【特集】
保健医療の現場から②
開森 悠紀子(かいもり ゆきこ)
Profile─開森 悠紀子
公認心理師・臨床心理士。2012年に入職。専門職大学院修了後,大学病院,診療所,総合病院常勤職で緩和ケアや慢性疾患領域に従事し,2025年より専任として現職。
仕事の現場
2014年より現体制の当院は,糖尿病専門機関である。医師,看護師,管理栄養士,臨床検査技師,理学療法士など10種類以上の専門職が連携し,来院者一人ひとりに合わせた「テーラーメイド医療」を目指している。「治療の中心は来院者自身」という信念のもと,公認心理師/臨床心理士もチームの一員として,さまざまな人の心と向き合っている。
当院は来院者のQOL向上のために来院者の意思を尊重した上で,医師の診療方針に加えて,各職種が意見を提案しあえる心理的安全性作りやAIを用いた説明なども特徴である。
心理職の業務は多岐にわたる。来院者の心理援助として,疾患受容,動機づけ面接,診察前の聴き取り(来院者と医師の橋渡し),グリーフケア,行動変容ステージモデルのアセスメント,精神疾患の既往がある方のケアなどがある。また,今後は変化ステージモデルに基づく動機づけ面接の実践,ポジティブヘルスやアドバンス・ケア・プランニング(ACP),スティグマへの対処支援など,さらに役割を広げ,新しい価値を創っていきたいと考えている。
心理職の役割とやりがい
当院での心理職の役割は「数値の背景にある声を聴く(どうしようもないことを一緒に抱えて,喪失に寄り添う)」ことである。
医療はエビデンスに基づく数値などの客観性が不可欠である。また,医療者は,「患者」という前提で見ることが多く,「病い/糖尿病」はあくまでも人生の一部に過ぎず,糖尿病のためだけに生きているわけではないことを忘れがちである。心理職は,来院者の主観性を尊重しつつ,来院者を「人と患者」の両側面でみることが大切ではないかと感じている。
数値の変化/不変には,一人ひとりの人生がある。背景に耳を傾けると「疾患や栄養に関する情報が不十分(療養/栄養指導)」「そもそも糖尿病を受け入れるとはどういうことか(疾患受容)」「わかっているけどできない(動機づけ)」「全て自業自得,自己責任(過剰な自己スティグマ)」などに加えて,大切な人の死,子育てや介護の悩み,仕事や学校生活のストレスなど,さまざまな心の動きがある。
心理職として感じる難しさは,身体科での心理支援の意義や職業アイデンティティ,多職種連携など,無限にある。心理職は,時に不変をも効果ととらえることがあり,客観性と主観性の調和が容易ではない。そのため,心理職は専門性,そして,介入効果が曖昧であり,診療報酬の観点においても必要性の説明が難しい現状がある。また,他の医療職にとって心理的視点は馴染みが薄いことが多く,懸命に語ってくれた来院者の心を多職種と共有することに非常に苦慮する。
そんな中でのやりがいは,対話を通じて,どうしようもないことを一緒に抱えることで,主体的に生きようとする「こころの成長」に立ち会えることである。「人はひとが関わることで,その人自身の力で変わっていく」。来院者から学ぶことは尽きない。
この領域で心理職を目指す人へ
心理職の関わりは,人生を劇的に変えるものではなく,変化がわからないくらい,些細なことかもしれない。それでも,「病い/糖尿病」と生きている人,さらに急変した人生を生きようとする人へのささやかな支援であり,糖尿病領域にも心理支援は必要だと信じている。心理職は「病い/糖尿病」と生きる人の心に何ができるか,一緒に模索する心理職がこの領域に増えることを心待ちにしている。
文献
- *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。
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