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【小特集】

意識調査にみるPTAと母親

有馬 明恵
東京女子大学現代教養学部 教授

有馬 明恵(ありま あきえ)

Profile─有馬 明恵
慶應義塾大学大学院社会学研究科社会学専攻博士課程単位取得満期退学。博士(社会学)。専門は社会心理学,ジェンダー論,メディア論。著書は『内容分析の方法』(ナカニシヤ出版)など。

下島 裕美
杏林大学保健学部 教授

下島 裕美(しもじま ゆみ)

Profile─下島 裕美
慶應義塾大学大学院社会学研究科心理学専攻後期博士課程単位取得退学。博士(心理学)。専門は認知心理学,発達心理学。著書は『自伝的記憶の心理学』(共編著,北大路書房)など。

毎年4月になると,PTAの役員決めで母親たちは憂鬱になる。多くの学校で「PTA役員は子どもが在学中に必ず一回はやる」ことが暗黙の了解となっている。会議は平日日中に開催されることが多いが,子どもが人質となっているような状況でPTA役員を断り続けることは難しく,仕事を持つ母親の多くは有給休暇を使ってPTA活動に参加する。個人が特定されないネット上では「PTAは本当に必要なのか」「やりたい人だけがやればいい」などPTAに対する否定的な意見が散見されるが,実際のところ,保護者はPTAについてどう考えているのだろうか。本稿では,第一子が都内公立小学校2〜6年に在籍する保護者を対象に行ったPTA活動についての三つのWeb調査(①役員経験なしの父母各270名,②役員経験ありの母親450名,③役員経験ありの母親有職・無職各200名)の結果の一部を報告する。

父親と母親の意識の違い

PTA役員は母親であることが多い。調査①で,PTA活動を「母親が担うべき」かを「1.まったくそう思わない」から「5.非常にそう思う」の5段階評定で回答を求めたところ,「全くそう思わない」「あまりそう思わない」と回答した母親(54%)は父親(33%)よりも多かった。

役員を引き受けてこなかった理由は「私的理由」「公的理由」「人間関係」の三つに分類され,「人間関係」では父親よりも母親の得点が高かった。学校という場で活動するのは母親であることが多いが,母親はPTA役員を引き受ける前から人間関係のトラブルを経験し,PTA活動を行う中でさらにそのトラブルが顕在化する懸念を抱いている可能性がある。調査①における自由記述の記入率は父親(45%)よりも母親(70%)が高く,多くが否定的であった。退会希望者は父親(27%)よりも母親(36%)のほうが多かったことからも,自分が近い将来PTA役員になるかもしれないという母親の切迫感の高さと父親の現実感のなさがうかがえる。

保護者はPTAを拒絶しているか

今後のPTA活動のあり方について,「このまま存続すべき」「活動内容を検討すべき」「活動の進め方を検討すべき」「全てなくすべき」「わからない・考えたことがない」の5択で回答を求めたところ,父親母親ともに「活動内容を検討すべき(27.8%, 23.0%)」「活動の進め方を検討すべき(34.1%, 38.5%)」が多く,「全てなくすべき(5.9%, 8.5%)」は少なかった。保護者はPTAの活動の内容や進め方には不満であるが,PTAの存在そのものを無意味だとは思っていない。

特に働く母親がPTAに非協力的であると捉えられがちだが,調査③では役員経験回数は,働く母親は2.08回,専業主婦は1.79回であり,働く母親が非協力的とはいえない。また部長・委員長経験者は,働く母親(38名)のほうが専業主婦(22名)より多かった。出校頻度は就労の有無による差はなく,「月2〜3回」「月1回」「2ヵ月に1回以下」がそれぞれ3割弱,「週1回以上」が2割弱であった。

肯定的側面と否定的側面

調査③では「PTA役員を引き受けた理由」15項目について尋ねた。「卒業までに一度は引き受けなければならなかったから(M=4.20)」は「3.どちらともいえない(5段階評定)」よりも有意に得点が高かった。次に得点の高い「学校の様子を知りたかったから(M=3.07)」「子どもに関することを知りたかったから(M=2.88)」は3との差は有意ではなかった。また「役員経験に対する満足感」14項目について尋ねた。「社会とのつながり」「日常生活の息抜き」「地域の人たちとのつながり」「自分の特技をいかせた」「子どもが自分を誇りに思った」は「3.どちらともいえない」より有意に得点が低く,「子どもたちが喜んだ」は有意に得点が高かった。「母親たちと子育ての話し合い」「お母さんと友達」「先生の情報入手」「親しいお母さんと活動」は3より有意に得点が高かった。PTAを引き受けた理由は「一度はやらなければならないから」という消極的なものだが,役員経験後には人間関係の広がりに満足しているのである。

