
石川 利江(いしかわ りえ)
Profile─石川 利江
早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程心理学専攻退学。博士(人間科学)。早稲田大学人間科学部助手,長野県看護大学看護学部助教授,桜美林大学大学院助教授を経て,現職。専門は,コーチング心理学,健康心理学。著書に『コーチング心理学入門:ポジティブな支援の実践』(監修・編著,サイエンス社),『実践!健康心理学:シナリオで学ぶ健康増進と疾病予防』(共編,北大路書房)など。
石川利江氏へのインタビュー
─石川先生のご専門について,取り組んできた研究や,今現在している研究について,教えてください。
最初の頃から話すと,私の専門は臨床心理学です。もともとカウンセラーというか,臨床家になりたくて始めたんですけど,なかなか臨床家のポストがなかったということもあって,研究へ移りました。まだ,臨床心理士などの資格がなかった時代だったということも影響していたと思います。研究としては,主に認知行動療法に取り組んできました。日本に導入されて間もない時期には研究グループで,その理論的検討と実践的応用を進めました。現在ではあまり知られていないかもしれませんが,認知行動療法の成立期には,ベック,エリスに加え,マイケンバウムが3つの主要な理論的立場を代表する存在として捉えられていました。研究グループとして,認知行動療法の一つであるマイケンバウムのストレス免疫訓練を日本に紹介し,特に対人不安に対する効果について研究をしていました。
その後,看護系の大学で教員として働くようになった際に,看護職者や高齢者を在宅で介護する家族への心理的な支援の必要性に注目するようになり,健康心理学の方向へと関心を深めていきました。その後,研究フィールドとの関わりの中で,企業や一般市民のメンタルヘルス改善に対する実践的ニーズの重要性を感じ,その課題に応えるアプローチとしてコーチング心理学に取り組んでいます。少し長くなりましたが,現在の一番の研究の視点は,コーチング心理学です。医療現場や自治体,そして外国人に対する介入的な研究に取り組んでいます。いろんな方法で研究をしているので,アンケート調査に限らず,介入研究などさまざまな方法で研究を展開しています。
─石川先生のご専門や研究方法は基礎研究よりも社会との距離が近い研究にあたると認識していますが,そのような社会との距離が近い研究分野の研究者として,特に気を付けていることや,何か考えていることはありますか。
私は今コーチング心理学を専門にしていますが,新しい研究分野を実践していくという時には,すぐに目に見える結果が出てくるとは限りません。だからこそ,「なんとなくよさそう」で終わってしまいがちな実践を,きちんと科学的に評価し,確かなエビデンスを出していくということが大事かなと思っています。
また,心理学の支援やプログラムでは,想定していた部分とは異なるところに変化が現れることもよくあります。計画通りに進まないことも少なくありませんが,どこかに変化が起きているという前提で,その変化を確かめながら研究を進めていくことが重要だと思っています。研究では,事前に計画をしっかり立てることも大切ですが,実際にやってみて初めて分かることもたくさんあります。やってみなければ,どんな変化が起こるのか分かりません。だから私は,考え続けるだけでなく,まずは挑戦してみることを大切にしています。失敗したり,はっきりとした結果が出なかったりしても,それも次につながる大事な経験です。「まずはやってみよう」が,私が研究に向き合う基本的な態度です。
─石川先生が初期に取り組まれていたマイケンバウムの自己教示訓練の日本への紹介をはじめ,新しいものを世間や業界に導入する時のコツとか,心構えというのは,これまでの経験上で何かありますか。
やはり「続けること」なんじゃないかな思います。なかなか認められないと,やめたくなってしまうこともありますよね。途中でやめてしまっても,誰かが続けてくれることもあるかもしれませんが,自分自身が継続して発表や実践を行える場や機会を持ち続けることが大切だと思ってます。他にも並行して取り組んでいる研究があったとしても,今向き合っているテーマも,ちょっとずつでもいいので継続することが大事です。
