- HOME
- 刊行物のご案内
- 心理学ワールド
- 83号 商品広告と選択
- 教育研究委員会 調査小委員会から
教育研究委員会 調査小委員会から
調査報告の書籍出版について
日本心理学会教育研究委員会は,日本心理学会が,研究の成果を社会に還元し,社会のニーズに応じた心理学教育や,さらに高校生以下に対する心理学教育について検討するために,2011年に発足しました。その中の調査小委員会は,市民の心理学へのニーズや心理学教育の現状を把握する役割を担ってきました。
本稿で紹介する調査小委員会では,市民,小中高教員,大学,心理学会員,心理学以外の学会の会員を対象とした5回の調査を行い,その結果を日本心理学会のウェブページに公開してきました(https://psych.or.jp/about/iinkai_kyoiku/)。さらに,その調査結果を,会員だけでなく,広く社会の人たち,高校生にわかりやすく伝えるために,心理学叢書の1冊として『心理学って何だろうか?:四千人の調査から見える期待と現実』として,誠信書房から出版しました。ここでは,本の紹介をかねて,これまでの調査結果の一部を紹介します。
1章「誰もがみんな心理学者?:日常生活で役立てるために」(楠見孝)では,20〜60代の2,107人の市民に対する調査に基づいて,市民の心理学への関心は高いが,知識や理解は必ずしも十分でないこと,さらに,心理学へのニーズを探りました。そして,市民が考える心理学と学問としての心理学のギャップはどこにあり,どのようにそれを解消するかについて述べました。
2章「学校の先生に使ってほしい・教えてほしい心理学」(楠見)では,小中高の1,548人の先生に対して調査を行い,教員が持つ心理学の知識や,心理学は教育実践に役立つか,さらに,小中高で心理学を教えることの賛否について検討しました。教員の心理学知識は市民よりもやや高く,高校以下で心理学を教えることについては6割が賛成をしていました。
3章「大学ではどんな心理学を教わるの?:深く学ぶために」(岡田謙介・星野崇宏)と4章「心理学の卒業論文は社会で役立つのか?:リサーチスキルの現代的意味」(山祐嗣)では,全国443大学の調査の結果に基づいて,心理学教育の現状と,心理学教育(とくに卒業論文の作成)を通して学生のリサーチスキルを育成していることについて,解説・議論しています。
5章「心理学者は誰の心も見透かせるの?:学問とニセ科学の違い」(菊池聡)では,日本心理学会員434人の調査の結果を踏まえて,心理学における科学/疑似科学の区別や,誤解を解くための活動の必要性などについて論じています。
6章「心理学は他の学問分野から引く手あまた:学問の垣根を越えて」(三浦麻子)では,心理学会会員調査の結果のうち,共同研究の現状に関するデータと,他の学問分野の研究者717人に対する調査データを踏まえて,他分野との共同研究が多くはない現状と,共同研究が,心理学についての理解度や学問的,社会的必要性の評価を高めていることを示しています。
さらに,コラムⅠ「心理学者に会いに行こう!:市民と高校生のための心理学公開講座」(池田まさみ・邑本俊亮)では,講演出版等企画小委員会の活動を紹介し,コラムⅡ「心理学ミュージアムへようこそ!」(重森雅嘉・武田美亜)は,博物館小委員会が運営しているコンテスト形式の展示による心理学バーチャルミュージアムの現状と今後について紹介しています。
最後に,大学調査および会員調査にご協力いただきました会員の皆様にお礼申し上げます。また,委員会の発足以来お世話になりました当時の日本心理学会担当常務理事・教育研究委員会委員長の仁平義明先生,同じく担当常務理事の内田伸子先生をはじめ常務理事の先生方,調査小委員会第1期の益谷真委員をはじめとする委員の先生方に感謝申し上げます。
(調査小委員会委員長・京都大学教授 楠見 孝)
PDFをダウンロード
1