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毛のない生き物たちを愛でる
工藤 大介(くどう だいすけ)
Profile─工藤 大介
専門はリスク認知,消費者行動,社会心理学。博士(心理学)。唯一苦手なのは軟体動物。
李 楊(り よう)

みなさんは「爬虫類」に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか? 気持ち悪い,愛嬌がない,感情がない,攻撃的といったように,ネガティブなイメージが多いかと思います。でも,私たちはそんな爬虫類が好きなんです。
工藤は小さいころから虫少年でした(虫は今でも飼っています)。働いて稼げるようになったタイミングでちょうど爬虫類ペットブームが盛り上がっておりました。気が付けば爬虫類に囲まれていました。李はそれに巻き込まれ,今では餌の世話を分担したり,カメの「風呂(温浴)」のタイミングを覚えたりと,一緒に飼育を楽しんでいます。昔は「ヘンタイ」と視線を向けられてきた爬虫類飼育者でしたが,近年では,人口がじわじわ増えていて,全国でイベントを行ったり,メディアへの露出も増えたりしています。実は,爬虫類も多種多様で,確かに毒のあるものや,巨大で噛みつかれたらタダじゃ済まない連中もいます。しかし,小さくて愛らしい爬虫類も多くいるのです。例えばですが,ヤモリの仲間であるヒョウモントカゲモドキや,小型のトカゲであるフトアゴヒゲトカゲなんかが人気で,私たちも飼育し,繁殖にも挑戦しました。おチビさんたちが卵から生まれた時の喜びは,他では類をみないものです。
爬虫類への認識に関しては,心理屋としてはいろいろと思うところがあります。たとえば今では否定されていますが,影響力を持ち続ける考え,人の脳を3つの層に分けた「脳の三位一体論」がありますよね。「哺乳類脳」や「人間脳」がある中で,「爬虫類脳」は本能的で,低次元的で原始的なものとされていました。その見方自体が,人々一般の爬虫類への認識を反映している気がします。
しかし実際には,爬虫類の中には認知能力や学習能力が高い種も多くいます。例えばカメに関してより多くのエサが入ったトレイを識別できたり[1],仲間の行動を観察して課題を突破することもできたり[2]する研究が報告されています。また,研究としてはまだ見えてませんが,SNS上ではスケボーを乗りこなすカメや,ひっくり返ったカメを別のカメが起こそうと集まってきて甲羅を押す動画(結果的にひっくり返った個体をグルグル回してしまうこともありますが)がバズっています。認知能力だけではなく,社会性の研究対象としてもポテンシャルが高いです。意外とブルーオーシャンかもしれません。(工藤:実は虫はもっと面白いんですが,また機会のある際にお話ししましょう。閑話休題。)
また,爬虫類はペットとして十分成立します。(種類や個体にもよりますが)お世話は数日〜数週間に一回でもOKというしぶとさは,忙しい研究者にとって魅力的なパートナーです。飼育環境下では,「懐く」まではいかなくとも,「慣れ」はしてくれます。そして人間側も,最初は無表情で冷たく感じた爬虫類の「表情」を少しずつ認識できるようになり,愛嬌を感じます。ここまで来れば,十分なコミュニケーションや関係性構築が成り立ちますね。例えば,我が家にいる小型のカメのセマルハコガメは,人間と目が合うと「エサをくれ」と寄ってきて圧をかけてきます。エサをもらえないとさらに「くれというとるやろ?」と圧を強めてきます。人間が勝手に圧を感じ取っているだけなので,爬虫類側にとっちゃ迷惑な話かもしれません。しかし彼らの仕草の「余白」が,感情表現豊かなイヌネコとは一味違う,独特の魅力を持つのは確かです。
私たち夫婦は二人とも社会心理学者で動物研究のノウハウはないですが,うちで飼育している爬虫類たちも何か面白い行動を見せてくれないかと,日々観察をしています。そのうち興味本位で動物心理学会や動物行動学会にお邪魔してみようか,なんて話していたりもします。その際にはどうか草むらや道路わきを歩くカメに対する視線で,温かくお見守りください。
文献
- 1.Tomonaga, M. et al. (2023) Anim Cogn, 26, 1675–1683.
- 2.Wilkinson, A. et al. (2010) Biol Lett, 6, 614–616.
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