【特集】
教育の現場から

佐々木 健太(ささき けんた)
Profile─佐々木 健太
公認心理師・臨床心理士。専門は犯罪被害者支援,司法・犯罪心理学,教育・学校心理学。宮城県警察官,宮城県SCなどを経て現職。
仕事の現場
多くの方はスクールカウンセラー(以下,SC)という職業を見聞きしたことがあるのではないだろうか。実際に相談に行った,休み時間に雑談したなど,SCと関わった人も少なくないであろう。現在,全国の多くの小・中学校と高校にSCが配置されている。ここではそんな身近な教育現場の心理職である,SCの仕事を紹介したい。
SCの仕事の内容は幅広いが,主な仕事としては,相談室で児童生徒や保護者の相談を受ける,児童生徒と学校生活のさまざまな場面で関わる,教職員に助言する,SCだよりを作る,などがある。
臨床心理学の世界では,「医療現場が基本で教育現場は応用」と言われる。その理由として,以下のような理由が挙げられる。相談に来る児童生徒や保護者,教職員が助言を求める対象が,精神的な健康度が高い方から発達障害(傾向含む)や精神障害(グレーゾーン含む)を抱える方まで幅広いこと。現場は相談室だけでなく教室や廊下,職員室,また休み時間や給食時間など学校生活のさまざまな場面であり,教師と連携して動くなどのチームアプローチも求められること。相談内容がいじめ被害や不登校,人間関係,進路や学校生活など非常に幅広いこと。それらに応えるためカウンセリング技術はもとより,さまざまな障害の特徴と支援方法についての幅広い専門知識や,多様な世代,多様な価値観の人とつながるコミュニケーション能力が求められること,などである。
心理職の役割とやりがい
実際にSCが受ける相談内容は多岐にわたるが,深刻な悩みも少なくない。いじめや不登校は一昔前から長く続く大きな課題であるが,それに加えて最近はSNS上のトラブル(ネットいじめ,攻撃,無視など)や盗撮被害など,スマートフォン絡みのトラブルが急増しているという実感が強い。まだまだ未整備な,スマートフォンとの上手な「つきあい方」を児童生徒や保護者と共に考えるのも,現在のSCへの切実なニーズの一つであろう。
応用の現場ということは,自由度が高いということでもある。目の前の児童生徒,保護者,教職員に対して,何をすることが心理支援になるのか,しなやかに自由に発想し,できることを探ることが求められる。その時々で心理支援となる答えは複数ある場合もあるが,その答えを誠実に,目の前の困っている人と共に探すことがSCの仕事の核であろう。
目の前の人のニーズに応えるために,SC自身が主体的に,自由に発想し,その場その場でそれまで培った心理職の専門知やスキルをアレンジしていくことは,教育現場の心理職の大きなやりがいの一つである。
そうした主体的なSCの実践の具体例として,SCによる授業を挙げたい。私は中学校を中心にSCとして,「受験の不安・ストレスとのつきあい方」「自分のトリセツを作ろう」「コミュニケーションの達人になろう」などのテーマで積極的に授業を実施させてもらってきた。担任の先生などと相談しながら,各学校,各学級のニーズに合わせて授業のテーマを設定した。心理職としての知識を大いに活用しながらその場その場でニーズに応える授業を工夫していったと言える。
この領域で心理職を目指す人へ
「人の助けになりたい」という気持ちがあり,学校現場で働きたいと思う人はぜひ教育現場の心理職になってほしい。きっとあなたの誠実さと優しさは教育現場で多くの人の心を救うはずである。教育現場では,熱意と誠意のある心理職を強く求めている。
文献
- *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。
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