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【特集】

産業・労働の現場から

佐藤 映
株式会社リーディングマーク 専門役員/組織心理研究所 所長

佐藤 映(さとう うつる)

Profile─佐藤 映
臨床心理士・公認心理師。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程(研究指導認定退学)。修士(教育学)。京都文教大学特任講師を経て,2020年に現所属に入社。組織心理研究所を立ち上げ,2023年より所長,2025年より専門役員。

仕事の現場

私は,企業の採用や人材マネジメントに役立つITツールを提供する会社の研究開発部門で働いています。心理学や統計調査の専門知識を活かして,自社ツールの開発や使い方の説明を行い,企業が適切に活用できるようサポートしています。こうしたツールを通じて,働く人が健康にやりがいを感じられる職場づくりを支援するのが私の仕事です。加えて,心理職として従業員のメンタルヘルス相談やキャリア面談にも応じています。一人ひとりが健康に働き,自分自身やキャリアと向き合えるよう,心の成長を支援します。さらに,会社の経営層や管理職向けにリーダーシップやメンタルヘルスの研修を行うこともあります。従業員アンケートの結果を分析して職場環境の改善策を提案したり,チームのコミュニケーションを良くするための話し合いの場でファシリテーションを行ったりと,個人と組織に多角的に働きかけています。

心理職の役割とやりがい

上述のような産業領域の活動を従業員支援プログラム(Employee Assistance Program:EAP)と呼びます。EAPでは,社員一人ひとりの面談やカウンセリングだけでなく,職場の環境づくりにも関わります。常に「個人」と「組織」の関係に目を向け,両者にとってより良い支援を考えます。そのため,個人と組織の目的の違いによる葛藤に直面することも多々あります。そんなとき,心理職は中立的な立場で状況をわかりやすく言葉にして整理しながら伝え,関係者に気づきを促し,共有しやすくする役割を担います。こうした場面では専門知識だけでなく,柔軟なコミュニケーションや各方面に寄り添った対話がとても大切です。産業心理職には,一対一で寄り添う心理臨床的な姿勢と,組織に働きかけて変化を促す積極的な態度の両方が求められます。例えば,上司との関係に悩む人の相談に乗りながら,似たような現象が他の従業員同士にも生じていそうな場合があるとします。それを共通の課題と捉えて,リーダー間の対話の場を設定し,気づきを得て対策を実行することで,状況が好転するといったことがあります。個人と組織の相互関係に変化が生じる瞬間に立ち会えたとき,心理職として大きなやりがいを感じます。

この領域で心理職を目指す人へ

このように,産業領域での心理職の仕事は,悩んでいる人に面談で寄り添うという一般的なイメージよりもずっと広がっています。キャリアコンサルタントや社会保険労務士などの専門家と協働することもあります。ストレスチェック結果の分析と報告や,それにもとづく組織コンサルティング,チームの対話を円滑にするグループファシリテーションの実施など,それぞれの心理職が自分の得意なアプローチで力を発揮できる場がたくさんあります。産業領域はますます多くの心理職を必要としていますし,その活躍の機会も拡がっていますが,まだあまり知られていないのも現状です。働く人が健康でいきいきと働ける職場を増やし,社会全体を元気にしていける――産業領域は,そんな未来に貢献できる素敵な分野です。本稿が「働く人の心理支援」という仕事の可能性を知るきっかけになれば幸いです。

文献

  • *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。

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