同じく調査③で,PTAを変えていくことは容易(24%)ではなく難しい(76%)と母親たちは考えていた。また,PTA活動の10の変更案に「1.非常に反対」から「5.非常に賛成」までと「6.既に行っている」の6択で回答を求めたところ,「会議を土日に開催(12.0%)」「SNSの活用による効率化(11.0%)」「地域活動に協力(10.8%)」「ポイント制の導入(10.0%)」はある程度行われていた。働く母親に配慮した活動日時の設定,無駄な会合の廃止が行われつつあるが,地域の行事にPTAが協力する慣例が残っており,ポイント制により個々の事情を考慮せずにPTA活動に公平に協力させるシステムが構築されつつあるといえる。賛成の程度が極めて高かったのは,「活動内容の厳選(M=4.29)」と「SNS活用による効率化(M=3.75)」であり,就労の有無による差はなかった。母親たちはPTA活動の効率化を強く望んでいるが,専業主婦は有職者よりも平日昼間の会議を「平日夜(M=2.28 vs. M=3.07)」や「土日(M=2.57 vs. M=3.12)」に開催することに難色を示していた。

PTA活動が嫌われる理由

役員の担い手である母親たちに一律に同じことを求める同調圧力が母親たちを苦しめていると思われる。その一つが「負担は公平に」という圧力である。調査③では,家庭の事情(11項目)と個人の事情(19項目)により「本部役員・委員会の委員長」と「一般役員」のそれぞれについて,「1.免除されるべき」「2.免除されてもよい」「3.免除されるべきではない」の3択で回答を求めた。「本部役員・委員長」は,「キャリアアップのための状況(M=2.82)」「職業的地位(M=2.69)」「家族の状況(M=2.26)」「下の子の問題(M=2.06)」「役員経験(M=1.99)」「健康問題(M=1.74)」の6因子が得られた。「一般役員」については,「キャリアアップのための状況(M=2.85)」「職業的地位(M=2.76)」「家族の状況(下の子の問題を含む)(M=2.29)」「役員経験(M=2.11)」「健康問題(M=1.89)」の5因子が得られた。役職に関わらず,「就労」に関する事情により役員が免除されることは希であるが,「役員経験」や「健康問題」には寛容な態度が示された。どの母親にも起こりうる普遍的な事情には理解が示されるが,一部の母親にしか該当しない特殊な事情により役員が免除されることはないのである。

二つ目は,役員活動に求められる均質性,すなわち母親たちは同じように活動すべきという同調圧力である。調査②の「役員を引き受けた理由」「役員を引き受けたくなかった理由」「役員経験による自身の変化」「小学校とPTAの理想的な関係」などに対する回答をクラスター分析したところ,母親たちは「子どものために活動する母親」「PTAに批判的な母親」「控え目な母親」「社会活動好きな母親」「合理的な母親」の5つに分類された。「社会活動好きな母親」は,積極的に役員を引き受け,先生たちと自分たちは対等であるという信念に基づき子どもたちのために熱心に活動する。ところが,この母親たちのPTA活動への適応は芳しくなく,役員終了後の満足度も低い。PTA活動への適応に優れ役員経験による自己の成長を肯定的に評価していたのは,前例踏襲や学校の下働きを望む仕事に忙しい母親たちや仕方なく役員を引き受けた消極的な母親たちであった。

また調査③から,母親たちは役員就任時に「他の保護者とうまくやらなければならない(M=3.91)」「他のお母さんたちと同じようにPTAの仕事をきちんとこなさなければならない(M=3.72)」というプレッシャーを強く感じていた。加えて,専業主婦は働く母親に「専業主婦と同じように活動してほしい(M=3.27 vs. M=2.42)」「家でできることを積極的に引き受けてほしい(M=3.87 vs. M=3.50)」と考えていた。さらに,自由記述において,専業主婦は「仕事を理由に会合を休む」と有職者を痛烈に批判した。働く母親たちは,仕事で培ったパソコンスキルを活用した資料作り等で,欠席の埋め合わせをすることはできないのである。

総括

以上より,個々の事情やPTA活動に対する思い,得手不得手等に関わらず,PTAは「母親」という全員に共通する役割に期待されていることを果たすべき場といえる。規範から逸脱することは由々しき事であるため,同調圧力でお互いを縛り合う。そうした圧力に母親たちは辟易しているのであろう。しかし,母親たちはPTAを無意味であるとは思わない。活動内容を厳選し,効率的な運営により子どもたちの成長に寄与したいと考えているのである。

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