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認定心理士の会から
“chance”か“hasard”か,“幸運”か“偶然”か
認定心理士の会のイベント案内には,思わず仕事の手が止まるようなテーマが満載です。忙しい時期ほど,専門外の話題には素通りしがちなのに,不思議ですよね。
そんなときにふと頭に浮かぶのが,フランスの化学者・微生物学者ルイ・パスツールの言葉です。ノーベル化学賞を受賞した北川進さんが“Chance favors the prepared mind”を「子どもたちに伝えたい言葉」として紹介していて,耳なじみのある方も多いはず。日本語では「幸運は準備された心に宿る」と訳されがちです。ただ,フランス語の原文は“Dans les champs de l’observation(観察の場では),le hasard ne favorise que les esprits préparés(偶然は準備された精神にのみ味方する)”。どこか印象が違いませんか? 私がまず気になるのは,訳語のズレです。英語では“chance”なので「幸運」と訳したくなる。でも,フランス語の“hasard(アザール)”は,良いことも悪いことも含む「偶然」に近い響きがあります。だから,同じ一文でも焦点が少し変わってきます。
なによりも大事なのは,冒頭の「観察の場では」です。これが入ると話は「幸運をつかむコツ」ではなく,「観察していると,準備できている人には,同じ出来事が意味のあるサイン(ヒント)として見えてくる」という話になります。授業や仕事の現場の何気ない一言も,準備があると拾えるけれど,なければ通り過ぎてしまう。「準備された心」とは,やみくもな努力というより「気づける状態」なのだと思います。
言葉や視点が増えると,ズレが見えてきます。認定心理士の会の企画は,その「観察の視点」を気軽に増やせる場所です。まずは気になる回に一つご参加を。次に出会う「偶然(アザール)」が,ちゃんとあなたの前で意味を持ち始めるはずです。
(認定心理士の会運営委員 向居 暁)
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