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低所得層や経済的弱者層の人々のための心理支援に関するAPAガイドラインの詳細
(A Closer Look at the APA Guidelines for Psychological Practice for People with Low-Income and Economic Marginalization)

原文はこちら

    日本語訳(協力:日本心理学会広報委員会)
  • 青木 俊太郎(福島県立医科大学)
  • 小林 智之(福島県立医科大学)
  • 佐藤 秀樹(福島県立医科大学)

米国では,4,800万人以上が低所得世帯にあたり,1,030万世帯以上の労働世帯は貧困所得水準の200%未満の収入で暮らしています。経済的な不平等は,死亡率の格差を拡げることになります。これまでの研究において,収入や教育レベルなどの社会経済的地位(Socio-Economic Status: SES)が,寿命・生活の質(QOL)・健康状態と有意に関係することが繰り返し確認されてきました。

低所得層や経済的弱者層(Low-Income and Economic Marginalization: LIEM)の人々のための心理支援に関するアメリカ心理学会(American Psychological Association: APA)ガイドラインは,経済的な立場によって健康状態やウェルビーイングに悪影響を受けている人々に対して,心理士が文化的な要求にあったケアを提供できるようにデザインされています。そこでは,経済的な障壁や社会的な排除のほか,質の高い学校・育児・健康保険・医療へのアクセス,文化的資源,経済的な立場により影響を受ける様々な要因について考えられています。

心理士には,ケアへのアクセスを促しサービスを提供する中で,これらの課題について配慮することが求められます。また,社会経済的な状況と様々な個人特性との関連について理解することも,LIEMの人々に関わる心理士にとっては重要です。個人特性には,例えば年齢,性別,少数民族・人種のアイデンティティ,性的指向,性自認,障がいなどがあります。

社会経済的な状況は,雇用,教育,業績,身体的・精神的健康など,心理学に関わるすべての分野と密接な関係があります。 そのため,2017年にAPA評議会は,科学的知見をまとめ,心理支援のための実証に基づくガイドラインを作成する特別委員会を設立しました。2年間の共同作業と多くの専門家によるレビューを経て,特別委員会は2019年8月にAPAによって承認されたガイドライン文書を作成しました。

打ち出されたガイドラインは9つあり,以下の4つの領域に及びます。

  • ● トレーニングと教育
  • ● 経済的な立場による健康格差
  • ● 支援上の配慮
  • ● キャリアへの懸念や失業

それぞれのガイドラインには,その価値や必要性を裏付ける根拠が記載されており,個人,コミュニティレベル,構造・政策のそれぞれのレベルで適用されます。この複数のレベルによるアプローチは,臨床,トレーニング,研究が行なわれる際に,個人の懸念だけでなく,社会的な文脈や政策にも注意を払うことの重要性を示しています。

ガイドラインでは,心理士に以下のことを奨励しています。

  • ● 社会階級に関連する自分の偏見を認め,トレーニングや教育への影響を最小限に抑えること
  • ● トレーニング,継続的な教育,スーバーバイザー,専門家への相談を通じて,社会階級による問題についての知識と理解を深めること
  • ● 経済的・社会的に弱い立場が健康格差にどのような影響を与えるかをよく理解すること
  • ● LIEM の人々が利用できる医療に対して,アクセスや質の平等を促進するように努めること
  • ● 社会階級の違いが,精神的健康への支援におけるクライエントの経験にどのような影響を与えるかを理解すること
  • ● 精神的健康への支援に対する,LIEMの人々の個人的な障壁やシステム上の障壁を減らすように努力すること
  • ● 社会経済的な状況がどのような臨床上の問題を生むのか,また支援を行う中でそれらの問題にどう対処するのが最善かを理解すること
  • ● 学業上の成功,志望するキャリア,キャリア成長といった,社会階級が生涯を通して与える影響を理解すること
  • ● 経済的不安定,失業,不完全雇用の間の関係を理解すること
  • ● それぞれの再就職の過程への貢献を試みること

まとめると,心理士は,所得の低さや経済的に弱い立場がクライエントに与える影響についての知識と理解を深めるために,たくさんの段階を踏んでいくことになります。このAPAガイドラインでは,所得の低さや経済的に弱い立場が生活・健康・ウェルビーイングに与える負の影響を最小限にするために,個人,コミュニティ,構造・政策のそれぞれのレベルで心理士が取り組むことができる実質的で実践的な行動を詳しく説明しています。

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低所得層や経済的弱者層の人々のための心理支援に関するAPAガイドラインの概要
(リンク先は英語版です)


ガイドラインをご覧になる場合はこちら

低所得層や経済的弱者層の人々のための心理支援に関するAPAガイドライン (PDF, 478KB) 
(リンク先は英語版です)

この記事は,アメリカ心理学会(American Psychological Association: APA)公式Webサイトに掲載された記事 "A Closer Look at the APA Guidelines for Psychological Practice for People with Low-Income and Economic Marginalization" を,アメリカ心理学会の許諾を得て日本語に翻訳し,必要に応じて日本向けの情報を付け加えたものです。翻訳の質や正確さの責任は日本心理学会広報委員会にあります。なお,この記事をAPAの許諾なく複製・再配布することを禁止します。ご紹介くださる際は,必ずこのページを引用してください。

This material originally appeared in English as [American Psychological Association (n.d.). A Closer Look at the APA Guidelines for Psychological Practice for People with Low-Income and Economic Marginalization. https://www.apa.org/about/policy/closer-look-liem-guidelines]. Copyright 2020 by the American Psychological Association. Translated and Adapted with permission. The American Psychological Association is not responsible for the quality or accuracy of this translation. This translation cannot be reprinted or distributed further without prior written permission from the APA.