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【小特集】

アバターとの対話による司法面接訓練

萩野谷俊平
Postdoctoral Fellow of Psychology, New York University Shanghai

萩野谷俊平(はぎのや しゅんぺい)

Profile─萩野谷俊平
2018年7月まで栃木県警察本部 刑事部科学捜査研究所 主任。2018年より現職。専門は法心理学,捜査心理学。著書に『犯罪者プロファイリング研究:住居対象侵入窃盗事件の分析』(単著,北大路書房)がある。

子どもへの性的虐待と司法面接

子どもに対する性的虐待では,物的な証拠が得られるケースはまれであり(World Health Organization, 2003),子どもの証言が唯一の証拠であることも少なくありません(Lamb, 1995)。子どもへの面接では,誘導的な発問方法によって証言が歪められる可能性がある一方で(e.g., Finnilä et al., 2003),子どもはオープン質問(「お話しして」「それから」など)に対して信頼できる情報を提供できることが多くの研究から示されています(e.g., Allwood et al., 2008)。そのため,虐待被害が疑われる子どもへの面接では,オープン質問を主体とした面接技術を身につけることが求められています。

日本では,被面接者から正確で歪みのない情報を収集することを目的とした面接法である司法面接が,犯罪被害が疑われる子どもから聴取をする技法として,警察や検察,児童相談所といった機関で活用されています。司法面接の研修は,立命館大学の仲真紀子教授を中心に実施されており,子どもへの面接に関する幅広い知識や技術を学ぶ訓練が実務家に提供されています。

面接訓練の課題とアバタートレーニング

発問技術の向上や維持には,面接者への継続的なサポートやフィードバックが重要です(e.g., Lamb et al., 2007)。一方で,これらの手続きを長期的に実施するには多大な時間と費用がかかります。この課題を踏まえて,短時間で,かつ簡便な方法で面接技術を改善する訓練プロトコルとして,アバタートレーニングが開発されました。

アバタートレーニングは,フィンランドのオーボ・アカデミー大学を中心とした国際プロジェクトとして始まりました。現在は,英国,イタリア,フィンランド,日本などの国々で協働して研究開発が進められています。

図1 面接シミュレーションの様子
図1 面接シミュレーションの様子

このトレーニングは,名前のとおりコンピュータの画面上に現れる「アバター」を用いた面接訓練です(図1)。専用のアプリケーションには複数のアバターが実装されており,それぞれが性的虐待被害を疑われるに至った背景のシナリオを持っています。面接は本物の子どもとの会話と同じように自由に口頭で話しかけることで進められ,面接者はアバターとのリアルな対話を通して虐待の有無の判断に必要な情報を引き出すよう求められます。こうした面接を複数のアバターと行うことで,面接技術の改善を目指します。

アバタートレーニングの構成

図2 面接シミュレーションの構成
図2 面接シミュレーションの構成

面接シミュレーションでは,発問の分類に習熟したオペレータが面接者の質問を聞き取り,分類・コード化してアプリケーションに入力することで,返答選択アルゴリズムが自動的にアバターの返答を選択・再生します(図2)。アルゴリズムでは,発問の分類(誘いかけ,はい・いいえなど)ごとにアバターの返答パターン(「うん」「うーうん」「知らない」など)とそれぞれの返答が選択される確率が,虐待の被害児童への面接記録を分析した研究や実験研究の結果に基づいて設定されています。

アバタートレーニングを実施するアプリケーションは,ウェブ版とデスクトップ版の2種類が開発されています。遠隔で実施したい場合はウェブ版で,インターネット環境が乏しい職場等ではデスクトップ版で訓練が実施できます。こうした実施環境の柔軟さは,アバタートレーニングの一つの利点となっており,従来行われてきた集合研修では難しかった定期的な訓練も比較的容易に実施することができます。

アバタートレーニングの訓練効果

一連の研究(e.g., Haginoya et al., 2020; Pompedda et al., 2015)では,アバターとの面接の後に,事案の結末(虐待が疑われた状況で実際は何が起こっていたのかに関する結末の記述)と発問方法(面接中に使用された望ましい質問と望ましくない質問)に関するフィードバックを提供する重要性が指摘されています。これらの研究から,フィードバックを受け取った面接者が,フィードバックを受け取らずに面接を繰り返した場合に比べて,より高い割合で望ましい質問を使用するようになることが示されています(図3)。

図3 アバタートレーニングにおけるフィードバックの効果 (大学生32名:Haginoya et al., 2020)
図3 アバタートレーニングにおけるフィードバックの効果 (大学生32名:Haginoya et al., 2020)

今後の展開

アバタートレーニングによる発問方法の改善は,一連の研究で繰り返し確認されています。しかしながら,訓練効果を確かなものとするためには,トレーニングで改善した技術が実際の子どもへの面接に転移する必要があります。現在はイタリアとエストニアの実験で,模擬イベントを体験した子どもへの面接において,アバタートレーニングを受講した面接者がより多くの望ましい質問を使用したことが示されています(Pompedda et al., 2020)。今後は,日本において同様の実験研究を実施するとともに,トレーニングを受講した実務家による虐待の被害児童への面接においても訓練効果の転移が認められるかを検証する必要があります。

訓練の効率性の面では,オペレータによる発問分類をAIに置き換えることで,アバタートレーニングを自動化することも,トレーニングの利用しやすさを大きく向上させる要素となります。現在,私たちは面接者の発問を分類する機械学習モデルの構築に取り組んでおり,自動化したアバタートレーニングの検証実験を計画しています。

文献

  • Allwood, C. M., Innes-Ker, Å. H., Homgren, J., & Fredin, G. (2008). Children’s and adults’ realism in their event-recall confidence in responses to free recall and focused questions. Psychology, Crime & Law, 14, 529–547.
  • Finnilä, K., Mahlberg, N., Santtila, P. et al. (2003). Validity of a test of children’s suggestibility for predicting responses to two interview situations differing in their degree of suggestiveness. Journal of Experimental Child Psychology, 85, 32–49.
  • Haginoya, S., Yamamoto, S., Pompedda, F. et al. (2020). Online simulation training of child sexual abuse interviews with feedback improves interview quality in Japanese university students. Frontiers in Psychology, 11, 998.
  • Lamb, M. E. (1995). The investigation of child sexual abuse. Journal of Child Sexual Abuse, 3(4), 93–106.
  • Lamb, M. E., Orbach, Y., Hershkowitz, I. et al. (2007). Structured forensic interview protocols improve the quality and informativeness of investigative interviews with children. Child Abuse and Neglect, 31, 1201–1231.
  • Pompedda, F., Palu, A., Kask, K. et al. (2020). Transfer of simulated interview training effects into interviews with children exposed to a mock event. Nordic Psychology.
  • Pompedda, F., Zappalà, A., & Santtila, P. (2015). Simulations of child sexual abuse interviews using avatars paired with feedback improves interview quality. Psychology, Crime & Law, 21, 28–52.
  • World Health Organization. (2003). Guidelines for medico-legal care for victims of sexual violence.

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