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ここでも活きてる心理学

大学改革・評価と心理学

独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構 研究開発部 教授

渋井 進(しぶい すすむ)

Profile─渋井 進
東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は実験心理学。

国際会議出張先のバーレーンにて
国際会議出張先のバーレーンにて

私は大学改革支援・学位授与機構(以下,機構)という組織の研究開発部の教員を務めています。おそらく本稿をご覧いただいている皆さんの多くは,機構の名前を聞いたことがないでしょう。行っている業務はいくつかあり,大きく分けると,大学評価と学位授与の二つの業務で,その基礎となる研究開発部があります。同じような文部科学省所管の独立行政法人として,大学入試センターの研究開発部には,心理の研究者が多くいるので,馴染みがあるかもしれません。

顔表情の研究から大学評価に!?

私の元々の専門は顔の表情の識別に関する実験心理学的研究です。表情の心理学の研究を行っている人が,なぜ大学評価の研究機関へ採用されたのでしょうか。「評価の訪問調査の際に大学が嘘をついているのを見抜くためではないか?」とたまに言われることがありますが,そんな面白い理由ではありません。おそらくは,既存の研究枠組みではない新たな分野である大学評価の研究には,高等教育を専門とする人材だけではなく,多様な人材を確保する必要があるということと,顔表情の分析に係る多変量解析で培った,統計処理に関する知識を持ち合わせていることが評価されたのではないかと思っています。

評価とコミュニケーション

私は鹿児島大学の評価関連部署にも在籍していたのですが,大学と機構で評価に携わって来た中で,良い評価のあり方とはどのようなものか,ずっと考えてきました。その答えを得るためにまず,評価を認知心理学的な情報伝達のモデルとして捉えるアプローチを行ってきました。大学と機構の間,さらには大学の中では本部と部局や各委員会,機構の中では評価員や事務局などで,評価の指標やエビデンスとして,どのような情報が伝達されて評価の判定がなされるかを可視化する研究を行ってきました。

また,評価を通じた改革には,多くの人の利害が絡みます。大学の本部や部局の教職員,在校生,卒業生,政府,一般社会の人たちなど,多様なステークホルダーがいます。例えば,大学の自主・自律性と政策誘導の関係は,最近の大学改革の大きなテーマでしょう。鹿児島大学にいた際に,評価を通して改革をする必要性を強く感じる一方で,長年培われてきた地方国立大学の良さについても感じることがありました。良い評価とは多くのステークホルダーの持つ,トレードオフする要素を最適化するように調整することで,大学の自主性を保ちつつ,改善へ結びつける評価だと考えるようになりました。

これを円滑に遂行する能力として,心理学的なものの見方が助けになる時もありますが,ここまで書いてあまり関係ないとも思えてきました。相手のことを考えて,いろんな会議の中で説得をして,皆が納得できる落とし所を決めるのは,心理学を学んで得られるスキルとは違うかもしれません。大学の構成員を説得するために,同じ大学人としての他者の立場を尊重する柔軟性や,矜持が必要でしょう。ただ,会議で落とし所を探るべく,顔色を伺っている時に,私はみんなの表情を他の人よりも多く見ているかもしれません。

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