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ここでも活きてる心理学

ココロとモノをつなぐ化粧心理学であるために

資生堂グローバルイノベーションセンター 研究員

佐藤 智穂(さとう ちほ)

Profile─佐藤 智穂
2008年,東北大学文学部(心理学)卒業。2010年,東北大学大学院文学研究科博士課程前期(心理学)修了。2010年,株式会社資生堂入社。専門は化粧心理学。

使うときの気持ちを想像しながら研究を行っています
使うときの気持ちを想像しながら研究を行っています

「化粧心理学」と聞いて,どのような研究を思い浮かべるでしょうか。大学で初めて心理学に触れたとき,研究対象が多種多様なことにとても驚きましたが,化粧に関わる心理学の関心領域もまた多種多様です。化粧療法のような臨床的な研究から,メイクアップによる錯視や顔の印象変化などの知覚・認知心理学的研究,化粧品の使用や香りの提示前後の感情やストレスの変化を捉える感情・生理心理学的研究,化粧意識の時代や文化差に関する社会・文化心理学的研究というように心理学の各領域で化粧をテーマとした研究が行われています。

「化粧」というと一般的には「顔を美しく見えるようにすること」という意味であり,主にメイクアップの意味で用いられますが,薬事法の「化粧品」の定義には「身体を清潔にし」「皮膚もしくは毛髪を健やかに保つ」とあり,スキンケアやヘアケアも含まれます。加えて,フレグランスも香りで印象を演出する化粧といえます。

私は,大学・大学院とメイクアップの錯視効果や化粧に関わる形と印象の関連について研究を行っていました。そして,実社会で研究を活かしたいと思い,資生堂に入社しました。最近では化粧をテーマとした研究を心理学の学会で見かけることも珍しくなくなり,私のように卒論で化粧をテーマとして選ぶ学生さんも多いと聞きます。ですが,化粧が心理学の研究対象となってから,まだそれほど長い時間は経っていません。

資生堂が化粧の心理学的研究を始めた1980年代頃の化粧に対する世間の眼差しは今よりも冷ややかだったと聞きます。化粧には心を,そして心を通して身体を元気にするちからがあります。私自身,くじけそうになったとき,化粧のちからに励まされ癒されたことが何度もありました。現在では,そんな化粧のちからが認められ,化粧療法の活用も広がりを見せています。

もちろん,前向きではない社会規範としての化粧の習慣や過剰な外見重視の姿勢は,それがストレッサーとなりネガティブな影響をもたらすこともあると思います。化粧との関わり方をポジティブなものに変えたい,化粧をすることを楽しんでほしい。そんな想いで仕事をしています。化粧の効用やそのメカニズムを心理学は示すことができる。さらには心理学が化粧との新たな関わり方を拓いてくれるかもしれない。そう考えて研究をしています。

心理学の様々な知見を化粧場面に応用したときに何ができるのか,心理学の分野に囚われずに活用していきたいとの想いから,今回,専門は「化粧心理学」と書いてみました。心理学の「人を科学する」という視点は実社会そして企業にとって非常に有用な考え方です。しかし,それを社会に届けるためにはモノ(商品)との関わりを抜きには語れません。

実際にはモノを通したコトの影響が大きい場合もありますが,心理学で見出された知見を化粧品に落とし込み,消費者の心に響かせるにはどうすればよいのか。やるべきことはわかっていても,現実はなかなか上手くいきません。それでも,心理学の知見を化粧品を通して届けようともがくことが,化粧品会社の研究員としての責務だと感じています。ココロとモノをつなぐ化粧心理学を目指して,日々精進していきたいと思います。

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