私自身,そこに“意味がある”と信じていたからこそ,続けることができたように思います。一緒にやってくれる人が現れたり,ともに歩む仲間がいたことも大きいかもしれません。現在も仲間とともにコーチング心理学に取り組んでいますが,日本ではこの分野の研究者は少ない状況にあります。コーチングを仕事として行っている人はたくさんいますが,コーチング心理学を学問として研究している人は非常に少ないのです。だからこそ,これから育っていく学問領域であり,焦らず,無理をせず,それでもやめずに続けていくことが大切だと思っています。
─信念を持って継続するというのがやっぱり重要ということですね。
口で言うのは簡単ですが,実際にはつらいと感じることもあります。それでも,楽しみながら取り組むことを大事にしたいと思ってます。「いいね」と言ってくれる人が,一人でもいたらいい。世の中すべての人が賛同してくれるわけではありませんし,多くの人は関心を示さないかもしれません。時代の流れによって,なかなか認められないこともあると思いますが,それでも,いつか誰かが引き継いでくれるかもしれいない,そんなことを考えながら取り組んでいます。
─最後の質問として,これから心理学を志す学生や,若手研究者に向けた助言や期待などがあれば,ぜひお話しいただきたいと思います。
心理学をやる前は,法律をやろうかなと思っていた時期もありました。結局やめたんですけど。
自分に向いてるかどうか,何が好きなのか,強みは何なのかと,いろいろ考えることがあるかと思います。そうやって自分について考えるということ自体は,とても大切なことだと思います。ただ,本当に好きなことや自分の強み,関心というのは,後から気づくことも少なくありません。
だからこそ,やりたいと思ったことはまずはやってみる。失敗してもいいと思います。チャレンジすることで,何かが少しずつ変わっていく。動かなければ,何も変わらないのだと思います。考えることも大切ですが,考え続けるだけでなく,とりあえずやってみることも必要です。
先ほどお話したように,私は法律を学ぼうとして結局やめました。勉強をしてみて合わないと感じたからです。その後も,何度も迷いながら,何が自分に向いているのかを考えていた時期がありました。
だから,まずはチャレンジしてみたらどうかなと思います。おびえずに行く。やってみたら何かが変わるかもしれませんし,あなたが変わることで,いる場所も変わると思います。見えるものも変わり,これまで気づかなかったことにも目が向くようになるでしょう。慎重に考えることは大切ですが,考え続けるあまり動けなくなってしまわないでほしい。まずは一歩,踏み出してみてほしいと思います。
聞き手はこの人
私は現在,子育て支援の研究に加えて,発達科学の研究領域にも携わっています。対象は乳幼児には変わりありませんが領域によっては見方が変わります。石川先生は介入を取り入れた実践的な研究をされています。私も,修士課程から子育て支援に関する研究に携わる中で,セミナーを介した養育者への介入研究も実施しています。対象者は違いますが,同じ介入という研究方法をとる研究者にお話をうかがう絶好の機会でした。社会との距離が近しい研究領域に特有の良さや難しさを共有することができました。また学問である以上,科学的な効果検証の重要性も改めて考える時間にもなりました。
インタビューの時間は私にとって非常に有意義で興味深く,どの話題も印象に残っています。
特にインタビュー中の,石川先生の「失敗してもいいと思います。チャレンジすることで,何かが少しずつ変わっていく。動かなければ,何も変わらないのだと思います。考え続けるだけでなく,とりあえずやってみることも必要です」は非常に心強いものでした。失敗をネガティブな結果ではなく,むしろ何か行動したからこそ得られた成果としてポジティブに捉える姿勢は新しいことを志す人,今も継続している人にとっても心強いメッセージになると思います。
Profile─きむら しゅんと
立命館大学OIC総合研究機構 専門研究員。博士(心理学)。筆頭論文に「母親の育児ストレスと子どもへのかかわり,子どもの社会的能力に関する縦断的研究:育児セミナー介入効果の検討」『発達心理学研究』(in press)。

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