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【小特集】

向社会行動という観点からのPTA活動

奈良女子大学文学部 教授

中山 満子(なかやま みちこ)

Profile─中山 満子
大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程退学。博士(人間科学)。大阪市立大学大学院創造都市研究科助教授などを経て現職。専門は対人心理学,社会心理学。著書は『知覚:身体的リアリティの諸相』(分担執筆,ユニオンプレスより近刊予定)など。

はじめに

図1 PTA 活動を経験した保護者の考え(単位は%、小数点第二位以下を四捨五入)
図1 PTA 活動を経験した保護者の考え(単位は%、小数点第二位以下を四捨五入)

多くの母親にとって,授業参観や運動会などの行事のときに学校に出向き,わが子の姿を見ることは楽しみであり,生活の中で優先順位の高いイベントだろう。しかし,PTA役員や各種の委員などが回ってくるとなると,とたんに後ろ向きになり,押しつけ合いになる。

PTA活動には,活動の意義がわかりにくい,活動時間の制約が多い,選出方法に納得できないなど数々の問題が存在していることは確かである。しかし,そのような議論が必要なことは踏まえたうえで,まず図1を見ていただきたい。これは中山(2016)において,「PTA活動についてのあなたの考えをお聞きします」として,各項目に自分の考えがどれくらいあてはまるかを5件法で回答してもらった結果の一部であり,一度でもPTA活動に参加したことのある母親120名のデータである。

例えば「PTA活動をすることで自分に新しい友達ができた」「他のPTA会員と楽しく活動することができた」という項目は,「非常によくあてはまる」「わりとあてはまる」への回答をあわせると60%以上にのぼる。調査はWeb上で調査会社のモニターを対象にして実施しているため,「学校や先生に配慮した回答」というようなものではなく,PTA活動経験のある母親たちの正直な回答だろう。

つまりPTA活動に参加した多くの人たちは,活動によってある種の「成果」を得ているのである。小論では,このような活動参加によって得られた成果の認識がPTAのみならず他の社会活動への参加意向にもつながるということを示し,PTA活動の正の側面について述べてみたい。

向社会行動としてのPTA活動

小論で紹介する研究は,妹尾と高木のボランティア活動に関する一連の研究から着想を得た調査である。PTA活動には確かに負担が伴う。程度の差はあれ,自分の都合や時間を犠牲にして,わが子だけでなく学校のための活動をしなければならない。その意味で,PTA活動は,ボランティア活動と共通性を有する一種の向社会行動という観点から検討することができる。

妹尾と高木(2003)は,ボランティア活動が,条件によっては将来の援助行動を促進するなど援助者自身にも肯定的な効果を及ぼすことを明らかにしている。また妹尾(2008)は若者のボランティア活動について,「活動参加が自発的な意思決定によるかどうかにかかわらず,ひとたび活動に参加し,その活動を通じて自らの行動の役立ちが実感できれば,活動に満足し,以後ボランティア活動を継続することが示唆された(p.39)」と述べている。

言うまでもなく,PTAへの参加は必ずしも自発的ではない。しかし,活動を通して一定の成果認識が得られれば,またPTA活動に参加しようという意欲,さらには他の社会活動にも参加してみようという意欲へと展開する可能性もあるのではないか。そう考えたのが,小論で紹介する調査を行うきっかけであった。

PTAで得られる成果と社会活動への参加

調査(中山,2016)では,子どもが幼稚園から中学生までの間に経験したPTA活動について回答してもらうために,調査時点で10歳から15歳の子どもを持つ母親200名のデータを収集し,そのうち一度でもPTA活動に参加した経験があると答えた120名を分析対象とした(平均年齢43.5歳)。なお,ここでのPTA活動とは,いわゆる役員や委員などに限らず,単発での行事のお手伝いなども幅広く含んでいる。

