部環境保健医学講座 助教

島崎 崇史(しまざき たかし)

Profile─島崎 崇史
早稲田大学大学院人間科学研究科人間科学専攻博士後期課程修了。博士(人間科学)。2021年より現職。専門は健康心理学。単著に『ヘルスコミュニケーション:健康行動を習慣化させるための支援』(早稲田大学出版部)。

やる気は十分!でも……

皆さんには「三日坊主」すなわち望ましい行動が3日と続かないような経験がありますか。思い当たる方は,自分は意志の弱い人間だと落ち込んだ経験をお持ちかもしれません。ですが「明日からジョギング」「おやつは食べない」「スマホは無駄に見ない」「朝英語の勉強する」など,自分で決めた行動を3日も続けられる方は,むしろ意志が強いのではないかと感じます。継続すれば自分に利益をもたらす行動は,心理的な負担感が高く,続けることが困難でもあります。また,効果を重視するがあまりに非現実的な目標を立ててしまい,図1のように「明日から〜する」の明日がいつまでたっても来ないというのは良くある事です。

図1 いつまでたっても明日が来ない
図1 いつまでたっても明日が来ない

習慣形成(habit formation)という分野では,望ましい行動をいかに毎日のルーティンの中に根付かせるかについて興味深い研究が数多く行われております。今回は,習慣形成について健康心理学の側面から紹介します。

なぜ「わかっちゃいるけどできない」のだろうか

「わかっちゃいるけどできない」状態では,意図と行動にギャップ(intention-behavior gap)[1]が生じていると考えられます。行動の予測因子を示した多くのモデル(計画的行動理論[2]など)では,〜しようと思うから(意図)〜する(行動)のように意図を行動の先行要因と仮定しています。ですが私たちの生活の中では「お腹周りが気になるから運動しなきゃ」とわかっていながら,実際にはできていない(意図有・行動無),朝起きた時「よし!顔を洗いに行くぞ!」とはりきらなくても,無意識に顔を洗っている(意図無・行動有)など,必ずしも意図と行動がつながっていない場面も多くあります。これまでの研究[1]では,意図で行動が説明できるのはおよそ50%程度と考えられています。真面目な人ほど続けられない自分を責めてしまいますが「わかっちゃいるけどできない」のは,むしろ普通のことなのです。

「習慣」とは何か

ここでは,望ましい行動が実行できている「習慣」について考えてみましょう。人が行動を実施するまでの過程を,古典的な心理・行動モデルで捉えてみます。人は,外界から刺激を受けると「やらなきゃ」と考え,行動を起こします。たとえば友達から「最近ダイエット始めたんだよね〜」という話を聞いたら,それが刺激になり「自分もやらなきゃ!」と意図して,ダイエットを始めるというのはよくあることです。一方,こうした行動は「やらなきゃ!」という認知的努力を必要としているため,心理的な負担感も高く,一度きりの行動で終わってしまいやすいという特徴があります。

一方,例えば図2のように,同じ外的刺激でも,午後5時のチャイムが鳴ったら,それを合図にして15分間散歩するなど,日々のルーティンの中にあるものをきっかけにして行動を反復していると,徐々に認知的努力や負担感が減り,特別に意識せずとも刺激があると行動できるという段階になります。このような状態を「習慣」と言います。習慣形成には「刺激への暴露→行動の実践」を反復することが重要です[3]

図2 習慣形成のメカニズム
図2 習慣形成のメカニズム

ふたつのプランを意識してみましょう

ここからは,習慣形成を助ける目標(プラン)の立て方について紹介します。意図と行動のギャップを解消し,習慣形成を実現するためには,図3に示すような「ふたつのプラン」[4]を立てることが大切と考えられています。

図3 行動・対処計画作成のコツ
図3 行動・対処計画作成のコツ

アクションプラン(行動計画)

ひとつめは,行動計画です。行動計画とは,毎日の生活の中で「具体的に何をするのか」を決めることです。行動計画を決める際には,イフゼンルールを意識するとより習慣化しやすいと言われています。イフゼンルールとは「も し(if)~という場面・状況になったら,その時は(then)~する」といったように,行動を起こすきっかけと,行動計画とを一緒に考える手法です。たとえば「お風呂上がりに(場面・刺激),ストレッチをする(行動)」などは習慣形成につながりやすい行動計画と言えるでしょう。

コーピングプラン(対処計画)

さらに「サボってしまう要因に直面し,行動計画を行えなかった時にどう対処するか」すなわち対処計画も一緒に考えておきましょう。雨で散歩ができない日には5回だけ腕立て伏せなど「何もしないのはまずい!」という思考を大切にして,あらかじめ対処計画を用意しておきましょう。

「続けられる人」になるために

プランを立てたら,いざ実践です。実践の場面では,自分が決めた目標を意識できるように,スマホの待受を目標・プランを意識したものに変える(刺激コントロール),取り組みの状況を記録する(セルフモニタリング)といった行動変容技法を活用しましょう。さらに「行動の習慣形成には時間がかかる」という心構えを持っておくことも大切です。習慣形成に要する期間には大きな個人差がありますが,健康行動の習慣形成に注目した研究[5]では,認知的努力が低減するまでの期間が参加者の中央値で66日(18−254日)であったと報告されています。そのため,何かを始めて2か月程度は「面倒でも頑張ろう」という期間なのだと覚悟しておきましょう。また,家族や友人に励ましや,一緒に実施するといったソーシャルサポートをお願いしておくことは,習慣形成に貢献するかもしれません。

実際には簡単ではありませんが「三歩進んで二歩下がっても一歩は前進している!」という前向きな姿勢で,健康行動に限らずさまざまな行動の習慣形成に取り組んでみてください。

  • 1.Sheeran, P. (2002) Eur Rev Soc Psychol, 12, 1-36.
  • 2.Ajzen, I. (1991) Organ Behav Hum Decis Process, 50, 179-211.
  • 3.Gardner, B. et al. (2012) Br J Gen Pract, 62, 664-666.
  • 4.Schwarzer, R., & Lippke, S. (2011) Rehabil Psychol, 56, 161-170.
  • 5.Lally, P. (2010) Eur J Soc Psychol, 40, 998-1009.

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