【特集】
司法・犯罪の現場から②

小澤 優璃(おざわ ゆうり)
Profile─小澤 優璃
公認心理師・臨床心理士。修士(人間科学)。専門は犯罪被害者等支援,トラウマケア,認知行動療法。全国被害者支援ネットワークを経て,現職。
仕事の現場
各都道府県警察には,犯罪の被害に遭われた被害者やそのご家族・ご遺族に心理的支援を行う警察職員が配置されている。2021(令和3)年3月の第4次犯罪被害者等基本計画では,警察における公認心理師・臨床心理士などの資格を有する部内カウンセラーの確実かつ十分な配置に努めることや,犯罪被害者等に関する専門的な知識・技能を有する公認心理師の養成および研修の実施を促進することが明記されており,2024(令和6)年4月時点で47都道府県に167人の公認心理師・臨床心理士が配置されている[1]。
心理職の役割とやりがい
警察の心理職として出会う被害者やそのご家族・ご遺族は,その多くが事件発生直後である。見知らぬ人に傷つけられることもあれば,顔見知りによる犯行であることもあるが,他者からの暴力的な行為である犯罪による被害は,社会や他者への安全感や安心感の喪失から,人生が一変するような出来事であることは言うまでもない。
犯罪被害者等(以下,被害者等)は,「一次被害」と呼ばれる犯罪行為による直接的な被害(金品などを盗まれる,怪我をする,命を奪われるなど)のみならず,「二次被害」と呼ばれるさまざまな困難に直面する。すなわち,周囲の人の言動による傷つき,マスコミの過熱取材による生活上の困難,捜査や公判などの刑事手続きによる時間的・精神的負担などである。被害場所が自宅付近のため転居を余儀なくされる,心身の不調などから休職や転職をせざるを得ない場合もあり,社会全体としての理解や配慮が不可欠である。
警察の心理職の特徴として,心理療法などの心理面接(カウンセリング)のみならず,事件発生直後からの心理的ケアといったアウトリーチの危機介入,関係機関との調整などが挙げられる。殺人事件などでご遺族がご遺体と対面する際に心理職が支援に入ることもある。警察の霊安室で変わり果てた姿となった最愛の家族と再会するという場面は,ご遺族にとって一生忘れることができない場面であり,茫然から死への否認といった心理的反応や大きな混乱を示すことが多いため,最愛の家族の死を受け止め,受け入れていくための支援として心理職の果たす役割は大きい[2]。
また,トラウマインフォームドケア(TIC)に基づいた刑事手続きは重要な視点であり,心理職は,捜査状況にあわせて,警察官,検察官および被害者支援弁護士などと連携しながら刑事手続きにおける二次被害の予防や精神的負担の軽減を図っている。例えば,被害者等が証人尋問や意見陳述などで出廷する場合には,被害者等の同意を得て,心身の状態や予想される不調などについて検察官や被害者支援弁護士と共有し,連携しながら,被害者等のトラウマ症状に配慮した対策を講じている。警察という公的機関および公認心理師の国家資格という国民からの負託両面から,刑事裁判への直接関与を求められることもあり[2],刑事手続きにおける心理職の役割は大きい。
この領域で心理職を目指す人へ
被害者支援における心理職は「治療者」というよりも「伴走者」であると考える。心理職ができることは限られている。カウンセリングを受けても,傷つけられた体験がなかったことにはならない。失われた命が戻ることもない。それでも,被害者等は傷ついた心を回復していく力,新たな日常に適応していく力を持っている。その力を取り戻していくプロセスに微力ながらも心理職は伴走者として関わることができる,「やりがい」という一言では言い尽くせない臨床の現場である。
文献
- 1.警察庁(2024)令和6年版 犯罪被害者白書.
- 2.浅野晴哉(2025)犯罪心理学研究,62(S), 15–28.
- *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。
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