公益社団法人 日本心理学会

詳細検索

心理学ワールド 絞込み


号 ~

執筆・投稿の手びき 絞込み

MENU

刊行物

  1. HOME
  2. 刊行物のご案内
  3. 心理学ワールド
  4. 105号 リーダーシップ
  5. 関係性のリーダーシップから見えてくる個人と組織の力学

【特集】

関係性のリーダーシップから見えてくる個人と組織の力学

山浦 一保
立命館大学スポーツ健康科学部 教授

山浦 一保(やまうら かずほ)

Profile─山浦 一保
博士(学術)。専門は産業・組織心理学,社会心理学。(財)集団力学研究所,中央労働災害防止協会,静岡県立大学講師を経て,2010年立命館大学スポーツ健康科学部研究科准教授,2016年より現職。著書に『武器としての組織心理学』(単著,ダイヤモンド社),『社会心理学的リーダーシップ研究のパースペクティブⅡ』(分担執筆,ナカニシヤ出版)など。

リーダーシップ研究を続けるわけ

“企業内の問題を解決しようと比較的高度の創造力を駆使し,手練をつくし,創意工夫をこらす能力は,たいていの人に備わっているものであり,一部の人だけのものではない”(D・マグレガー『企業の人間的創造』 , p. 55) [1]

“人が集まってくることが始まりであり,人が一緒にいることで進歩があり,人が一緒に働くことが成功をもたらす”(実業家 ヘンリー・フォード)

現代は,企業組織,社会経済の持続的な発展に不可欠な知識創造を目指す時代である。そして,その源泉であり,お互いの知識や情報,智慧を紡ぐのは一人一人の存在である。新しい“何か”を見つけたとき,その“何か”を生み出す仕事に携わることができたとき,人は,やり甲斐,働き甲斐,生き甲斐をもっとも実感することができるように思われる。

自分では気づかない“何か”を引き出す他者(たち)がいてくれることで,人と関わる喜びや楽しさを知り,感謝や畏敬の念を抱くようになる。そのような経験や感情のゆらぎが多様であるほど,個人は幸福感を味わい,健やかに過ごすことができる[2]

個々人のそのような,潜在する創造的な能力をいかにして引き出すか。私たちはどこまでそれを豊かに引き出せる他者,組織になれるだろうか。それに挑戦しようとして,各種のリーダーシップ論が展開してきている。時代の変化とともに,リーダーシップに関わる現場課題が生まれ,研究もまた衰えることを知らないまま今日に至る。

企業組織とそこで活動する個人の幸福(例えば,“甲斐”の実感)を願い,成長・飛躍の可能性を信じて,現場と一緒にそのマネジメントのあり方を考えることができるのは,リーダーシップ研究の魅力である。

リーダーシップの研究と現場

リーダーとその他のメンバー(たち)との関わりについて,みなさんはどのようなイメージを抱くだろうか(図1)。リーダーシップとは,集団の目標達成を意図して,集団のメンバーに対して発揮される影響力,そのプロセスと定義される。これまで実に多くの人たちが,リーダーはどうすれば効果的であるのかと問うてきた。研究者も実務家も考え続け,とてつもなく多くの研究が行われ,ビジネス書は次々に出版され店頭に並び続けている。

図1 今からの 「社会の創造」や「自分の成長」にとって有効で,実行できそうなリーダーシップはどれか?
図1 今からの 「社会の創造」や「自分の成長」にとって有効で,実行できそうなリーダーシップはどれか?

リーダーシップは,実践されてこそ価値を生む。しかし,リーダーシップに関わる課題の一つはここにある。前述したリーダーシップの定義の一文に“リーダーが”という主語を入れた途端,リーダーという地位・役割の重責が圧し掛かり躊躇してしまう。先頭に立ち,組織・チームを力強く率いる人の姿をイメージし,自分はそういうタイプではないと思う。どうすればリーダーシップを身近に感じ,まずは“少しやってみようかな,それならできるかもしれない”と考えるようになるのか…。

実のところ,(誤解を恐れずに言えば)どのリーダーシップ理論でもよいようにすら思えている。ただし,「ある一つのこと」を満たして実践されていれば。それを最大限に満たしてくれそうなのが,筆者の中では「関係性のリーダーシップ」の理論であると今は考えている。そこで,この「ある一つのこと」をお伝えし,その後,関係性のリーダーシップに関する研究の動向や展開を紹介させていただく。

リーダーシップにおける「ある一つのこと」

この「ある一つのこと」を実感させてくれた共同研究とデータがあった(図2) [3]。それは,上司(サクラ)によるポジティブ・フィードバックの効果に関する実験であった。西日本旅客鉄道(株)福知山線における列車脱線事故を受けて,職場の上司-部下の関係性や指導のあり方に強い関心を寄せたことがこの実験の原動力になった。

図2 リーダーとメンバーの関係性とポジティブ・フィードバックの効果 (文献3にもとづいて作成: maximizing quality goal orientationのみ,M(SD); 得点範囲:4-24点)
図2 リーダーとメンバーの関係性とポジティブ・フィードバックの効果
(文献[3]にもとづいて作成: maximizing quality goal orientationのみ,M(SD); 得点範囲:4-24点)

