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Psychology for U-18 高校生に伝えたい

感情調整の心理学

野崎 優樹
甲南大学文学部人間科学科 准教授

野崎 優樹(のざき ゆうき)

Profile─野崎 優樹
博士(教育学)(京都大学)。専門は感情心理学。2023年より現職。著書に『情動コンピテンスの成長と対人機能:社会的認知理論からのアプローチ』(単著,ナカニシヤ出版)。

こんな感情,どうしてる?

「明日は大事な試合なのに,緊張で眠れない」「友達からSNSの『いいね』が来なくて落ち込む」「親に『勉強しなさい』と言われて,ついカッとなって言い返してしまった」。高校生の皆さんは,勉強,部活,人間関係,進路のことなど,毎日いろいろな出来事に直面し,そのたびにさまざまな感情と出会っていることでしょう。その中には,喜びや楽しさといったポジティブな感情もあれば,不安・イライラ・悲しみ・焦りといったネガティブな感情もあります。特に,心が揺さぶられるような強い感情が湧いてきた時,皆さんはどのようにしているでしょうか。今回は,感情との上手な付き合い方が学べる,感情調整(emotion regulation)の心理学を紹介します。

感情調整って,我慢すること?

感情調整と聞くと,感情を無理やり抑え込むことや,泣いたり怒ったりしてはいけない,といった「我慢」をイメージするかもしれません。あるいは「いつもポジティブでいなければ!」と,無理に明るく振る舞うことだと思う人もいるかもしれませんね。しかし,心理学における感情調整は,単に我慢に限ったものではありません。

効果的な感情調整とは,自分がどのような感情を,いつ感じ,それをどう表現するのかを,その時の状況や自分の目的に合わせてうまく調整することです。たとえば,友達とのケンカでカッとなった時,その怒りをそのまま相手にぶつけてしまえば,関係はもっとこじれるかもしれません。その一方で,完全に我慢して黙り込んでも,自分のモヤモヤは消えず,相手にも本当の気持ちは伝わりません。こんな時に「今はちょっと冷静になろう」と一呼吸置いたり,「相手にも何か言い分があるのかもしれない」と考え直したりして,少し落ち着いてから「さっきのあなたの言葉,私は悲しかった」と伝えられれば,どうでしょうか。つまり,上手な感情調整とは,感情自体をなかったことにするのではなく,むしろ感情にきちんと気づき,その上で,自分自身や周りの人にとってよりよい形になるように感情を扱ったり,表したりする心の働きのことを指します。

感情を調整する5つの作戦

それでは,具体的にどのようにすれば感情をうまく調整できるのでしょうか? 感情調整の研究では,感情が生まれる仕組みに注目し,どのタイミングで,どのような作戦が使えるのかを5つのタイプに分けて整理してきました(これらの作戦は専門的には「方略」と呼ばれます)[1]。以下,身近な具体例とあわせて見ていきましょう。

作戦①:状況を選ぶ

これは,そもそも特定の感情が起きそうな状況を,事前に選んだり避けたりする作戦です。たとえば,「気分を上げて勉強したいから,お気に入りの場所に行こう」「明日は大事な試合だから,夜は不安を煽るようなSNSの投稿を見ないようにしよう」といったものがあります。

作戦②:状況を変える

すでに直面している状況に対して,その原因を変えようと働きかける作戦です。たとえば,「テスト勉強中にスマホが気になって集中できない時に,電源を切って別の部屋に置き,物理的に距離を取る」「友達と気まずい雰囲気になりそうな時に,あえて全く別の話題に変えて空気をリセットする」といったものがあります。

作戦③:注意の向け方を変える

状況そのものは変えられないけれど,その中で何に注目するのかを変える作戦です。嫌なことから意識的に注意をそらしたり,逆に,集中すべきことに注意を向けたりします。たとえば,「嫌なことがあって落ち込んでいる時に,あえて好きな音楽や動画に没頭して,そのことを考えないようにする」「テスト中,難しい問題にぶつかってパニックになりそうな時,心を落ち着けるために,いったんその問題は飛ばして,解ける問題から先にやろうと注意を切り替える」といったものがあります。

