「かわいい」のちから
実験で探るその心理
入戸野 宏
「かわいい」ってなんだろう? そんな疑問をきっかけに手探りで研究を始めてから12年が経ちます。道半ばですが,これまでの知見を整理してみたのが本書です。
「かわいい」は,私たちの日常生活に浸透しています。しかし,科学的な探究はあまり行われていません。その理由として,海外ではごく最近まで「cute」の価値が著しく低かったことが挙げられます。さらに,「cute」と「かわいい」は同じ意味でもないのです。本書では,その違いを明確に説明しています。相違点が分かれば,海外研究者とのコミュニケーションがとりやすくなり,日本からの情報発信も増えていくはずです。
「かわいい」を実証的に調べられると確信したのは,かわいい写真を見ている人の表情筋活動を電気生理学的に測定したときでした。ゆるいテーマを扱うときほど,方法論は厳密にします。本書のコラムでは,実験法の原理や再現可能性の問題についても触れました。
巻末には,これまで国内外で行われた「かわいい」研究の文献リストを載せました。資料集としてもお使いいただけます。
対人関係の発達心理学
子どもたちの世界に近づく,とらえる
岸本 健
子どもと接していて,意外に思うこと,驚くことはありませんか? 私にはあります。十数年間,私が子どもについて研究を続けてこられた理由の一つは,子どもを観察する中で,新たな発見をするであろう確信がいまだ尽きないからです。本書は,そんな確信を持ち続けている7人によってまとめられました。
本書の編者である川上と髙井は,子どもたちの世界へ分け入り,その意外な生態を明らかにしてきた研究者です。「新生児も笑う」「赤ちゃんのストレスを唾液で測る」といった,2人の味のある研究がどのような経緯ではじまり,どのように進められたのでしょう。本書の随所に,その「研究小史」が記されています。加えて本書には,2人の研究を,5人の著者がどう評価し,自分の研究に位置づけ,発展させるかが記されています。新生児の笑いは胎児やヒト以外の霊長類の笑いの発見へ,ストレスの研究は赤ちゃんの嘘泣きの発見へと結びつきました。
子ども研究の「これまで」と「これから」をつなぐバトンとしての本書を,ぜひお楽しみください。
テロリズムの心理学
越智啓太
東京オリンピック開催を間近にひかえ,警察など多くの行政官庁がテロ対策のための準備を進めています。一方,われわれ多くの一般市民は海外で発生しているような大規模なテロがわが国で発生するわけなどないと思っているのではないでしょうか。しかし,じつは日本はテロとつねに密接に関わってきているのです。たとえば,世界最初の大規模な化学テロは東京で発生したものでありますし,国際的なテロ集団である日本赤軍の出自も日本です。また三菱重工爆破事件などさまざまな爆弾テロも過去には発生しています。
そもそもテロはなぜ発生するのでしょうか。この問題についてはいままで国際政治学者などによって研究されてきましたが,テロは個人や人間の集団がある思想に基づいて行う攻撃行動なわけですから,心理学者もその問題の解決には貢献できるはずです。そこで,我々はテロを理解し,予測し,対処するための心理学的な研究をさまざまな観点から行ってきました。本書はこのような研究の一つの成果としてまとめたものです。テロ理解の一助になれば幸いです。
情報環世界
身体とAIの間であそぶガイドブック
渡邊淳司
生物は身体器官の制約に基づく,閉じられた世界で生きています。ヤーコプ・フォン・ユクスキュルはこれを「環世界」という言葉で表しました。例えば,蝶は紫外線に感度があり,その環世界に紫外線が存在しますが,同じ環境でも人間のそれには紫外線は存在しません。そして,現在のモバイル技術やインターネット環境を考えると,同じ空間やウェブにいても,提示される情報が異なり,現代の私たちは情報という視点でも閉じられた「情報環世界」に生きていると言えます。本書は,一七名の研究者やアーティストが,五ヵ月にわたってこの新しい概念に向き合い,その中で多様な人々が豊かに生きるための方法論を探究した試行錯誤のプロセスが記されています。現在,すべての人に対する情報を制御するという考え方は,機能しなくなっています。では,私たち自身,そして私たちと情報との関係をどのように捉えるべきなのか? 本書には,その問いに対する論考だけでなく,問いを共有し対話するためのユニークなワークショップの数々が記されていますので,ぜひ,お試しください!
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