ベクションとは何だ!?
妹尾武治
まさか「ベクション」のようなニッチなテーマで,まるまる一冊本を書く好機を与えられることになるとは全く予想だにしなかった事態であった。しかし編集の石井徹也さん,解説の鈴木宏昭先生に何度確認しても「ベクションだけで一冊書いて良い」とのこと。驚きを禁じ得ないまま,「もしかすると何かしらのドッキリ企画か?」という思いを消せないまま執筆に取り組んだ。ベクションに終始した,そんな本が売れるのか?
しかし,やるからには,驚くほど幅広くベクションについて完璧に学べる本にしよう,そんな思いで取り組んだ。ニッチだなと侮って読んでもらって全く構わない。読後には,必ず驚きが待ち構えているはずだ。「ニッチで些末な本どころか,知覚心理学の大事なこと,その本質がしっかり学べる本ではないか!」そんな声が聞こえてくるように,一生懸命執筆した。
ここではあえて「ベクション」とはなんであるかについては触れない。それは本書を読んでもらえば全てがわかるから。気になった方は,是非一冊お手元に置いて欲しい。
自閉症と感覚過敏 特有な世界はなぜ生まれ,どう支援すべきか?
熊谷高幸
最近,自閉症の当事者による本が多く出版され,非常によく読まれている。そこで多く述べられているのが感覚過敏についてである。自閉症者の親や支援者と話しても,感覚過敏に関する話題は多い。私は,以前から,このテーマで共同研究を進めようと,専門家に声をかけてきた。しかし,「でも,どうやって?」と,ためらいの反応が多かった。
感覚過敏とは人の内部で起きていることだから,客観性を旨とする科学では扱いにくい。さらに,感覚といっても視覚,聴覚,触覚など種類が多く,また,いつ,どこで,何に,どのような影響を受けたか,は各人各様である。だが,そうはいっても,当人には,現に大きな問題を引き起こしている。特有な感覚の中にいるため,他の人々と注意や行動を共有しにくく,また,感覚は記憶され,その後の行動に大きな影響を及ぼす。
本書では,多くの事例をもとに,感覚過敏が自閉症をどう生成するのか,モデル化してみた。心理学とは主観を客観視する学問である。その意味では,これは本命となる領域のひとつかもしれない。
美の起源 アートの行動生物学
渡辺 茂
「美」というものについては,それが私たちの外に存在するという立場と私たちの中にこそある,という二つの立場があるように思う。実はこの二つは相互に作用している。美の進化的起源とは性選択を含む過去の環境によって美が形作られてきたことを意味する。もちろん,様々な文化進化がヒトの美意識を高度に洗練されたものにしたことは疑い得ないが,生物学的進化基盤があるならば,ヒト以外の動物にその萌芽を求めることは自然な発想である。
美は感性強化なのだが,動物にとってヒトの創り出す美が強化効果を持つか,という問いと,動物が創り出すものが人にとって美と感じられるか,という問いは別のものである。美には刺激として弁別刺激特性と強化特性があり,それを作り出すためには運動技能が必要である。その行動は自己強化で維持されるが,作り出されたものは社会によって美として認められ,他者にとって強化効果を持たなくてはならない。この本はこのような立場から著者自身の実験を含めて様々な動物研究を平易に紹介したものである。
援助要請と被援助志向性の心理学 困っていても助けを求められない人の理解と援助
水野治久
カウンセリングによる援助の必要性がある人ほどカウンセリングに繋がれない……学校,福祉,医療など対人援助サービスに関わっている方には思い当たる節があるのではないでしょうか?
人生は課題とどう向き合うかが重要なテーマですが,自分で課題を解決できない場合,「助けて」と言えることが大事です。このテーマは被援助志向性・援助要請と言われていて我が国ではここ20年ほど研究が行われるようになってきました。本書は概念の説明から様々な援助場面での応用まで視野に入れ執筆されています。
本書は,本邦初の対人援助領域の助けを求める意識や行動に注目した書籍です。日本国内のこの領域の研究者と実践者総勢24名の知恵を結集させました。この本の監修者として何よりも嬉しかったのは,この領域の世界的権威である豪州・キャンベラ大学教授のデボラ・リックウッド先生に序文を寄せて頂いたことです。
私たちは一人では生きていけません。上手に助けを求めて生きていく。本書の執筆者の共通の思いです。