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行動科学と病気予防:心理学的ガイダンス
(Behavioural science and disease prevention: Psychological guidance)
原文はこちら
心理学は,新型コロナウイルス感染症の拡大を抑えるのに不可欠です。なぜなら,心理学によって,われわれは行動を理解し,変容させることができるし,また心理学によって,政策やガイドラインの変更に対する人々の反応を予測できるからです。さまざまな行動が,感染予防とその成果を改善できる鍵となります。
心理学者が勧める,政策とコミュニケーションを最適化するための行動
1 「私」を最小化し,「私たち」を強調しよう
集合的な視点を作り出しましょう。そのために,どうすれば自分自身の面倒を見られるか,ではなく,どうすれば互いに面倒を見合えるかを強調するような伝え方をしましょう。
2 信頼できる情報源からの情報を,それを必要とする対象に的確な用語で伝えよう
国民は政策や戦略,情報やガイダンスを信頼する必要があります。メッセンジャーは信頼できる人物と見なされる必要があり,メッセージは的確かつ達成可能なものである必要があります。
3 恐怖ではなく心配を意識しよう
新型インフルエンザ(H1N1)など他のパンデミックに関する研究によると,手洗いやソーシャルディスタンシングなど予防行動の実施率の低さは,市民の「心配不足」と関連しています1。こうした行動を実施するよう動機づけるために「心配」を意識することは重要なのですが,高い不安は恐怖や「戦うか逃げるか」反応につながりうるため,不安レベルの高まりには注意しなければなりません。恐怖は拒絶や忌避行動につながる可能性があります2。
4 各予防行動に何が影響するかを特定して,関連するあらゆる促進要因を対象とする政策,メッセージの伝達,そして介入が確実に行われるようにしよう
行動を促進する要因は,行動を起こす能力(例えば知識やスキル),行動を可能にする機会(例えば社会のルールや物理的な資源),行動を起こす動機(例えば欲求や情動,習慣)と結びつきます3, 4。行動を起こすためには,それらすべてが存在している必要があります。
5 行動とそれらの有効性を明確に特定しよう
メッセージは,明確な行動とそれによる結果に関するアドバイスと指示を与えるものであるべきです。混乱や意図しない結果になるのを避けるために,適切な言葉を使いましょう。例えばイギリス心理学会はWHOの「ソーシャルディスタンシングではなくフィジカルディスタンシングという用語を使おう」という政策変更を支持しています。ソーシャルディスタンシングという用語を使うことで,重要な社会的相互作用を阻害してしまわないようにするためです。時に応じてオフィシャルなメッセージを変更する必要がある場合には,明確な根拠とそれに基づく一連のアクションが提供されるべきです。
6 意図しないネガティブな結果を回避しよう
政策,情報,そしてメッセージの伝達は,意図しない心理社会的な行動の結果(例えば,不安の増大,社会的剥奪の拡大,社会的孤立など)を招くかもしれない。不平等を避けるために,対象者をよく知ろう。
7 ヘルス・リテラシーにアクセスできる明確なチャンネルを作ろう
不安が高まると,私たちは認知処理がしにくくなります。複数のチャンネルから情報やメッセージが入ってくると,それに圧倒されてしまい,処理がより困難になる場合があります。アクセスしやすく信頼できるチャンネルを通じたわかりやすい伝達手段で情報を提供しましょう。
8 新型コロナウイルス感染症への対応をサポートするために,行動科学者と心理学的エビデンスを利用しよう
心理学分野の国際的なリーダーたちは,既に行動方略を用いたウイルスの管理・封じ込めについて各国政府に助言しています5, 6。学会は,新型コロナウイルス感染症に対応する地域/国レベルの取り組みをサポートしている専門家や組織に心理学の専門知識を提供することができます。戦略の策定,政策や提言,エビデンスの統合や迅速なレビュー,介入のデザインや評価,さらには心理学的アプローチによるスキルアップなどに対するアドバイスやサポートを提供することもできるでしょう。
9 学際的なアプローチを通して,協働してこの危機を乗り越えると誓います
引用文献
- 1. Rubin, L. G., H Potts, H., & Michie, S. (2010). The impact of communications about swine flu (influenza A H1N1v) on public responses to the outbreak: Results from 36 national telephone surveys in the UK. Health Technology Assessment, 14 (34), Article 3. https://doi.org/10.3310/hta14340-03
- 2. Chater, A. (2018, 20 March). Seven steps to overcoming your patient’s "fear of finding out." NursingStandard [accessed online]. https://rcni.com/nursing-standard/features/seven-steps-to-overcoming-your-patients-fear-of-finding-out-129336
- 3. Michie, S., van Stralen, M. M., & West, R. (2011). The behaviour change wheel: A new method for characterising and designing behaviour change interventions. Implementation Science, 6, Article 42. https://implementationscience.biomedcentral.com/articles/10.1186/1748-5908-6-42
- 4. Michie, S., Atkins, L., & West, R. (2014). The behaviour change wheel: A guide to designing interventions. London: Silverback.
- 5. Michie, S. (2020, 28 February). Behavioural science must be at the heart of the public health response to covid-19. BMJ opinion. https://blogs.bmj.com/bmj/2020/02/28/behavioural-science-must-be-at-the-heart-of-the-public-health-response-to-covid-19/
- 6. Michie, S. (2020, 3 March). Behavioural strategies for reducing covid-19 transmission in the general population. BMJ opinion. https://blogs.bmj.com/bmj/2020/03/03/behavioural-strategies-for-reducing-covid-19-transmission-in-the-general-population/
表1
共に新型コロナウイルス感染症と戦おう | 石鹸と水で定期的に手を洗う |
---|---|
ひじでドアを開ける | |
不要不急の外出を避ける | |
消毒用アルコールを持ち歩く | |
家族以外の他者との距離を2メートルあける | |
ティッシュを常備し,使用済みのティッシュはすぐ処分する | |
せきをする時はティッシュやひじなどで覆う | |
手で口元や鼻,目に触らない | |
友達や家族とはビデオ通話をし,できる限り家で仕事をする | |
ひどいせきや,高熱が出た場合は自宅隔離をする | |
公的なガイダンスに沿って,自分に合ったルーティンを開発する | |
能力 | なぜこれが重要? |
どうしたらメッセージに確実に注目できる? | |
どんなスキルが必要? | |
どうやって記憶を補助できる? | |
プランはどんな感じ? | |
機会 | 環境の問題にはどんなものがある?(石鹸/水/インターネット/ティッシュの準備) |
誰が助けてくれる?(ソーシャルサポート) | |
他の人は何をしている?(社会的規範) | |
社会的課題や物理的課題(人間関係/宗教/金銭)はある? | |
動機 | うまくいくという信念がどのくらいある? |
どれくらい重要? | |
感情はどんな役割を持っている? | |
アイデンティティとどのようなつながりがある? | |
克服すべき習性や無意識な処理は何? |
日本心理学会の特設サイトはこちらです。
このガイダンスは,英国心理学会(British Psychological Society: BPS)の「行動科学と疾病予防タスクフォース」が作成した "Behavioural science and disease prevention: Psychological guidance" を,英国心理学会の許諾をもと日本語に翻訳し,必要に応じて日本の状況に合わせて情報を調整したものです。翻訳の質や正確さの責任は日本心理学会広報委員会にあります。なお,この記事をBPSの許諾なく複製・再配布することを禁止します。ご紹介くださる際は,必ずこのページを引用してください。
(c) 2020 British Psychological Society
- 日本語訳(協力:日本心理学会広報委員会)
- 崔 邱好(立命館大学総合心理学部)