作戦④:考え方を変える

起きた出来事そのものではなく,その出来事の意味の捉え方や解釈を変えてみる作戦です。たとえば,「親に『勉強しなさい』と言われてカッとなった時に,『うるさいなあ』ではなく『私のことを心配してくれているんだな』と解釈を変えてみる」「友達に誘いを断られた時に,『嫌われているのかも』と落ち込むのではなく,『たまたま忙しい用事があっただけかも』と考え直す」といったものがあります。

作戦⑤:感情反応を直接変える

感情がすでにグッと湧き上がってしまった後で,その感情の表し方や身体反応を直接変えようとする作戦です。たとえば,「つらいことや悲しいことがあった時に,無理に笑おうとせず,思い切り涙を流して気持ちをスッキリさせる」「プレゼンの前で,緊張で心臓がバクバクする時に,ゆっくり息を吸って,長く吐く深呼吸をする」といったものがあります。

このように,感情を調整する作戦にはさまざまなものがあります。大切なのは,これが絶対正しいという万能な方法はなく,その時の状況や自分に合った作戦を選ぶことです。たとえば,ネガティブ感情が強い時には,「考え方を変える」作戦はうまくいかず,むしろ気分転換などの「注意の向け方を変える」作戦の方が,効果的に働く可能性が高いことが知られています[2]。また,もし,ある作戦を試してうまくいかなくても,それ自体は必ずしも失敗ではありません。「今は合わなかっただけ。じゃあ次はこっちの作戦を使ってみよう!」と,柔軟に切り替えればよいのです。そのため,さまざまな作戦を自分の道具箱に入れておき,状況や目的に合わせて自由に取り出して試してみることが大切になります。

他者との交流を通じた感情調整

ここまで紹介してきた作戦は,基本的に自分一人で感情調整を行うものでした。しかし,感情調整は,何もかも一人きりで頑張らなければいけないものではありません。信頼できる友達,家族,部活の先輩,先生,あるいはスクールカウンセラーなど,誰かと話をする中で,気持ちが整理されたり,スッキリしたりした経験が,皆さんにもあるのではないでしょうか。このような他者との交流を通じた感情調整は,現在の心理学研究でも特に注目されているトピックです[3]

人と話すと楽になるのは,共感してもらって安心できるからということもありますが,それだけではありません。自分一人では思いつかなかった新しい視点や解決策が相手から得られるということもあります。自分だけで考えていると,どうしても考えが偏ってしまいがちです。そこで他者の視点を借りれば,もっと広い視野で物事を捉えられるようになります。そのため,目的に応じて相談相手を選んだり,「今日は共感というより,むしろアドバイスしてほしい!」と最初にリクエストしたりして,自分の望むサポートが得られやすいように環境を整えるのも,賢い作戦の一つです。

さらに最近では,この「他者」の役割をAIが担うことも増えてきました。いつでも話を聞いてくれるAIは感情調整の良きパートナーになりえますが,一方で,頼りすぎると現実の人間関係に悪い影響を与えてしまうのでは?という心配の声もあります。便利なAIを活用しつつも,私たちの大切な人間らしさを失わないためにはどうすればいいのか。そんな感情調整のパートナーとしてのAIとの上手な付き合い方を研究していくことも,心理学が果たす大切な役割になります。

感情を味方につける

ここまで感情調整に関する心理学を紹介してきました。ネガティブな感情は,つい嫌なもの,ない方がいいもの,と思いがちです。でも,不安は大事なことだからちゃんと準備しなさいというサインかもしれませんし,怒りはあなたが大切にしているものが脅かされているよというサインかもしれません。つまり,感情は単純に抑えればよいというものではなく,自分が何を大切にしているかを教えてくれる味方であり,大切な情報源でもあります。ただし,そうした感情も強すぎたり長引いたりすると,人間関係や精神的な健康を損なう原因にもなりかねません。だからこそ,状況や目的に応じて感情と上手に付き合い,調整することが大切なのです。

ブックガイド

  • 『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』トッド・カシュダン & ロバート・ビスワス=ディーナー(著)/高橋由紀子(訳),草思社,2015年
    ポジティブな感情もネガティブな感情も受け入れて幅広く活用することの大切さを,さまざまな研究結果に基づき紹介しています。

文献

  • 1.Gross, J. J. (2015) Psychol Inq, 26, 1–26.
  • 2.Shafir, R. et al. (2015) Soc Cogn Affect Neurosci, 10, 1329–1337.
  • 3.Nozaki, Y. & Gross, J. J. (2025) J Soc Pers Relatsh, 42, 2231–2262.

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