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4. ガイドライン1: 心理士の能力(Guideline 1: Competence of the Psychologist)

遠隔心理支援サービスを提供する心理士は,使用する技術と,その技術がクライエント・患者,スーパーバイザー、他の専門家に与える潜在的な影響の両方について、自分の能力を担保するための合理的な措置を取るように努めています。


根拠:

心理士は,自らの教育,訓練,スーパービジョンを受けた経験,コンサルテーション,研究,または専門的な経験に基づいて,自分の能力の範囲内でのみ専門的なサービスを提供するという第一の倫理的義務を負っています。広く認知された事前トレーニングの基準が未だ定まっていないすべての新しい分野と同様に,遠隔心理支援を利用する心理士は,この分野における能力を成長させるために同様の基準を適用することを望んでいます。実践の場で遠隔心理支援を利用する心理士は,有効な実践に必要な能力,トレーニング,コンサルテーション,経験,リスク管理に関する自らの実践を査定し,評価評価し続ける責任を負います。

実践への適用:

心理士が遠隔心理支援サービスを提供する際には,専門的な能力と技術的な能力の両方を継続的に評価する責任を負います。クライエント・患者にサービスを提供する際に,すでに遠隔コミュニケーションのために情報技術を利用したり,これから利用しようとしている心理士は,必要な知識や技術を身につけるために関連する専門的なトレーニングを受けるように勤めなければなりません。能力の習得には,関連する文献の批判的検討,既存のトレーニングプログラム(専門的・技術的なものなど)への参加,情報技術を利用したサービスの提供に特化した継続的な教育など,追加の教育経験やトレーニングが必要となる場合が挙げられますが,これらだけに限定されるものではありません。心理士は,同僚や他のリソースから適切な技術についてのコンサルテーションを受けることが奨励されます。

心理士は遠隔でのコミュニケーションに用いる特定の情報技術がクライエント・患者に適しているかどうか を判断するために,入手できる最新の文献,最新のアウトカム研究,クライエント・患者の選好にもとづく最も良い実践についての解説(ガイダンス)等について利用可能なエビデンスを調べることが奨励されます。特定の技術の使用については,未だ研究が行われていない場合もあり,有効性のエビデンスがない情報技術については,クライアント・患者に周知されるべきでしょう。しかし,これ自体はクライエント・患者へのサービス提供を拒否する理由にはなりません。新しい実践の分野で現在利用可能なエビデンスがないからといって,そのサービスが効果的でないとは限らないからです。さらに,心理士には,サービス提供に使用される情報技術の使用に関する意見や選択肢を文書化することが奨励されます。

心理士は,遠隔心理支援を利用するための能力について考慮する必要があることを理解するとともに,特定の技術を利用して提案された介入のリスクと利点を十分に理解し,それに参加するクライエントの能力を考慮する必要があります。心理士は,文化的,言語的,社会経済的,その他の個人の特性(例えば,病状,精神医学的安定性,身体的・認知的障害,個人的嗜好など)や組織文化が,サービス提供における情報技術の効果的な利用に影響を与える可能性があることを理解するために,相当の努力を要します。

心理士は,対面による臨床サービスを提供する際に緊急事態に対応するための訓練を受けており,クライエント・患者の危機に際して支援となるような地域のリソースに精通しています。遠隔心理支援を提供する際には,心理士は,緊急対応の連絡先(例えば,緊急電話番号,入院,地域の紹介先,サービスを提供しているパートナークリニックの臨床部門の代表者,利用可能な場合にはクライエント・患者の生活に関わる支援者)など,クライエント・患者の地域にある関連した適切な緊急時のリソースを特定し,どのように利用するかに精通しておくために相当の努力を要します。心理士は,適切なリソース,特に緊急時に必要なリソースが不足している場合や,サービスの有効性と安全性に影響を与える可能性のあるその他の関連要因に対処するための計画を立てます。心理士は,緊急時に何をすべきか(例えば自殺の危険性がある場合など)について,すべてのクライエント・患者と話し合い,明確な文書による指示を与えるように努力します。緊急時の計画の一環として,心理士は,クライエント・患者が居住する司法権利管轄の法律や規則,心理士の管轄との違いについての知識をもち,緊急時の計画を立てるための努力をすべて文書化することが奨励されています。

また,該当する心理士は,遠隔心理支援サービスがもはや必要ない場合や望ましくない場合には,クライエント・患者への支援を中断する可能性があることを念頭に置きます。もし,クライエント・患者が危機や緊急事態に直面した場合,心理士はクライエント・患者を地域の精神保健施設に紹介したり,対面でのサービスを開始したりするための合理的な措置をとります。

遠隔心理支援を用いて個人や組織に遠隔でスーパービジョンやコンサルテーションを行う心理士は,遠隔でのコミュニケーションのための情報技術がスーパービジョンやコンサルテーションにもたらす特有の問題に精通している専門家からスーパービジョンやコンサルテーションを受けることが推奨されます。遠隔心理支援を提供する心理士は,電気通信技術を介したサービスの提供に関する専門的な文献に精通し,技術的なモダリティそのものの使用にも精通しているように努めています。心理士は,遠隔心理支援を用いてスーパービジョンやコンサルテーションを行う際には,提供される専門的なサービス,スーパーバイズやコンサルテーションを受ける人がサービスを提供するための通信モダリティ,ス-パービジョンやコンサルテーションを提供するために使用される技術媒体に精通するために相当の努力を要します。さらに,スーパーバイジーのための基本的な専門能力の訓練は対面で行われることが多いため,遠隔心理支援を用いてスーパービジョンを行う心理士は,スーパーバイジーが必要とされる能力やスーパービジョンされた経験を得ることができるように,対面でのスーパービジョン時間を十分に考慮し,確保することが奨励されています。