質問項目としては,参加したPTA活動の実態(活動の頻度や負担感など),PTA活動への参加動機,参加によって得られた成果に対する認識を問い,さらに今後,PTA活動,ボランティア活動,自治会・町内会等の地域の活動にどれくらい積極的に関わりたいと思うかなどについて尋ねた。また向社会性の指標としての向社会行動尺度にも回答を求めた。

参加動機としては,「興味があったから」「やりがいがあると感じたから」「学校と深く関わりたいから」などの自発性・積極性を示す因子のみ高い信頼性が得られ,この得点を分析に用いた。成果認識としては,「人に認められた」「自分自身を認めることができた」「自分が好ましい人間であることを感じさせてくれた」などの「自己評価の高揚」因子と,「他のPTA会員と楽しく活動することができた」「積極的に学校や地域に参加できた」「自分に新しい友達ができた」などの「人間関係の広がり」因子という,意味合いの異なる2因子を抽出した。

中山(2016)では,実際に活動して感じた負担感の高低別に,向社会行動と成果認識がその後の社会活動への参加意欲にどのように影響するかについて検討しているが,小論では,参加動機を分析に投入した結果について述べたいと思う。中山(2016)では,概して高負担群で,PTA活動による成果認識がPTA活動やボランティア活動への参加意向へ正の影響を及ぼすことを指摘した。

しかし,そもそも自発的にPTA活動に参加したのか,あるいはくじ引きや何らかの圧力によるものなのかという動機や理由の違いによって,次もまたPTA活動に参加しようとする意欲に違いがあると考えるのが自然だろう。そこで,説明変数としてstep1に動機の自発性を,step2に負担感と成果認識を投入し,PTA活動,ボランティア活動,自治会・町内会など地域の活動への参加意向を予測する階層的重回帰分析を行った。その結果,動機の自発性を統制した上でも,成果認識のうちの「人間関係の広がり」がPTA活動への参加意向に有意な正の影響を与えていた。また,PTA活動で得られた成果認識が,他の社会活動への参加意向に影響を及ぼすかについても分析したところ,継続的なボランティア活動への参加には,成果認識の「自己評価の高揚」「人間関係の広がり」が正の影響を持つことが示された。

まとめると,もともとPTA活動に興味を持ち,自発的に関わろうという意欲を持つ母親たちは,PTA活動を経験した後に,再度PTAに積極的に関わろうという意欲を持つだけでなく,ボランティア活動など他の社会活動へ参加意向を有する傾向にある。これに加えて,実際に活動して得られた成果認識が,再度PTA活動に参加しようという意欲のみならず,ボランティア活動などへの参加意向にもつながるのである。

おわりに

本論の最初に,PTA活動に参加した経験を持つ多くの母親が何らかの「成果」の感覚を得ていることを示した。図1に示した肯定的な回答の多い項目は,成果の中でも主に「人間関係の広がり」という側面に該当する。分析においても,「人間関係の広がり」を得ることが社会参加への意向につながることが示された。またPTA活動によって得られた成果認識が予測するのは,単発的なボランティア活動ではなく,他者とともに行う継続的なボランティア活動への参加であった。

つまり,様々な課題があることは踏まえた上でも,PTA活動を『他者とともに活動する機会』と前向きにとらえることもできるのではないだろうか。たとえ抽選や断れない事情で最初はしぶしぶの参加であったとしても,活動してみると意外と楽しいことも多く,社会とのつながりを促す実りある経験になりうるのではないかと思われる。

文献

  • 中山満子(2016)PTA活動経験が向社会への参加意向に及ぼす影響.『対人社会心理学研究』  16 , 41-46.
  • 妹尾香織(2008)若者におけるボランティア活動とその経験効果.『花園大学社会福祉学部研究紀要』  16 , 35-42.
  • 妹尾香織・高木修(2003)援助行動経験が援助者自身に与える効果:地域で活動するボランティアに見られる援助成果.『社会心理学研究』  18 , 106-118.

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