【特集】
福祉の現場から
川村 璃沙(かわむら りさ)
Profile─川村 璃沙
公認心理師・臨床心理士。修士(教育学)。2009年,仙台市に事務職(心理)として入庁。精神保健福祉総合センター,発達相談支援センターなどを経て現職。
仕事の現場
児童相談所(以下,児相)は,児童福祉法第12条に基づき各都道府県・指定都市に1つ以上設置されている行政機関である。市町村や関係機関と連携しながら,児童虐待,養育困難,療育手帳の判定や発達障害に関する相談,不登校や非行,家庭や学校での行動上の問題など,こどもに関する多様な相談に応じる。仙台市には1か所あり,児童心理司,児童福祉司,児童指導員,保健師,行政教員,事務職などが配置されている。
心理職の役割とやりがい
児童心理司の役割は,「こどもの代弁者」となり,こどもが抱える困難や問題の解決のために,最も適切な援助方針を立てることである。児相が関わるきっかけとなった問題の背景には,複数の要因が絡み合っていることが多い。例えば「非行」として受理したケースであっても,発達特性や障害,アタッチメント,トラウマ,周囲との相互作用といった,さまざまな視点でこどもの行動の意味を考える必要がある。問題の背景を心理学的視点からアセスメントし,それをもとにこどもに心理教育や心理療法を行ったり,関係者に助言したりして,こどもにとって必要な関わりや環境を考えていく。
こういった関わりを通してこどもや家族の変化が見られたときには,やりがいを感じる。しかし,さまざまな背景を持ったこども・家族と信頼関係を築くこと,複雑な問題の背景を紐解くこと,適切な支援を行うことは,簡単ではない。常に自分の関わりを振り返り,スーパーバイザーに相談しながら,研鑽を重ねている。また,「まずは我が身」をスローガンに,趣味の時間を意識的に持つなどセルフケアに努めている。
この領域で心理職を目指す人へ
仙台市は2025(令和7)年度現在,心理の採用要件を「大学(大学院を含み,短大を除く)において心理学を専攻して卒業した人」としており,資格は必須ではない。配属先は,障害福祉,こども福祉を中心に多岐にわたり,数年ごとに異動がある。心理検査や心理面接だけを行う現場よりも,アウトリーチやケースワークも担う現場が多い。心理職である前に地方公務員であるため,さまざまな事業や事務も行う。
行政に勤めて感じたことは,理論と現場のギャップであった。大学・大学院で学んだことはとても役に立った一方,学生時代には想像していなかったことも山のように経験した。そこに心理職としてどのように関わるのか,悩んだり葛藤したりすることもあった。自分が思う「臨床心理士」像と,現場が求める「心理職」像が一致しなかった際は,自分には何ができるのか,自分は何を大切にしたいのかということと,社会が心理職に何を期待しているのかということに,ギャップがあるのかもしれないと感じた。どちらかが正しいというものではないだろうが,日々社会でさまざまな生活をしている方を援助することを考えると,無限に広がる「社会」というものを少しでも具体的にイメージできることが,人の心という「個」にフォーカスしがちな私たちにとって,必要なことのように思う。そのためには,さまざまな人と出会い,関わり,社会を知り,自分を知っておく必要がある。心理学以外の知識や経験も,自分を耕し,社会を知ることにつながる。若い皆さんには,すべてが「芸の肥やし」になると思って,目の前のことに一生懸命,楽しんで取り組んでほしいと思う。
文献
- *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。
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