【特集】
司法・犯罪の現場から①

安藤 友祐(あんどう ゆうすけ)
Profile─安藤 友祐
公認心理師・臨床心理士。教育学修士。2013年,国家公務員総合職(人間科学)として法務省矯正局に入庁,少年鑑別所,少年院,刑務所等に勤務,2024年より現職。
仕事の現場
私は,札幌少年鑑別所で法務技官(心理)として働いている。皆さんは,少年鑑別所という施設をご存じだろうか。非行少年が行く場所,ということは知っているけれど,少年院との違いは分からないという方が多いかもしれない。
少年鑑別所は,主に,非行をした少年への処分を決める家庭裁判所の審判(少年向けの裁判のようなもの)を行う際に,家庭裁判所の決定により,その少年を収容し(4週間以内が基本),鑑別を行う施設だ。鑑別とは,その少年が非行に至った原因や,どのような処分や働きかけを行うのがよいかを分析することである。その分析結果のレポートを家庭裁判所に送り,審判の資料として活用してもらう。ちなみに,少年院は,審判で少年院での教育が必要であると決定された少年が行く施設だ。このように,少年鑑別所は審判前,少年院は審判後に行く施設という点で大きな違いがある。
心理職の役割とやりがい
鑑別を行うために,私たち心理職は,少年と面接を行い,事件や生い立ち,家族,今後のことなど,さまざまなことについて話す。さまざまな心理テストを実施し,性格や知的傾向などについても検討する。また,職員への接し方や,部屋での過ごし方,作文や描画などの課題への取り組み状況,運動時の様子など,日々の行動の様子についてもていねいに観察する(この行動観察は,教育職である法務教官の専門分野であり,協働する)。同時に医師による健康診断も行い,必要があれば精神科の診察なども受けてもらう。こうしたさまざまな情報を総合して,鑑別結果をまとめ上げていく。
非行の背景は本当にさまざまだが,少年の中には,虐待やいじめなどの被害体験がある人も少なくない。学校などに居場所を作れず,親や学校の先生などから叱責を受けるばかりで,大人や社会に対して不信感や反発心を抱いている場合もある。もちろん,だからといって非行をしてよい訳ではないが,単に罰や叱責を与えるだけでは,なかなか再非行の防止には結びつかないものだ。また,面接で話をするのも一筋縄ではいかない。少年が望んで相談に来ている訳ではないし,職員に対して不信感を抱くことも少なくないからである。しかし,本音ではさまざまな悩みや困りごとを抱えていることも多く,ていねいに対話を重ねる中で,徐々に心を開く少年もいる。少年鑑別所にいる短い期間でも,さまざまな働きかけを得ながら,自分を見つめなおし,被害者への謝罪の気持ちを深めていく少年もいる。このように,非行少年が自分の罪と向き合い,更生に向かうことができるよう寄り添うことが,非行臨床における心理職の重要な役割である。そして,そういう場面に立ち会えることが,この仕事のやりがいであると感じている。
この領域で心理職を目指す人へ
あなたとの出会いが,非行少年が立ち直り,新たな被害者を生むことを防ぐきっかけになるかもしれない。少年の更生を支えようという温かな気持ちと,今その少年に必要なことは何かを真摯に考えようとする姿勢をお持ちの方が,われわれの仲間に加わってくれることを期待している。
文献
- *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。
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