部下(実験参加者)は,ひと作業ごとに上司から工夫して仕事に取り組んだことを褒めるフィードバックを受けた(あるいは,受けなかった)。結果は,先行研究のとおり,ポジティブ・フィードバックを受けたときの方が,それを受けなかったときよりも次の課題に対する責任感を高めた。

しかし,この結果は条件つきであった。実は,この実験では,もう一つの要因─上司との関係性(良好であるか,疎遠であるか)─の操作を加えていた。課題を行う前に上司と良好な関係性を築いていた場合(図2右),部下の責任感はポジティブ・フィードバックによって促進されたのに対して,疎遠な関係性の場合には逆に低下した(図2左)。

この結果は,(当然)望ましい効果を生むと思われる前向きな言葉や働きかけすらも,相手に必ずしもストレートには届かないことがあるということである。このことは,どんなに強力なリーダーシップ(論)があったところで,現場でその効果をみることができず,それゆえにリーダーシップの難しさや実践の戸惑いを大きくしているのかもしれないという気づきをもたらしてくれた

互いに心地よく安定して,一緒に協力して取り組むことができる関係性を創ることは,私たちが日々試みていることである。その営みこそが,組織・チームにおけるリーダーシップであると理解されれば,多くの人にとって馴染みがよさそうに思う。しかも,「良い」関わりであろうとする自身の姿勢や行動が,個人にとっても組織・チームにとっても「効果的」であるならば,リーダーシップの小難しい(というイメージの)ハードルを越えられるかもしれない。

関係性のリーダーシップとその効果

関係性のリーダーシップを積極的に扱っている理論は,リーダー−メンバーの交換関係(leader-member exchange: LMX)理論である。この理論では,リーダー-メンバーの二者関係を基盤とし,多様に形成されるこれらの関係性の総体として集団運営を考える。リーダーやメンバーは,お互いに有用だと思われるサポート資源を授受し,相互の尊敬,信頼,互恵的な義務の3要素をベースに関係性や役割を形成していく[4]。すなわち,このLMX理論では,リーダー中心あるいはフォロワー中心というよりも,お互いに学び合う関わりを目指し,その結果として組織が発展するという考えである(図1のタイプⅢ)。

ここで肝心なことは,前節で触れたように,関係性(のリーダーシップ)によって個人や組織・チームに望ましい成果がもたらされるのかという点である。これについては,短期間でメタ分析を行うに十分足り得るほどの研究が蓄積され続けている。

図3左に示すとおり,LMXは,個人の心身の健康や職務・安全に関わる行動にそれぞれポジティブに影響することが分かっている。知識創造や組織変革の推進に直接的に関わるところでは,部下の建設的な発言行動や創造性を促し,知識の隠蔽行動は抑制される。また,LMXの効果は,心理的安全性の風土(醸成)を介してメンバーたちの学習行動の活性化に及ぶことなども報告されている[5]

図3 「関係性のリーダーシップ」研究の動向と展開例 リーダーとの疎遠な関係が元々の原因なのに,協力すべき仲間にそのネガティブな矛先が向いてしまうことがある。
図3 「関係性のリーダーシップ」研究の動向と展開例
リーダーとの疎遠な関係が元々の原因なのに,協力すべき仲間にそのネガティブな矛先が向いてしまうことがある。

もちろん,LMXとチームの成果の関係は,文脈的な要因を考慮することなく決定されることはない。物理的・空間的な環境(例えば,現場店舗の混雑具合など),あるいは人材の多様化を反映した組織内環境(例えば,各メンバーたちが有するスキルのばらつきの大小など)の違いによって,LMXのポジティブな効果がより顕著にみられたり弱化したりすることが明らかになっている。おそらくは,リーダーもその他のメンバー(たち)も,お互いが保有している資源の存在とその有用性に気づくことができるか,そしてそれらを適切に活用するという判断や認知的処理を行うことができるかどうかが,こうした効果の大きさに関与していると考えられる。

果たして関係性のリーダーシップは万能か

上記のとおり,これまでLMX研究の多くは,リーダーと他のメンバー(たち)の関係性は重要で,それは組織の目標達成と同時に,個人の心身の健康を維持,向上させることを示してきた。これだけをみれば,さほど目新しい結論ではないかもしれない。しかし,いずれの研究も,LMXの一貫した知見の発展に寄与しており重要である。

そのような研究動向の中で,筆者が興味を寄せているのは,LMXのダークサイド現象である[6]。ここでは二つのことを紹介してみたい。

(1)良好すぎる関係性ゆえのダークサイド!?

心理的なストレスを抱えやすくなるのは,実は,リーダーとの関係性の質が低いメンバー(たち)だけではないと報告された。例えば,リーダーと高い質の関係性を高くことができているメンバー(たち)は,“その関係性を壊したくない”と思い,“リーダーの期待に添い続けたい”と願うあまり,情緒的な消耗感を経験する傾向がみられると言う[7]。また,リーダーのためになることであれば,組織にとってダメージになる非倫理的な行動さえもとったりするとの報告もある[8]

このような知見に触れるにつけ,組織が組織であるための目標を見失わず,その目標達成のプロセスを円滑にするために関係性構築がある,というマネジメントの重要性を示唆しているように思われる。

(2)多様な二者関係で仲間割れのダークサイド!?

