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Over Seas

「Positive」「Open-minded」「Make friends with local people」

太幡 直也
愛知学院大学総合政策学部 准教授

太幡 直也(たばた なおや)

Profile─太幡 直也
筑波大学大学院人間総合科学研究科心理学専攻一貫制博士課程修了。博士(心理学)。専門は社会心理学。東洋大学社会学部助教,常磐大学人間科学部助教を経て,2015年より現職。著書に『「隠す」心理を科学する』(共編,北大路書房),『懸念的被透視感が生じている状況における対人コミュニケーションの心理学的研究』(単著,福村出版)など。

タイトルの3つの言葉は,2018年4月から1年間,在外研究に行くことになった私が,英会話学校の講師から,渡航直前にもらったアドバイスです。海外生活とは縁遠いままアラフォーとなった私と妻は,不安だらけで渡航しました。私の体験を,この3つのアドバイスと絡めて振り返ってみます。

私の在外研究先は,イギリス南部にあるポーツマスでした。ポーツマスは,ロンドンから電車で2時間弱のところにある,イギリス海軍の軍港のある地方都市です。三方向が海で囲まれている港町だったため,借りていた部屋(インターネットで物件をレンタルし,22階建ての建物の20階に住んでいました)から,毎日美しい景色を見ることができました。「海なし県」である埼玉県出身の私は,窓からの景色を見るだけで「Positive」になりました。

私の受け入れ先は,ポーツマス大学(University of Portsmouth)の,Aldert Vrij(アルダート・ヴレイ)でした。Vrijは欺瞞研究の第一人者で,犯罪捜査での虚偽検出を中心に,数多くの業績があります。Vrijの著書を翻訳[1] して以来,彼と研究する機会を切望していたため,受け入れ先の選択は迷いませんでした。私たちは,週に一度のペースで議論し,嘘をつく際の言語的方略(内容の点でどのように話そうとするか)の文化差に関する共同研究を始めました。Vrijはメールの返信や原稿チェックがとても早く,世界的に活躍する研究者の研究スピードを体感しました(この原稿を書いている今も,新たな共同研究の結果を早急に報告せねばと焦っています)。普段は多くの人が出入りする共同研究室にいるようにし,研究のかたわら,Vrijの授業を聴講する,大学院生や研究員の実験に参加する,ランチタイムに毎週開催される研究発表会に参加するなどの活動をしました。エラスムス(交換留学制度)で大学にやってきた学生と雑談し,互いの国について話すこともありました。英語でのコミュニケーションは手に汗握る思いだったものの,「Open-minded」の精神で,機会を作ってはたくさんの学びを得ようとしていました。

日常生活では,ポーツマスにはスーパーマーケットや飲食店などが十分にあって不便ではなかったものの,日本人はほとんどいなかったため,マイノリティとして生活することになりました。未知の環境に戸惑いながらも,日本にいては経験できない貴重な機会だと考え,「Make friends with local people」を実践するように心がけました。例えば,地域の教会で毎週日曜日にミサとお茶会があるというポスターを見かけたときには,「All welcome」という言葉を信じて行ってみました。日本から来ており,地域の方々と交流したいと話すと,快く受け入れてもらえたため,ほぼ毎週参加しました。そのおかげで顔見知りが増え,街中で声をかけてもらえるようになりました。親しくなった老夫婦にホームパーティーに招待され,家庭料理をごちそうになったこともありました。日本に帰国する直前に皆で撮った写真は,今も私の家の居間に飾ってあります。イギリスのさまざまな場所に旅行したときの思い出と同じくらい,地域の方々と交流した日常の一コマも強く心に残っています。なお,私が大学に行っている間,妻は,地域の絵画教室,手芸教室,ヨガ教室,フードバンクのボランティアなどに参加していました。英語がほとんど話せないのに「Make friends with local people」を私以上に実践する妻を見て,気持ちさえあれば何とかなることを学び,頭の下がる思いでした。

最後に,在外研究中に私のゼミや授業を引き受けてくださった二宮克美先生はじめ,学部の先生方や事務の方に,記して感謝申し上げます。

  • 1.Vrij, A. (2008) Detecting lies and deceit (2nd ed.). John Wiley & Sons.(ヴレイ/太幡直也・佐藤拓・菊地史倫監訳 (2016)嘘と欺瞞の心理学:対人関係から犯罪捜査まで 虚偽検出に関する真実.福村出版)

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