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高校生・高校教員の方へ
高校生の皆さんへ
皆さんは,ふだんの生活の中で,自分や他の人の心や行動を知りたいと思ったことはありませんか。
心理学は,人間の心と行動を科学的に明らかにする学問です。心理学は,「生物」「地理」等と異なり,中学・高校の教科にはありません。本格的に学ぶのは大学だと思っているかもしれません。
しかし,高校においても,公民科やそのほかの教科の中で,心理学に関わる内容を学ぶことができます。ここでは,その一部を図1と表1にしたがって紹介し,高校における心理学に関わる学習を深めるための手がかりを提供したいと思います。
図1 高校の教科と心理学のかかわり(楠見,2022)
まず,1,2年生が学ぶ必履修科目『公共』(2単位)では,青年期の様々な問題を取り上げて,家族,学校,地域,社会との関わりのなかで,人々が協力して生きていくためには,どのようにしたらよいかを考えることになります(ここで学ぶことは,発達心理学,青年心理学,社会心理学に関わります)。
2,3年生が学ぶ選択科目『倫理』(2単位)では,心理学の主要な分野である,感情,認知,発達,個性などに着目して,自分というものを考え,成長するために,人間の心の在り方について理解を深めることになります。つまり,人間がどのように感じ,学び,考え,行動し,発達するか,そこにはどのような一人一人の違いがあるのかに関する心の仕組みと成り立ちの基礎を学ぶことになります(ここで学ぶことは,感情心理学,認知心理学,発達心理学,性格(パーソナリティ)の心理学の基礎になります)。
また,公民科以外の教科も心理学と関わりをもっています。
理科の『生物基礎』では,心に関わる人の神経系と内分泌系の働きを学びます。また,人の個人差の源である遺伝子の特徴を理解することになります(生理心理学の内容に関わります)。
保健体育科 『保健』は,健康であるための意思決定や,心の健康や精神疾患,さまざまな危険を避けるために必要な事柄を学びます(臨床心理学,健康・医療心理学などの応用分野の内容と関連をもっています)。
家庭科の『家庭総合』では,子どもから高齢者までの人の一生と家族・家庭の問題や,消費行動,衣食住や防災,安全・食における心の問題が関わります(発達心理学,家族心理学などと関連を持っています)。
情報科『情報I』は,情報デザインが人や社会に果たしている役割と人の心への影響についても取り上げます(社会心理学の新しいテーマと関わっています)。
数学科『数学I』のデータの分析は,心理学の実験や調査などを通して判断するための土台となります。
『総合的な探究の時間』では,自分で課題を立て,情報を集め,整理・分析して,まとめ・表現する活動に取り組みます。そこでは,文系でも理系においても,人の心や行動をテーマにして,教科の内容を深めたり,日常生活で感じた疑問を自分との関わりで取り上げることが考えられます(心理学の研究法[質問紙法,実験法,観察法,統計など]と関わります)。
また,すべての教科につながるような勉強の仕方や学習法の問題(市川,2022),特別活動におけるホームルーム活動(とくに,進路指導における適性や進路決定),生徒会活動,行事(文化祭,体育祭,旅行など)や部活動におけるリーダーシップや集団での問題解決は,心理学に関わる問題です。
このように心理学は,公民科をはじめとする様々な教科や教科外の学びや日常生活(友人や恋愛関係,親子関係,人の多様性理解,社会貢献活動など)に関わっています。これらの心理学に関わる学びを,自分と周りの人たちを理解し,より良く生きるための手がかりにしてほしいと思います。
この日本心理学会のホームページは,高校生の皆さんが心理学の学びを深めるための記事,書籍,ホームページ,そして,心理学を学べる大学を紹介しています。ぜひ活用してください。
表1 高等学校の教科・科目などにおける心理学に関わる内容と分野の例
教科・科目 | 心理学に関わる内容の例 | 対応する心理学の分野 |
---|---|---|
公民科『公共』 | 〔公共的な空間を作る私たち〕青年期の課題など | 青年心理学,社会心理学 |
公民科『倫理』 | 〘現代に生きる自己の課題と人間としての在り方生き方〙個性,感情,認知,発達 | パーソナリティ心理学,感情心理学,認知心理学,発達心理学 |
理科 『生物基礎』 |
〘ヒトの体の調節〙〔神経系と内分泌系による調節〕情報伝達と体内環境維持の仕組み 〘生物の特徴〙〔遺伝子の特徴〕 |
生理心理学 発達心理学 |
保健体育科『保健』 | 〘現代社会と健康〙〔健康の考え方〕〔健康や精神疾患の予防と回復〕〘安全な社会生活〙 | 健康・医療心理学 臨床心理学 |
家庭科 『家庭総合』 |
〘人の一生と家族・家庭及び福祉〙(1)生涯の生活設計,(2)青年期の自立と家族・家庭,(3) 子供の生活と保育および(4)高齢期の生活と福祉〕 〘持続可能な消費生活・環境〙〔消費行動と意思決定〕,〘衣食住の生活の科学と文化〙 |
発達心理学 家族心理学 福祉心理学 社会心理学 |
情報科 『情報I』 |
〘コミュニケーションと情報デザイン〙「情報デザインが人や社会に果たしている役割」「効果的なコミュニケーションを行うための情報デザインの考え方や方法」 | 社会心理学 |
数学科『数学I』 | 〘データの分析〙「データの散らばり」「 データの相関」 | 心理統計 |
『総合的な探究の時間』 | 探究課題として,心や行動に関するテーマを取り上げ,研究法(質問紙法,実験法,観察法,面接法などの方法を用いて,データを集めて,統計手法を用いて分析 | 心理学研究法 |
特別活動等 | ホームルーム活動(進路指導における適性の理解と進路決定なども含む),生徒会活動,行事(文化祭,体育祭,旅行など),部活動などにおけるリーダーシップや集団問題解決など | パーソナリティ心理学 社会心理学 |
参考文献
楠見 孝(2022).高校生に伝えたい「公民科の内と外の心理学」心理学ワールドNo.97
市川 伸一(2022).高校生に伝えたい「記憶の心理学」心理学ワールドNo.98