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私の出前授業

高校生のための心理学講座@八戸学院大学

金地美知彦
八戸学院大学健康医療学部人間健康学科 准教授

金地美知彦(かなち みちひこ)

Profile─金地美知彦
2004年,東北大学大学院文学研究科人間科学専攻博士課程後期単位取得退学。文学修士。東北大学大学院文学研究科心理学講座助手,八戸大学人間健康学部専任講師,八戸学院大学人間健康学部准教授などを経て2016年より現職。専門は感情心理学,人格心理学,心理統計教育。

2019年8月25日(日),八戸市商工会館大会議室を会場として「高校生のための心理学講座@八戸学院大学」を開催いたしました。「高校生のための心理学講座」は2012年度以降毎年全国各地で開催されていますが,東北地方ではこれまで仙台でのみの開催となっておりました。これまで講座が開催されていなかった青森,岩手,秋田の北東北3県の高校生に対しても心理学という学問をわかりやすく紹介できる機会を持てればと考え,今回,日本心理学会および八戸学院大学のご理解,ご協力をいただき,青森県八戸市で講座を開催いたしました。

講座には55名が参加し,うち40名が高校生,残りは高校教員や保護者,大学生,一般の方でした。参加者は開催地の八戸を含む青森県にお住まいの方だけでなく,岩手県,秋田県,東京都在住の方もおられました。当日は司会を務めながら,先生方の講義を拝聴しました。各講義の内容を簡単にご紹介します。

1時間目 心理学をよりよく知るために(心理学入門)【畑山俊輝先生(八戸学院大学:名誉教授)】

最初に心理学研究の特徴をとりあげながら,心理学の諸分野を概説されていました。また,心理学を学んで分かるのはどのようなことかを述べられました。講義の中で強調されていたのは心理学という学問が目的にしてきたのは何かということで,人や動物などの生き物がなぜどのように行動を起こし変化を遂げていくのか,その仕組みを明らかにしようとしてきた研究のあり方と関係していることをお話しされていました。そのためには,生理生物学的な側面だけでなく,社会や文化・言語などの影響も考慮に入れる必要のあることについても強調されました。最後に,現在の高度情報化社会は便利さと同時に多くの心の問題を生み出しており,こうした問題の解決に心理学が大きい役割を果たしてきたことに触れておられました。

2時間目 ものを見るとはどういうことか(認知心理学)【佐藤手織先生(八戸工業大学)】

最初に,ものを見るときの刺激要因と主体要因の関与の程度により「感覚」「知覚」「認知」の現象に区別できることを説明され,そして主体要因を強調した知覚理論として「間接知覚論」を紹介されていました。その際に,参加者に向性検査を回答してもらい,同時に,間接知覚論についての納得度を訊ね,内向的な人ほど間接知覚論を肯定する人が多いという傾向を実証するという工夫をされていました。その後,本論として,①感覚:精神物理学の法則や対比・順応・残効,②知覚:恒常性およびそれに関連した錯視群,③認知:文脈効果や構え,価値観等について詳細に講義していただきました。視覚的なデモンストレーションを多用した講義で,参加者のみなさまも認知心理学の基本要素について実体験として理解をすることができたのではないかと思います。

3時間目 心理学的支援と公認心理師(臨床心理学)【安達知郎先生(弘前大学)】

他者に適切な心理学的支援を行うには,認知,感情,行動といったいろいろな観点から支援をしていく必要があり,認知心理学や感情心理学等の基礎心理学の知識が必要であるとの説明がありました。加えて,人間関係改善の支援も求められることが多く,社会心理学の知識も必要であるとのことでした。続いて心理学的支援の実際として2種類の心理検査(中学生用基礎スキル尺度,バウムテスト)を各参加者に実施してもらい,質問紙法と投影法の2種類の検査方法について概説をいただきました。最後に公認心理師と臨床心理士の2種類の資格の紹介があり,臨床心理士が基礎心理学の知識よりも現場での支援技術の習得を重視していた資格だったのに対し,公認心理師は基礎心理学の知識をきっちり習得することが求められる点が異なっているとのことでした。公認心理師資格については興味を持っていた高校生も多く,講義後に多数の質問が寄せられました。将来,公認心理師取得を考えていたみなさまにとって有用な講義になったのではないかと思われます。

4時間目 血液型と性格(人格心理学)【金地美知彦(八戸学院大学)】

専門外ではありますが高校生のみなさまが興味を持つテーマとして「血液型と性格」の関係を取り上げてみました。日本で血液型による性格診断が文化として定着をした経緯について説明をした上で,実際には血液型と性格の間には(ほぼ)関連が見られないことを実証した研究を数点紹介いたしました。その上で,血液型と性格が関係があるように感じてしまう理由として,バーナム効果およびステレオタイプという心理学的バイアスが関わっていることを説明いたしました。最後に血液型等何らかの観点から性格をタイプ分けする捉え方を「類型論」と呼ぶが,現在はビッグ5等の「特性論」で性格を捉えることが主流になっているという話をして講義を閉じました。参加された高校生も血液型と性格は関係があると信じていた方が結構多く,講座後のアンケートに今回の講義を受けて驚いたという感想も寄せられました。

5時間目 なぜ他者に左右されるのか(社会心理学)【山本雄大先生(八戸学院大学)】

まず,私たちの行動が行為者のパーソナリティや感情といった内的要因によってのみ規定されているわけではなく,他者や集団といった環境要因によっても大きな影響を受けていることを指摘されました。次いで,社会心理学はこのような環境要因が行動や心理に与える影響について,研究を進めてきた学問領域であるとの説明がありました。続いて,他者や集団が心理過程に与える影響について,ラタネたちによる煙が充満する部屋での実験(実験中に部屋に煙が出てきた場合,1人で実験を受けているときには実験者に報告をするが,3人で実験を受けている時には無視して実験を続ける)やアッシュの同調実験(周囲がそろって誤った解答をすると自分も合わせて誤った解答をしてしまう)等の紹介がありました。様々な研究の知見を通して参加者も他者の存在や状況的圧力が様々な形で私たちの行動や心理に影響していることを実感されたのではないかと思います。

講座を受講した高校生からは,「心理学に関する興味が増した」「大学で心理学を勉強したいという意欲がより強くなった」「お話がそれぞれ面白く50分間があっという間に感じた」といった肯定的な感想を多数いただきました。また「公認心理師について説明を聞くことができよかった」「進路や将来の夢を決める材料になった」といったように進路選択の情報源として役立ったとの声も多数ありました。八戸は人口30万人弱の小都市でもあり毎年の講座開催は難しいですが,また数年後にぜひ開催できればと考えております。

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