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【特集】

開業の現場から

竹本 早知子
Re:treatこころの相談室 代表

竹本 早知子(たけもと さちこ)

Profile─竹本 早知子
臨床心理士・公認心理師。専門はトラウマ臨床。2024年1月1日に石川県金沢市にて「Re:treat こころの相談室」開業。開業日に能登半島地震が発災し,最初の仕事が災害支援の研修主催という船出に,地域のトラウマケアに貢献していくことを誓う。

仕事の現場

私は2024年に開業し,オンラインと対面の両方でこころの相談を受けています。また,他に精神科クリニック(非常勤として心理検査やカウンセリングを担当),市の相談員や研修講師の仕事もしています。以前は大学病院に常勤で勤め,外来・病棟で心理業務に携わっていました。医師や看護師,ソーシャルワーカーと意見を交わし,多くの文献に囲まれ,大学病院ならではの最新の知識に触れられる環境はとても刺激的でした。

フリーランスになって感じるのは,時間や仕事の調整が自由な反面,収入が不安定で,判断を自分で背負う責任の重さです。また,研修や文献に触れる機会をより能動的に作る必要があります。常勤時代にはなかった日々の予約や会計,帳簿付け,確定申告やホームページ作成など,苦手にしてきた実務も,専門家に相談しながら自分で行っています。

心理職の役割とやりがい

地域で,カウンセリングを受けられる場は限られています。医療機関や教育機関などでしか提供できない心理的ケアや検査がある中で,開業相談室が担える相談を引き受けることは,地域資源の分散と有効活用につながります。その意味で,私設相談室には,地域における心理支援の受け皿としての役割があると考えています。

また,公的機関や保険診療による比較的安価な支援がある中で,あえて自費(比較的高額)で相談に来られる方は,「時間・お金・覚悟」をもって臨まれます。その分,相談の内容や過程への期待も高く,感想や評価は直接自分に返ってきます。これはやりがいでもあり,プレッシャーでもあります。

料金設定や終了のタイミングも自分で判断する必要があり,経費や売り上げの管理も含めて,経営者としての視点も欠かせません。必要に応じて他機関を紹介することもあります。

自分の心身の健康が最大の資源であるため,スーパービジョンを受けたり,勉強会に参加したり,意識的に休息をとり,セルフケアにも努めています。

大変なこともありますが,クライエントの表情が少しずつ柔らかくなり,「もう大丈夫そうです」と笑顔で終結される瞬間はうれしいものです。

この領域で心理職を目指す人へ

心理士は資格を取ることがゴールではありません。大学で学ぶ「心理学」と就職してから現場で求められる知識・技術にはギャップがあり,卒後すぐ開業は難しいでしょう。心理職の進路は医療・教育・福祉・産業など多岐にわたります。私自身キャリアの最初から開業を考えていたわけではありません。20代,30代とスクールカウンセラーや児童相談所での勤務経験を通し,その時々の役割に全力で取り組んだ経験が,今につながっています。特に精神科医療での経験は欠かせなかったと痛感しています。開業を考えるなら,医師や学校の先生,福祉の専門家など地域のさまざまな職種と知り合い,病院やフリースクール,就労支援施設などを実際に訪れてそれらの組織を知っておくと,支援の幅が広がります。学生時代からさまざまな活動を体験し,多様な価値観に触れ,「自分がいかに無知か」に気づく力がその後の学びの原動力になります。また,自分自身が一度クライエントとしてカウンセリングを体験するのもおすすめです。きっと新しい気づきがあるはずです。お待ちしております。

文献

  • *COI:本記事に関連して開示すべき利益相反はない。

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