次に挙げるダークサイド現象は,一人のリーダーに対して複数のメンバーたちがおり,それぞれに独自の関係性を形成していることで生じる。同じ組織・チームの中に,リーダーとの関係性の質が高い,いわゆる「えこひいき」されているメンバーもいれば,そうでないメンバーもいる。

上述のとおり,LMXのポジティブな側面に光を当てた研究が主流であり,関係性の質が低いメンバー(たち)の心理状態にはほとんど注目されてこなかった。そのような中,比較的最近になって,関係性の質が低いメンバー(たち)が経験しやすい感情の一つとして,「妬み(envy)」感情が取り上げるようになった。とりわけこの感情を表出することは,社会的,道徳的に望ましくないとされ,観察されにくいため,企業組織・チームを対象とした研究ではほとんど注目されてこなかった。

しかし,シェイクスピアは戯曲『オセロ』で,禍をもたらす妬みのことを”green-eyed monster(緑色の目をした怪物)“と表現した。そして,妬み感情が現場の人たちを蝕む様子は,徐々に研究で明らかにされている(図3右)。もともとはリーダーとメンバーの関係性の問題であったはずなのに,気づくとメンバーどうしの間が分断され協力的な関係でなくなり,職場の雰囲気が悪化していく。

そうした現象と裏づけの知見を踏まえたとき,次なる課題は,この緑色の目をした怪物とどう向き合い,個人や組織・チームのマネジメントを講じればよいのかを現場に提案していくことである。松下幸之助氏は,“嫉妬心は狐色にほどよく妬かなければならない”と言った[9]。狐色にできれば,私たちはよきライバルを得て,目標に向けて切磋琢磨する集団規範・風土の醸成や組織力の発揮を期待することができそうである[6]

また,リーダーと疎遠な関係性にあるメンバー(たち)の心理や潜在能力の引き出し方についても,一つ二つ増やせるかもしれない。複雑な人間関係や潜在化しやすい人間どうしの心の状態については,慎重な扱いと測定方法の工夫を要する。組織・チームにおける人間関係を生理的反応(心拍変動の同期)として捉える計測機器の開発を行い,それを用いることで現象の把握や機序が紐解かれるだろうと考えている[10]

まずは“良好な”関係性から,目指すは機動力あるハイブリッド型のリーダーシップへ

関係性のリーダーシップは,すべてのメンバーたちがオープンなマインドで交流し,お互いの実情を理解し合い,信頼を構築する。相談し合い,経験に意味づけを行い,創造的で突飛なアイデアを持ち寄って共創や改善を繰り返し促していくことで,組織の成果を生む。このような関係性のリーダーシップは,心理的安全性の風土醸成とも馴染みのよいリーダーシップと言えるだろう。リーダーもメンバーとともに学び,その中で協力と活力を得ていく姿がそこにはある。平時・日常場面で,このリーダーシップが十分に発揮されれば,いざという時の指揮系統は明確に強く受け入れられ,迅速な上意下達を実現するはずである(図4)。

図4 関係性のリーダーシップを基盤に緊急事態の対応力へ
図4 関係性のリーダーシップを基盤に緊急事態の対応力へ

リーダーは,その役割・使命感を果たすために,機動力ある立ち位置にいて,全体の状況を俯瞰し,フラットな関わりとタテの関わりを柔軟に行き来する必要があるように思われる。“言うは易し行うは難し”の中にあって,「私」の持ち味・強みを組織や社会に活かし成長させることができるリーダーシップを考え探ることから始めたい。それはきっとリーダーシップ実践力強化の備えになり,組織や社会を創造する確かな礎になると思われるからである。

  • 1.マグレガー,D. /高橋達男訳 (1970) 『新版 企業の人間的創造』産業大学出版部
  • 2.Lee, S. et al. (2022) J Gerontol B Psychol Sci Soc Sci, 77, 710-720.
  • 3.山浦一保他 (2013) 心理学研究, 83, 517-525.
  • 4.Graen, G. B., & Uhl-Bien, M. (1995) Leadersh Q, 6, 219-247.
  • 5.Carmeli, A., & Gittell, J. H. (2009) J Organ Behav, 30, 709-729.
  • 6.山浦一保 (2021) 『武器としての組織心理学』ダイヤモンド社
  • 7.Molines, M. et al. (2022) Public Manag Rev, 24, 80-105.
  • 8.Bryant, W., & Merritt, S. M. (2021) J Bus Ethics, 168, 777-793.
  • 9.松下幸之助著・PHP研究所編著 (2018)『改訂新版 運命を生かす』PHP
  • 10.岡田志麻・塩澤成弘・山浦一保・福家健太 特願2023-113438 (2023/7/11)
  • *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。

PDFをダウンロード

1